表裏一体

*1

英雄諸君に告ぐ。

集え、我が元に。
競え、我が為に。

我は創造神。
全てを支配する者。



礼儀も何もあったものではない。
この手紙に初めて目を通した時、彼はそう思った。主旨をはっきり伝えない曖昧さ、他人を見下す喋り口、自らを神と称する傲慢さ。全てが礼儀知らずも甚だしい、王子たる彼に対する態度として似つかわしくないものであった。
しかし彼はその手紙を握りしめ、あの丘の上まで来ていた。
その時、彼の脳内には無礼な手紙の送り主のことなど微塵も存在せず、ただただ丘の上にそびえる美しくも荘厳な白い屋敷を見上げて嘆息した。

「綺麗なところだ…」

そう彼が呟いた瞬間、一際強い風が彼の蒼い髪を揺らめかせた。



「――ルス、マルス!早く起きろよ」

「んん…?」

マルスは騒がしくドアを叩く音に顔をしかめながら蒼の瞳を開いた。しばらく状況が理解出来なかったが、ドアの外の人物が「朝飯なくなるぞ」と言う声で気付いた。

「…夢か」

それもこの屋敷に来た時の夢。懐かしいやら気味が悪いやらで、マルスはベッドから身を起こす。そしてまだドアの外から騒がしく喚く人物を黙らせるべく、内側から勢いよくドアを押し開けた。
案の定というかマルスの予想通り、ロイがドアの真ん前に立っていたらしく、マルスが勢いよく開いたドアはロイの顔面にクリーンヒット。ロイはドアの前で蹲った。

「おはよう、ロイ」

爽やかに朝の挨拶を述べる王子。ロイは涙目になりながらも「おう」と返した。

マルスはだいぶ寝坊したようで、ロイを伴って訪れた食堂にはほとんど人はいなかった。遅めの朝食を作り直してくれたリンクは、目玉焼きの乗ったトーストの皿と、ウインナーとポテトサラダの皿をマルスの前に置きながら笑った。

「珍しいですね。貴方が寝坊とは」

言いながらマルスの向かいの椅子に腰掛ける。遅れてロイがコーヒーを三杯お盆にのせてキッチンから顔を出し、リンク同様コーヒーを並び終えると手近な椅子に腰掛けた。
マルスはコーヒーカップに手を添えながら微笑む。

「昨日遅くまで“社会契約論”を読んでいたせいだろう…他国の経済学は実に興味深い」

マルスは優雅にコーヒーを口に運ぶ。このまま英字新聞でも広げかねない優雅さだ。
しかしロイは、幼さの残る顔に悪戯っ子のような笑みを浮かべて机の上に身を乗り出した。

「嘘言え、お前今魔法使えるようになろうと練習中なんだろ?夜な夜なお前の部屋から怪しげな呪文めいた声が聞こえるぞ」

「完全無欠な僕が練習などする訳ないだろう。ただ、読書の合間にボルガノンがロイの部屋に撃ち込めるか試しただけさ」

「いきなり炎系最強魔法!?」

「なんでまた魔法なんかを?十分剣術でやっていけるでしょう」

「いいかい、リンク。僕は負けることが嫌いなんだ。…あの超能力少年に“剣しか扱えないなんて応用力ないよねー”とか言われて引き下がるようじゃ、僕のプライドが許さないだろう?!」

「…ネスに言われたんですか」

「ネスってどうしてそんなにマルスを敵対視してるんだ?」

非常に倦怠感溢れる時間が過ぎていく。時々マルスがヒートアップするが、それ以外は他愛もない話で、午前とも午後ともつかない時間を三人は送っていた。
しかしそれも唐突に終わりを告げる。

「みんなみんなぁぁ!」

ピカチュウが大慌てで中庭から食堂に飛び込んできた。何故かピカチュウは体中のあちこちに火傷のような跡がある。マルスはコーヒーをすすったが、リンクとロイは立ち上がって「どうした!?」と鋭く尋ねた。
しかしピカチュウがそれに答えるより早く、外に遊びに出掛けていた子供達や、車を磨いていたファルコンまでがピカチュウ同様食堂に雪崩れ込んだ。皆一様に服は焼け焦げ、皮膚には火傷の跡があった。
いよいよもって様子がおかしいので、ようやくマルスがコーヒーを置いて立ち上がった。よく通る声で、騒然とした食堂を静める。

「静かにしたまえ…一体何があった?」

「変な雨が降ってきたんだ…見てごらんよ」

子供リンクが、いつになく真剣な表情で窓の外を指差した。つられてマルスとリンクとロイが外へ目をやると、そこには普段の景色から一線を博した光景が広がっていた。

先程まで晴天であった空は突如として現れた厚い雲に覆われ、その黒い雲からは大量の雨が降り注いでいる。しかしその実、雨のような形状をした赤い物質が大地に次々と衝突し、緑の丘を赤黒く変色させて焦がしてゆくのだった。

「なんだアレ…」

呆然としたロイが誰とはなしに呟く。皆返答を求めるように辺りを見渡したが、その答えを知る者はここに存在しなかった。

「怪我の具合はどうですか」

急激な話題転換ではあったが、重要性のある問いをかけるリンク。それには一番最後にリビングに飛び込んで来たネスが答えた。

「ちょっと肌がヒリヒリするけど…治療すればすぐ治ると思うよ。皆でドクターの所に行ってく…」

「待ちたまえ」

唐突にマルスがネスの提案を遮った。ネスは恨めしげにマルスを見つめたが、マルスは一向に気にする様子もなく続けた。

「こんなに怪我人がいるんだ。患者が動くよりも、ドクターに動いてもらったほうが効率がいいだろう…リンク、ロイ、僕たち三人で手分けしてドクターを探しに行こう」

「おう」

ロイがいち早く相槌を打ち、慌てた様子で部屋を後にする。リンクも無言で頷くと、ロイとは逆方向に向かって駆け出した。一足遅れた形のマルスも、広間の大扉を押す腕に力を込めた。

[ 2/37 ]

[*prev] [next#]


[←main]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -