共食い狂想曲

*14

「PKフラッシュ!」

カービィとピカチュウが時間を稼ぐ間に、最大まで溜めておいたPKフラッシュをネスはここぞとばかりに放つ。一気に敵は半減したが、それでもその数は数えるのが億劫になるほどだ。

『キリがないよ』

ピカチュウが苦々しげにそう漏らす。そろそろ疲労も溜まり、変わらぬ光景に(カービィに関しては変わらぬ味に)飽きが回ってきたのである。しかし一番運動量の多いはずの子リンは相変わらず涼しい表情で、一声「皆頭気をつけてねー」と呼びかけると、昨晩使った金色の弓矢を取り出した。一度に5本の矢をつがえ、その手に魔力を込めてぎりと弦を引く。そうして勢いよく飛び出した弓矢はまばゆい光を放ちながら次々と幽霊を射抜いていく。矢そのものに当たった者は勿論、その光の波動に僅かでも触れた者は跡形もなく掻き消えていった。

「子リンすごーい」

カービィの呑気な感嘆の声が上がる。そんなカービィを一瞥し、新たに矢をつがえながら子リンは笑った。

「カービィもそろそろ本気になりなよ」

軽い調子の子リンとは裏腹に、意外なことを言われたというような表情で一瞬カービィの動きが止まる。しかしそれも本当に一瞬のことで、誰もカービィの挙動には気付かなかった。

「これで終わりだ!PKサンダー!!」

最後に放たれたネスの技で、浮足立っていた幽霊たちは完全に消し飛び、廊下はつかの間の静寂を取り戻した。

「…さぁ、マーティン君のところへ行こうか」

パチンと剣を鞘に収め、マルスらとはぐれたことにも一切の動揺を示さず子リンが呟く。ネス、ピカチュウ、カービィは神妙に頷いて彼の後に従った。

『…って、子リンってこの屋敷来るの初めてでしょ?マーティン君が何処にいるか知ってるの?』

ノリツッコミのようなタイミングでピカチュウが指摘すると、ネスも今さらながら納得したように頷いた。しかし子リンは小さく肩をすくめる。

「ダンジョンに雰囲気が似てるからさ…何となく一番強いヤツが何処にいるか分かるんだ」

『…恐るべき職業病だよね』

賛美すべきか、怪奇と捉えるべきかは判断のつきかねる特技だが、とりあえず現在は彼の言葉に従う他ない。
時々現れる幽霊たちを情け容赦なく殲滅しながら、子供たちは奥へ奥へと進んでいった。

と、唐突に先頭の子リンがその足を止めた。同時に空気が変わり、ピリピリと張り詰めた緊張感が辺りを支配する。全員が一斉に戦闘態勢に入った。が、敵の姿は一向に現れなかった。

「ネス!伏せてっ」

子リンが叫ぶ。慌ててネスがその場に屈むと、頭上すれすれを見えない何かが通過した。何とか立ち上がってきっと手元のヨーヨーを握り直し、虚空を見据える。子リンは続けて叫んだ。

「左斜め後ろ!」

方向の指示を受け、深く考えずにヨーヨーを繰り出す。一見何も無いように見えた空間だが、しかしネスは確かな手応えを得ていた。間を空けずにピカチュウが狙いを定めて雷を落とす。電光は不自然に一ヶ所に集約していた。

『コソコソと隠れるなんて真似止めてよね。こっちにはきちんと見えてるんだから』

「えー、ピカちゃん見えてるの?」

今発覚した新事実にカービィが驚きの声を上げる。そういえば無駄に本格的なお経唱えてたしなぁ…とネスは昨日の出来事を回想していた。

「…ふふふ、凄いわね。私たちが“見える”なんて」

突如聞こえた女の声に、ネスは意識を引き戻した。その声はピカチュウの電撃が放たれた場所から聞こえてくる。子供たちは我知らず半歩後退った。意外にも、それは子リンも同様だった。

「…まさかとは思うけど…これはちょーっとヤバいかも」

子リンが呟いた瞬間、その場の空気が一段と重くなった。体中が悲鳴を上げて、逃げなければと警鐘を鳴らしているのにそれが出来ない。唯一これと同様の状態に昨夜陥ったことのあるネスは、混乱の最中にある友人たちにテレパシーで呼び掛けた。

『金縛りだ!』

勿論そんな事が分かったところでパニックが収まる訳はない。が、それはこの子供たちが普通の子供たちだった場合のみ通用する常識だ。
ピカチュウは目に見えて“だったら抵抗してもしょうがないか”という表情になったし、カービィも声さえ出せれば「ボク初めて金縛りにあったよ〜」と言い出しそうな様子である。子リンに至っては溜め息すら吐きそうな調子だった。
が、すっかり子供たちが恐怖にすくんでいると思ったのか、何処からともなく先程の声が高笑いを響かせながら子供たちの頭上にその姿を現した。何もない空間に炎を巻き散らすようにして現れた三つの青白い光は、ゆっくりと形を変えて徐々に人型を取っていく。

「なかなか肝の据わった坊やたちね!」

と、先程の女の声。その横から豪快な笑い声が被さる。

「はっはぁ!いいねぇ、活きのいい獲物は何年ぶりだったか」

「ラナザック、マーティン坊っちゃんの言いつけをよもや忘れてはおるまいな」

豪快な声にしゃがれた老人の声が呼び掛ける。現れたのは黒髪を高い位置で結んだ背の高い女に、短い茶髪のがっちりした中年男、それから執事らしきスーツに身を包んだ厳しそうな顔立ちの白髪の老人の幽霊。勿論それらは全て金縛りにあっているネスたちの頭上で行われるやり取りであるので、子供たちにはどのような者が現れたのか知る術はなかった。

「さぁて、どの子から料理しようかしら?」

女は血色の悪い舌でべろりと唇を舐めた。品定めをするように子供たちを見下ろす。が、刹那その異変に気付いた。

「――…!?一人足りない…!」

「なんじゃと…」

老人の声も同時に上がる。確かにその場には鼠とピンク球、そして子供が二人いたはずだ。しかし改めて見るとそこには金髪の少年がいない。

「こっちだよ」

唐突に少年特有のソプラノトーンが響く。瞬時に幽霊三人が身を翻すとそのすれすれを少年の放った金色の矢がかすめた。それを合図に四方の扉に散り散りに走り出す子供たち。それを見届けた女は驚愕の叫び声を上げた。

「馬鹿な!金縛りをかけたはず…」

「残念だけど」

その叫びを聞いた子リンは僅かに肩越しに彼らを見やると薄く笑んだ。そうして懐からなにやら透明なものを取り出す。それは部屋の微かな明かりにきらめいた。

「空きビンには邪悪を跳ね返す力があるんだ。これのおかげで長時間の金縛りは僕らには効かないって訳」

「――な…」

絶句する女をよそに、残りの幽霊二人は逃げる子供たちを勝手に追い始めている。それを見た女も負けじと四方向に散った子供たちのうちの一人に狙いを定めて、追跡を開始したのだった。

[ 14/36 ]

[*prev] [next#]


[←main]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -