「もしも、私がコードエンドしたらどうする?」

ふと思ったことを問いかけてみる。
別に目の前でペロリとチーズケーキを平らげている彼女から珍しくしおらしいコメントを期待しているのではない。
何故いきなりこのようなことを聞こうかと思ったかと言えば、なんとなくとしか言い様がないだろう。

「そりゃいつかはやって来ることだろうし、お経でも唱えてあげようか」
「……聞いた私が馬鹿だったよ」

普通だったらここで『そんなこと言い出さないでよ馬鹿!』と泣き出したところを自分が優しく抱き締めて、というのが定石ではないだろうか。

「なに、それじゃあ……キャーヒトミサンシナナイデ」
「そこにその感嘆詞がつくのは明らかにおかしいんじゃないかな」
「じゃあ何をご所望してるのよ」

よもやこれが仮にも恋人同士の会話とはかなりのポジティブシンキングの持ち主でもなければ有り得まい。
世の中にはツンデレと呼ばれるものがあるが、彼女の場合昔というか今の関係になる前はいたって普通であった。
ここで上記の人ならもう少し可愛い振る舞いになると思うのだが、残念ながら未来は人の家で平然と寛いで全くもって愛の言葉の欠片も見受けられない。
寧ろ前よりふてぶてしい態度になったような気がするのは勘違いではないだろう。

「近親者や好きな人が死んだら、勿論悲しいという普通の感性くらい持ち合わせているよ私は。でも、コードブレイカーっていうのはいつかは必ず常人よりも早く終わりがくる。それが定めであって、仕方のないこと。だから下手に悲しむのは失礼に値するんじゃないかなって」
「……そんなに、理想的なものではないと思うよ」

長い間この地位に留まって、いろいろなものを見てきた。
中には最期みっともなく「死にたくない」とあがいていた者もいた、未来は一般人、言ってしまえば人間とコードブレイカーを線引きしているようだが、結局私達も弱い人間の一部なのだと理解した。

「でも理想を掲げないとやってられないでしょ、こんな仕事」

悪人を滅ぼすとは、則ち人を手にかけるということである。
誰でもいつかは矛盾に苦しむ時があるものだ。
結局大体のコードブレイカーは自らの信念に絶対の自信を持つことで、矛盾を乗り越える。
要するに開き直るしかない。

「私が覚えていてあげるよ」
「……は?」
「もし人見がコードエンドしても、私がずっと覚えてるってこと」

話は戻るけどね、と言う未来に目を瞬く。
てっきり先程の話はもう流されたものだと思ったのだが。

「私達には墓なんて作ってもらえる権利はない、でも人間って結局は誰かの記憶に残ってこそその存在を肯定出来るのだと思う」

戸籍も抹消され、名前さえ変えたがここで私達は生きている。
"存在しない者"などとは言うが、今ここにいることもまた事実なのだ。

「珍しいね、君が己に肯定的なことを言うなんて」
「私だって別にいつも否定的に言っている訳ではないんだけど」





「つまり例え墓標に名前が刻まれなくても、世間に己の死すら知らされることが無くても、たった一人でも覚えていればその人の生きた証はずっと残り続けるということ。だから人見が今まで死んでいったコードブレイカー達を覚えてい続けていれば、彼等はずっとそこに生き続けられる」
「分かって、いたのか」
「だっていつも誰かが命を落とせば、誰にも悟られないように悲しそうな顔してるじゃない」

その異能故に人一倍人の感情に鋭い未来に、お見通しなのだと思わず苦笑を漏らす。
あれほど色恋に関しては自分の感情に全く気付かずにいたくせに、人のこととなると異常なくらい力を発揮するのだから。

「それに、大丈夫じゃないの?仮にもコード:01、エースとしてしっかり地位は築いているんだから死後もほら、回想とかで友情出演出来るかもよ。誰かが戦いの中負けそうになった時、君はまだ地獄(こちら側)にくるべきではないとか言って」
「妙に少年マンガ的な流れだね、というか絶対私その叱咤する人に前に倒されてる中ボス的な扱いだと思う」
「でも基本少年マンガってどんどん敵の強さレベルが上がっていき、それに対して主人公の強さも進化していくから、結局発展途上だった中盤に倒された敵ってそうとう弱いんじゃないかという疑問があがる感じ」
「「………」」

完全に話題の方向性が迷子になってしまったところで二人で黙り込む。
取り敢えずは自分の質問に真摯に答えてくれたので、頭を撫でてやればキッと睨み上げられる。

「ちょっと、子供扱いしないでよ。大体人見って一体歳いくつなの」
「永遠の二十一歳とか」
「あんたはどっかの情報屋か!……前に神田から聞いた話で考えると、明らかに結構いってるのよね」

神田がまだ幼い時に両親が強盗に殺され、更に自らも殺されそうになったときに人見が助けてくれて、それがきっかけで神田はエージェントになることを志したとか。

「言っておくけど、私は俗に言うロリコンとかではないからね」
「え、違うの?」
「……今初めて知ったみたいな反応はしないでくれないかな」

しかし人見も年齢不詳だが、平家も一体いくつなのか分からない。
更にタチの悪いことに、平家は私の知る限りずっと昔から学生服着用(本人談:ピチピチの高校生)であるが正直な話、彼が平安末期生まれだとしても驚かない自信はある。

「それは"平家"と"桓武平氏"を掛けてるのかな」
「ええ、それはもう」

大抵未来と人見はこんな不毛な会話を繰り広げて少ない休日を過ごす。
それは自分達の職業やら定めやらを考えればある意味平和であることを表していて、文句をつけるのも罰当たりな気がするが。
それでも多少は色っぽい流れにならないものか、と密かに(前に一度口に出したらこのエロ親爺的な目で見られた)思っている人見であった。







≫少し時系列的に昔の話です。話題が二転三転しまくった件。
本当はシリアスにしたかったんです、人見追悼短編という扱いで←
結局いろいろフラグを立てたり、突っ込んだりでした。
完全に夢主に押されてる人見(笑)アララギさん的に言えば彼女はツンデレではなく、ツンドラです。