共食い狂想曲

*23

しかし対する子リンとネスの反応は冷たい。少しも心配する素振りを見せないのだ。マーティンは今さらながら今回この屋敷に来たメンバーのタフさに驚きを隠せないでいた。
それでもなんとか気を取り直して意識のないマルスを指し示して叫ぶ。

「これがどういう意味だか分からないほど君たちは馬鹿じゃないだろう…?さぁ、仲間を助けたかったら早く僕にその体を食べさ「PKファイヤー!!」

マーティンの台詞を無視してネスの攻撃が炸裂する。マルスに当てないでおこうというような配慮は全くない。寧ろ当たれば万歳ぐらいの勢いである。マーティンは「うそぉぉぉぉぉ!?」と悲鳴を上げながら逃げ惑った。その際マルスからは手を離していた。
どさりとマルスが床に墜落する。本当に意識はないらしい。が、血も涙もない子供二人はその一切を無視してマーティンを鋭く睨んだのだった。

「僕たちがアホ王子の命一つでガタガタ言う訳ないでしょ。人選ミスだっつーの」

「やっと見付けたぞ親大将。さっさと観念してネスの魂を返すことだ」

ネスが呆れ口調で言うと、子リンが子供らしからぬ口調と眼付きで凄む。彼も色々苦労してきたんだなぁ、と見当違いな感慨を抱いていたネスはふと先程のエミリーとの会話を思い出し、マーティンと対峙した今若干の居心地の悪さを覚えていた。

『マーティンだけが悲しんでくれた』

エミリーの言葉には、この屋敷に起きた悲惨な事件を示唆するものが秘められているように思えてならない。そう思うとネスは素直にマーティンに攻撃を加えるのがどうしても躊躇われるのだった。

「ま、戦う時はまた別な話だけどね」

「誰に話してんの?ネス」

「いーや、こっちの話っ」

二人は朗らかに笑むと、一切の緊張感もなくバットとブーメランを構える。マーティンはその玩具じみた武器に思わず失笑を漏らした。

「君たち、僕を馬鹿にするのも大概にしてくれよ。そんな子供の玩具で僕を倒せる訳が…」

「ごちゃごちゃうるさいよ」

緩い曲線の軌道を辿り、子リンのブーメランがマーティンの脇をかすめる。マーティンがそれを避けた刹那、いつの間にか距離を詰めていたネスのバットがきらりと光った。
幽霊のマーティンではあるが、今までの戦いから実証されたように物理攻撃はちゃんと当たる。
マーティンは何とかそのネスのバットをかいくぐって避けた。が、そこへ先のブーメランが弧を描いて戻ってくる。ぽてんと間の抜けた音がしてマーティンの頭にブーメランが当たり、怯んだ彼に子リンの回転斬りが直撃。

「ぬ…!?」

しかし大きく吹き飛ばされたかと思われたマーティンの体は、ネスのPSIでその場にとどめられる。ネスの念力によってふわりと回転したマーティンの体は刹那凄まじい勢いで厨房のレンガの壁に叩き付けられていた。

老朽化した壁はその衝撃に耐え切れず粉々に崩れ去る。狭い厨房にもうもうと粉塵が舞い上がった。

「見たか、僕らの連携プレー」

二人で声を揃えてネスと子リンは粉塵の中のマーティンに言う。するとその砂埃がばさりと割れて、無傷のマーティンが姿を現した。

「なかなかやるね。でも残念、僕はそう簡単にはくたばらないし、そもそも僕を倒したら困るのは君たちだよ?」

「…何?」

ネスと子リンは怪訝そうに眉をひそめる。マーティンは口角を吊り上げて彼らを見下ろすように宙に飛び上がった。

「僕が消滅したら、ネスの魂も一緒に地獄に落ちるんだからね!」

先程マルスを倒した時の文句と同じものを叫び、マーティンは高らかに笑った。事実ネスは「何だって!?」と悲鳴を上げ、目を見開いて彼を見上げた。

しかし。

「別に構わないよ」

それだけ呟いて子リンはだんと一歩を踏み出す。ネスは泣き出しそうな顔で「え?そこは構ってよ!」と言うが、既に子リンはマーティンに斬りかかっていた。突然の少年の攻撃に、マーティンはとっさに腕を硬質なものに変形させて応戦する。
鍔迫り合いとなった二人だが、子リンはにやりと笑ってネスにも聞こえるように囁いた。

「確かに君は凄い幽霊だ。でも結局はポゥと一緒なのさ」

ポゥとは、リンクらの祖国ハイラルにいる幽霊のモンスターである。そのポゥは姿を消す“霊体化”と姿を現す“実体化”を繰り返しリンクを翻弄したが、実体化している最中に倒されると強制的に霊体に戻され消滅していた。

「君は今、ヒトを“食べる”という行為を可能にするために“実体化”している。ということは、叩き続ければ霊体に戻る一瞬があるはずだ」

「…それが、どうした」

マーティンは薄ら笑いを浮かべた。当然ネスも訳が分からないという表情をしている。
子リンはふと表情を和らげ、声のトーンを上げた。

「ネス、幽霊は食べたことはあるかい?」

「…は?そんなのある訳…」

ネスは眉根を寄せて答えかけ、そのまま固まった。マーティンは怪訝そうに二人を見守っているが、衝撃から立ち直ったネスがいやいやと言うように首を振って後退る。

「ちょっと待って、子リン…君が言いたいのは、まさか――」

「そのまさかだよ、ネス」

「…さっきから何をごちゃごちゃ言っている!」

マーティンが腕に力を込めて子リンを圧倒し、苛立たしげに怒鳴った。慌ててネスが子リンの横に並んでバットで加勢し、再びその均衡は保たれる。子リンはかっと目を見開き、にぃと口角を吊り上げ、珍しく興奮気味に叫んだ。

「マーティンはネスの魂を取り込んだ。だから今度は、ネスがマーティンの霊体を食べちゃえばいいのさ!」

そこで子リンとネスがマーティンを後ろに突き飛ばし、子リンの叫びに呆然としたマーティンにまた攻撃を加えた。しかし一旦マーティンとの距離が空くと、ネスはばっと子リンを振り返る。

「ちょ、待って!僕幽霊なんて食べれないよ!!」

「大丈夫だって、僕だっていつもポゥ食べてるから」

「それとこれとは話が別だよ!」

そこで再びマーティンと対峙する二人。一抹の不安を残して、この三人の戦闘は激しさを増してゆく。

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