「何ですか、それは」

放課後、いつものように帰ろうとしていた大神に、怪しさを感じるほどの清々しい笑顔の未来が、一枚の紙を見せた。

「ケーキバイキングよ、今日二丁目のケーキ屋でやってるの」

だからなんなんだ、と言わんばかりの表情をすれば、

「まったく大神は流れで読まないのかしらね――緒に来なさい」
「どうしてそうなるんですか」

流れで読むも何も、いきなりケーキ屋のチラシを見せられて、一緒に行こうなんて思い付く訳がない。

「俺には珍種の観察が……」
「桜はあおばちゃん達と買い物にいくのよ、ついていくつもり?」

桜本人は別に悪い顔はしないだろうが、その友人は女子だけの買い物に男がついていってはいい顏はしないだろう。

「しかし、どうして俺なんですか?」
「このチラシをよく見て」

未来に指差された部分に目を向けると、そこには"カップル限定"と書かれていた。




「……よくこんな甘ったるい物を何個も食べれますね」
「いつも缶詰の食事ばっかりしかしない大神にはわからないのよ、この幸せは」

特にバイトもなかったため、結局彼女のいうケーキ屋に同行した大神。
受付ではさも未来の恋人です、な振舞いをしなくてはならなかったが、問題もなくクリア。

「大神ももっと食べたら。いくらお得とはいえ、それだけだと明らかに損するよ」
「いえ、遠慮しておきます」

あまり甘いものが好きではない大神は、このケーキ屋の中でも比較的苦めのビターチョコレートで作られたガトーショコラ(生クリーム抜き)一つだけを食べている。

「太りますよ?」
「いーのよ、それに見合う運動はしてるんだから」

対して向かいに座る未来の前には、見るだけで胸焼けを起こしそうなほどの甘そうなケーキが群れをなしている。
更に言うなれば、既に食したと思われる皿が何枚も重ねられていた。
一体華奢な彼女の身体の、どこに収まるのだろうか。
確かに彼女の言う通り、他のコードブレイカーと比べて彼女の運動量は明らかに多いと思うが。

「どうして僕にしたのですか?」
「ん?」

大神が不意にそう問いかけると、ちょうど苺のタルトを平らげた未来は少し考えたあと、口を開く。

「なんとなく、かな」

平家は二人だとやりずらいし、刻は学校違うからわざわざあんなお坊っちゃん学校行きたくないし、遊騎はどこをほっつき歩いてるか分からないしね。

「つまりは消去法というわけですか」
「まぁ、でも……大神と来れて良かったよ」

未来のその言葉に、不本意ながらも胸が小さく音をたてる。
それを隠すように、大神は大きめに切ったガトーショコラを口に押し込んだ。






≫大神は甘いの苦手だと思う。