「田畑の行動は一部警察も嗅ぎ付けてはいるケド、田畑は警察庁出身。政界はもとより警察関係とも繋がりが深く、簡単に手出しが出来ずにいる」

大神、そして先程知り合ったばかりの刻と共に田畑邸に潜入した桜。
入るところまでは良かった、刻君の異能によってあっさり入れた。

「おそらく拉致・監禁された稀血の人達がこの屋敷のどこかにいるだろうから、まずはそれを捜し出さないト」

大神のすぐ脇を銃弾が通り抜け、置物が音をたてて砕ける。
何故この二人はこんなにも落ち着いている、というか緊張感がないのだろう。

「でも、このガードマン共軍人くずれか元傭兵……この装備からして田畑がヤバイことしてるのは確実だネ」
「……あぁそうだな、で」

崩落した壁を挟んだ向こう側には、銃を持った男達が遠慮なしにこちらを撃ち続ける。

「この状況、どう回避するのだ?」






結局大勢いた武装ガードマン達は、刻君の異能"磁力"によって倒された。
大神を止める筈でここについてきたというのに、同じコードブレイカーである彼が人を殺めるのを止められなかった。
そんな不甲斐ない自分が悔しく、同時にどうやったらこんな計り知れない力を持った者達を止められるんだ、と拳を強く握る。

「負け惜しみ?大神、オレの力を久々に見れて、昔オレにボコボコにされたことでも思い出しちゃったカナ?」

最後の一本だったらしくクシャリとタバコの空き箱を握り潰す刻君。
未成年がタバコを吸ってはいけない!とここは彼に注意をしなくてはならないところだが、それよりも驚くべきことに興味が寄せられていた。

「な…!?お、大神が刻君にボコボコ…!?」

どうやら大神はそのことを話されることが不快だったらしく、スッと刻君に近寄ると得意の青い炎でタバコを燃やしてしまった。

「最後の一本か?残念だったな」
「……ホントムカつくな、お前。またボコられたい?」

再び一触即発の雰囲気になってしまう二人、ここは自分がこの空気をなんとかしなければ!と妙な使命感に駆られた桜は「さぁ先に進むぞ!」と前にいる"子犬"を追い先陣をきって歩き出した。
その時、応援に駆け付けたのか桜の前に四人の銃を持ったガードマン、というよりも兵士が現れた。

「な、っ!?」
「桜小路さん……っ!」

大神が助けに行こうとするものの、すぐ後ろからも敵の増援が到着し、阻まれる。
まずい、撃たれる!と反射的に目をつむる桜。
しかし、来る筈の痛みや衝撃は一向に来ず、ただ後方から一発の銃声が轟いただけだった。
恐る恐る目を開いた桜の目に入ったのは、見慣れた制服に身を纏った少女の姿。

「危ないところだったね、大丈夫?」

全くあの二人は一体何を手間取っているんだか、と"子犬"を片手に抱えいう。
もう一方には、その容姿には似合わぬ重苦しく光る銃が握られている。

「何故、神楽坂さんがここに……」

桜の前に立っていたのは、今日会ったばかりの転入生、神楽坂未来だった。

「未来、どうして貴女がここに」
「あんたたち二人が桜小路さんを守れないんじゃないかって、上から応援の要請があったの」

ま、予想通りだったみたいねと言う未来に、大神も刻もうっと言い返せなくなる。

「もしや、神楽坂さんもコードブレイカーなのか?」
「そ、コードブレイカー:07よ。改めてよろしく」

そう言って桜に微笑みかければ、驚いた表情を浮かべていた桜も「こちらこそ……」と丁寧に会釈する。

「何しに来たんだよ、異能を持たないくせにサ」
「異能を持たない……?」

ムスッとした表情で言う刻。
それに対し首を傾げる桜に、大神が解説をした。

「彼女は一緒にバイトをしていても全く異能を使わないんですよ」

何故使わないのかと問いただしてもスルリとかわしてしまい、結局わからない。

「では、今のは異能ではないのか?」

四人を撃った筈なのに、銃声はたったの一発しか聞こえなかった。

「私は確かに四発撃ったよ、ただし……0.1秒以内に全てね」
「は……」

人間業じゃないだろう、と思っているとそんな桜の心情を理解したらしい大神がさらに補足する。

「未来は、異能を一切使わない代わりに銃やナイフ等のの扱いから体術に至るまで、非常に長けているんですよ」
「まぁ、そう言うこと」

異能を使っているお二人にも勝てるしね、と言えば桜は「異能を使わずに!?すごいのだな!」と感心する。

「で、刻はなんでそんなに不機嫌そうなの」

まぁ大神をボコボコにしたっていう武勇伝を語った直後に、上塗りされちゃったからねー、とまるで他人事のような未来。

「な、なんで聞こえて」
「私も遊騎程じゃないけど、耳はいいの」
「っていうか、分かってたならさっさと協力しろ!」
「えー、だって"優秀な"コードブレイカーの刻がいるんなら大丈夫だって思ってたんだけどな」
「こいつ…」

