「テニスをしよう」

春の陽気から若干暑くなり始めた初夏の日の昼時、お決まりの定食を運んでもはや自分達の指定席となっているテーブルに運ぶとそれを待っていたかのように恭介は開口一番に言った。
それを聞いて嗚呼またどっかの漫画の影響だな、とたいして驚きもせずに『いただきます』と手を合わせ食事を始める。
それに理樹が「ナマエ完全無視!?」とツッコみながらも恭介にも返答してくれるのでありがたく食べ続ける。

「青春とはすなわちスポーツ。勿論野球もいいがテニスもやりたいと思わないか」
「いや、別に……元々野球も良く分からなかったけど」
「テニスといえば紳士のスポーツだ。そして互いが己の死力を尽くし、必殺技を繰り出し戦う。まさに青春!」
「………完全に漫画の影響だな」

真人がまたかとうんざりした表情で言う、いつもは筋肉筋肉とボケ担当の彼だが今回は完全にこっちが正論。

『場所はどうするのよ、野球部と違ってテニス部は廃部寸前なんてご都合主義にはいかないわよ』
「校舎裏に古くて新しいのを作った後も放置されたテニスコートがある。ラケットとかは体育倉庫からちょろまかしてくればいいだろ」
「うわぁ…風紀委員とかに見つかったら絶対怒られるよ」
「問題ないさ。彼等も我々の必殺、無我の境地やら風林火陰山雷に感激して注意することも忘れるに違いない」
『……とんでもなくおめでたい思考回路ね』
「お褒めに預かり光栄だな」
「それは褒めてないと思うよ、恭介」

とあるテニス漫画の必殺技の固有名詞を出して目を輝かせる恭介に一同溜息をつく。
そういう技は実際どんなに上手いテニスプレイヤーだってやりえないのだから、たとえ今私達がここでいきなりテニスを始めるても出来るわけがないのだ。
鈴も先程から「こいつ馬鹿だ!」を連呼しているし、謙吾にいたっては呆れて物が言えないとばかりの表情で見ていた。

「それから、テニスは最低二人でも出来るからな。メンバー集めに奔走する必要もなくなる」
『理樹がね』
「さあ諸君、今日の放課後は校舎裏に集合だ!」
「一応言っておくが、俺は部活だからな」

謙吾が恭介の遊びに参加することは、"ある出来事"を通さなければない。
それでも毎晩のように行われる鈴の野球メンバー集めミッションには彼なりに参加して、見守っているのだ。
今日は恭介の気紛れで違うことをすることになりそうだが、きっとそれも最近野球ばかりだったことに対する恭介の息抜きのようなもので、明日にはまたグラウンドに立つことになるのだろう。

「ナマエはどの必殺技がいいと思う?」
『……取り敢えず、技名から何が起こっているか説明してくれないと何とも』

つばめ返しか手塚ファントムか、いや綱渡りも捨てがたいとか呟く恭介だがもはやそこからテニスを連想することは不可能なんじゃないかと思う。
それでもまるで子供のように無邪気な笑顔で新たな遊びを考え、提案している彼を見ると仕方ないかと思ってしまうのだ。
どのみち、本来行わなくてはならないことは"ここ"ではする意味などないのだから。

『ただ一つの目的のため、か……』
「ナマエ、どうしたの?」
『ううん、なんでもない』

不思議そうにしている理樹を適当に誤魔化して、ピッチングを出来ないことに不満を露にしている鈴を横目で見る。
そしていつか目的が果たされるまで、続く日常を思った。



(多分、今はまだ来るべき時ではない)








≫テニヌネタを混ぜようと思った結果ですorz