「前々から気になっていたのですが、何故貴女は異能を使わないのですか?」

それは何度目かの組んで仕事をしていた時のことだ。
大して強くもなく呆気なく未来の銃弾に倒れた対象を冷ややかに眺めつつ、目撃者はいないかなどエージェントと打ち合わせを済ませ大神にお疲れと声をかけようとすると残念ながら今回は出番の無かった彼は不満げな表情で口を開いた。
突然何を言い出すのか自分の獲物を取られたと不貞腐れてでもいるのかと思っていると、今更な質問にクスリと笑みが溢れてしまった。
それに大神が不機嫌な色を見せる。

「笑い事ではないんですが」
「だって何回も今まで組んできたのに今更その質問?普通最初にするんじゃない」
「……興味が無かったので」

成る程、と思うと同時に初めて大神がコードブレイカー達と顔合わせて紹介を受けた時のことを思い出す。
あの時はまるで同僚なんて興味が無い、というよりも悪人が裁ければどうでもいいというような目をしていた。
それが当時刻に苛立ちを与え、ボッコボコにされてしまったのだが。

「今はそれなりに興味が湧いてきたと」
「別にそんなんではないです」

ニヤリと笑ってやれば勘違いしないでくださいと突っぱねる大神、素直じゃない奴め。

「どうして異能を使わないかって質問だったわね……簡単よ使う必要がないから、ああ別に君が異能に頼らないと勝てないとか言ってるんじゃないのよ?」

大神の目付きが一層悪くなったので軽くフォローを入れておくがあまり意味は無いかもしれない。

「よく考えてみなさいよ、あんな屑のためにわざわざ自分の寿命削ってやるような真似するのは勿体なくない?」
「……コードブレイカーの存在意義を根底から揺るがすような発言ですね」
「まあそう言わずに。君も、その青い炎かっこいいけどそれに頼りきりだといつか痛い目みるよ」
「……?」
「そりゃ異能は使えるし、無駄な体力使わずにサクサク仕事は済ませられるけど大神君、もし仕事の真っ最中にロストしてしまったらどうするつもり?」
「それは、」

少しだけ悔しげに大神が唇を噛んだ。
今まで幾度かロストは経験しているがいずれも仕事を済ませた後だという。
まあ大体は葬る悪人もぶっちゃけ弱いし十分それで困ることはないが、何年も前の"戦い"のように休むことも許されず矢継ぎ早に強敵と戦うことを強いられた場合、間違いなく途中でロストする。
普段から異能頼りきりな人が多いせいかロストをつかれて命を落とした者もたくさんいる。

「だから、ロストした時のことを考えて異能無しでも十分戦えるようにしてるってわけ」
「そのうちに、異能を使わないことが主体になってきたということですね」
「そういうこと」
「確かに、貴女の言うことにも一理ありますね」

珍しい、彼が人の意見に素直に賛同の意を表するなんて。
異能を使って圧倒的な力で捩じ伏せるのも一興かもしれないが、純粋な戦闘を楽しむのもいいよと言えば、とんだ戦闘狂ですねと鼻で笑われてしまう。
だがそういえば、と思い出す。
以前辻斬りの真似事をしている輩を裁きに大神と出向いた時、合わせて武器として日本刀を選んだらやたらと見ていた気がする。

「……もしかして、日本刀好き?」
「…………」

沈黙は肯定を意味する。
ふーん、と愉快だという目で見てやれば何か問題でもありますかと開き直られる。

「じゃあさ、暇な時にでも鍛えてあげようか?軽く銃弾切れるくらいまでには」

軽くないだろ!と言ってくれるツッコミは存在しない。
大神の目がキラリと飢えた猛獣のように光った気がした。

「……後悔させてあげますよ」

それから本当に彼がとんでもなく剣の潜在能力を秘めていたことを見せつけられることになる。








≫チビ神君時代に捜シ者ニーサンの手解きは受けてたんじゃないかと。大きくなってから夢主から習うという妄想。