未来に言われっぱなしの刻は、今にも攻撃を仕掛けそうな勢いである。

「大神、二人は仲が悪いのか?」
「いえ、どちらかというといつも刻が一方的に突っ掛かってるだけで、未来にあしらわれているんですよ」

協力するときは互いにちゃんと協力しますしね、という大神。

「つまり、刻君は素直じゃないのだな!」
「どこからその発想に繋がるんだヨ!」

目一杯否定している刻だが、それなりに図星だったようで耳にほんのり赤みがさしている。

「……はぁ、とにかくあらかたのボディーガードも倒したようですし、先に進みますよ」

どうやら桜小路桜が先程進もうとしていた道は正しかったらしく、扉の向こう側から光が見える。
きっとこっちの方に拉致された人々が監禁されているのだろう。
やけにやる気のある桜小路桜が先陣を切って扉を開き進んでいこうとする。
彼女は、先程自分がそうやって命の危険に陥ったというのを忘れたのかと思いつつも、後を追うように部屋に入れば、そこには驚愕の光景が広がっていた。

「人間の、臓器」
「な、と……特殊な稀血の臓器ばかり……!・」

最悪の予想が頭の中を過る、きっと拉致された人達は、

「ビジネスですよ、どんな手段や大金を使っても手に入れたい臓器がある人が世界のVIPには多くてね。特に稀血の血液型の臓器は稀少だから高く売れるんです」
「田畑!」

予想を肯定するかのようにこの屋敷の主人である田畑が奥から悪人特有の笑顔を浮かべ歩いてきた。

「臓器売買、か……」

そんなことはバレるだろう、という桜小路桜だがこういうのは幾らでも隠し方法がある。
死亡理由の隠蔽から死体の処理まで、済んでしまえば臓器そのものの発見がない限り証拠は残らない。

「なかなか頭がいいようで、ご推察の通りです。まぁ世の中には必要な人間とそうじゃない人間がいるってことですよ」

不要な人間は多少いなくなった所でたいして困りはしないでしょう?
と言ったところで、大神の手に握られた被害者に関する書類がぐしゃりと握られた。
その瞳には、目の前の悪に対する憎悪が浮かんでいる。

「田畑、お前は燃え散らす。お前みたいな悪人はこの世から消え失せるがいい、跡形もなく」
「だ、だめだ大神!殺すな!」

たとえ田畑がどんなに悪人だとしても、人を殺してはいけない。
桜のその言葉の途中で、不意に被害者の男が彼女の腕を掴み、懇願する。
――奴等を殺してくれ、と。

「世に言う正義のヒーローって奴はさ、正義のためなら悪い奴ぶっ殺すからヒーローなんだよね」
「と、刻君……」

桜にもたれ掛かるような姿勢で言う刻に、未来も同意するように口を開いた。

「この先は、貴女のような人が首を突っ込んでいい世界じゃない」

同時に敵の気配をいち早く察知したらしく、刻に桜小路さんをよろしく、と手を振るとバッと走りだし、大神に迫る男達のメスを自らのナイフで叩き落とした。

「っ!未来」
「後方不注意よ、気をつけて」
「……ありがとうございます」
「残念、そっちの女のせいで切り刻むタイミングを逃したわ」

田畑によって彼の執刀医だと紹介された、図体のでかい二人組。
きっと彼等が田畑の犯罪の実行犯だといえるだろう。

「さぁ!次は貴方達の内臓を見せてv」

両側から挟むように立つ男達に、大神と未来は背中を向け合うように立ち、各々自分の武器を構える。

「……!」

左手で触れなくてはならない、と武器が不利なためか、男の攻撃を止められずに腕から血を流す大神。

「ちょっ……大神!」
「速いナァ、まぁ未来の方は流石っつーか、怪我は全くないみたいだネ」

素早くメスによる攻撃を避けた未来を見て刻が言えば、その瞬間男達は次に止めを刺すかのような台詞を放つ。

「診察完了。さぁ、解体手術ヨ!」

そして片方が大神の肩、足へと切り裂いていく。
どうやら未来のことは後回しにするつもりらしく、もう片方の男は特に動く気配を見せず笑っている。
このままではただなぶり殺されるだけだ、どうしたものか…と思案していると、不意に男の一人が足元に落ちている熊のぬいぐるみを拾い上げた。




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