共食い狂想曲

*26

子リンが特攻をかけ、ネスが援護する。ネスが突っ込む時は、子リンが後方から援護。初めは一糸乱れぬ連携プレーを見せていた二人だったが、倒しても倒しても起き上がるマーティンのしぶとさに次第に息が上がり――と言ってもそれはネスだけのことだったが――徐々に二人の動きにはばらつきが見え始めていた。
ズレの生じた連携は、転じて隙へと変わる。後方に下がろうとしたネスが床に散らばった瓦礫につまづき、「あっ」と短い悲鳴を上げて転んだ。そこへマーティンが襲いかかるが、慌てて子リンが助けに入る。しかし隙だらけな子リンの急襲はあえなく返り討ちに遭い、結果ネスと子リンはマーティンの影から伸びた蔓のようなものにがんじ絡めにされてしまった。

「ぅあ…っ」

「この、ネスを離せ!」

ネスはそのまま勢い良く壁に叩き付けられ、ぐったりと沈黙してしまう。一方子リンは床に押さえ付けられたまま身動きが取れず、ただマーティンを睨み付けることしか出来ない。
マーティンはといえば、ようやく動きを封じた子供二人を満足げに見つめた。

「楽しかったよ」

言いながらマーティンはネスの元に近付いて行く。その言葉は真実のようで、残忍な表情を浮かべるマーティンの顔にはそこはかとなく愉快そうな色がありありと窺える。ネスは力なくマーティンを目だけで捉えるだけだったが、子リンは何とかこの戒めから逃れようと懸命にもがいた。しかし彼の体に巻き付く蔓は、さらに彼をきつく締め上げるだけだった。

「人間にしては上出来さ。これで君を食べれば、また味も格別というものだ」

マーティンはネスの前で足を止めた。ネスは依然ぐったりとしていたが、恐怖の感覚は戻ってきたようで、マーティンの残酷な笑みを見ると恐れ慄いたように目を見開いた。

「待って!待ってよ!!」

が、唐突に彼の背後から子リンの叫び声が上がった。子リンは蔓にぐるぐる巻きにされながらも、きりとマーティンを見据える。マーティンは最初こそ興味なさげに無視していたが、子リンはしつこく叫んだ。

「ネスを食べる前に、僕を食べなよ!僕だったらネスよりも肉付きいいし、絶対おいしいよ、うん」

「はぁ?」

子リンの叫びは、自暴自棄もいいところのように思われた。ここでネスが先に食べられようと、子リンが先に食べられようと、結果的には何ら変わりはないのだ。故にマーティンは多分に嘲笑を孕んだ溜め息を吐きながら子リンを振り返った。

「君、馬鹿じゃないの?僕が君に気を取られているうちに助けが来るとでも思ってる訳?」

些か子供らしくない表情の少年は、くるりと踵を返して子リンの元へと歩み寄って来た。

「それとも単なる自己満かな?自分は友人の身代わりになって死んだのだと、自覚しながら死んでいきたいのかい?」

「……」

子リンを締め上げていた蔓は、ゆるゆると彼の体を持ち上げてマーティンの前に立たせた。マーティンはじっと品定めするように子リンを見つめている。
なるほど確かに線の細いネスよりは、子リンの体はがっしりしているだろう。マーティンは念のためにその辺の床で転がっているマルスを見た。彼は身動き一つしなかった。

「…どうせ君も食べちゃうつもりだったし、そんなに言うんだったら望み通り――」

初めこそ独り言のように呟いていたマーティンだが、マルスから視線を外した彼はがっと子リンの服の襟を掴んで引き裂き首元を晒け出させた。

「食べてあげるよ!!」

絶体絶命なのかもしれない。恐怖に身を固くしていたネスは真っ白になりかける頭で必死に思考を続けた。子リンが自分の身代わりを買って出たことまでは理解がいった。しかしそれを止めるだけの力がネスには残っていなかった。
と、そこに開くはずのない厨房の扉がバタンと開き、小さな影が二つ闖入してきた。はぐれていたカービィとピカチュウである。しかし二人が室内の状況を把握するより早く、マーティンは子リンの首筋に噛みついていた。

「ぅあ…あぁ、ぁぁ――ッ!」

およそ人間離れした鋭さを持つ歯を深々と子リンの肉に食い込ませ、裂けた部分から吹き出す血のしぶきに喜悦の表情を浮かべる幽霊の少年。子リンは悲鳴を上げ、その体は痛みにのけぞり、一層吹き出す血潮の量は増す。
ネスは絶句するしかなかった。勿論それはピカチュウとカービィにも言えたことで、三人は仲間の一大事に助けに行くことはおろか、声を上げることすら出来なかった。

「…子リンを放して!」

それでもいち早く衝撃から立ち直ったカービィが叫ぶ。依然ネスとピカチュウは茫然自失となっていたが、百戦錬磨の星の戦士はやはり越えてきた修羅場の数が違うらしい。
カービィはファイナルカッターでマーティンを子リンから遠ざけ、彼を守るようにマーティンと対峙した。マーティンの手から離れた子リンは、ドサリと床に伏しどくどくと流れ出る首の血を手で押さえた。

「くそ…っ痛い…」

わずかに子勇者がそうぼやくのを聞き流し、カービィはきっとマーティンを見据える。しかし見やった先の少年には、少なからず奇異な変化があった。

少年は、己の手に滴る子勇者の血を呆然と見つめていた。

初めは怪訝そうにしていた表情を徐々に憎悪の様相に変え、しまいには激した様子でカービィ――ではなく、その後ろで蹲る子リンに怒鳴る。

「…っ貴様!一体これはどういうことだ!?」

どういうことだとはどういうことだ。カービィは意味が分からずマーティンをそのまま見つめていた。恐怖心の中にも僅かな好奇心が芽生えたらしく、ピカチュウの耳がぴくりと揺れる。

問われた方の子リンは無言だった。
当然の結果だ。彼は首からの出血が酷い。もしかすると動脈までマーティンの歯が届いていたのかもしれない。いきおい不安が押し寄せるネスたちだが、しかし子リンは無言のまま立ち上がった。

立ち上がった子リンはしばしの沈黙を挟んだ後、血の気の失せた顔で一言答えた。

「僕がヒトじゃないってことさ」

[ 26/36 ]

[*prev] [next#]


[←main]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -