「マジでなんにもない島だナー、ホントにいんのかよ」
「エージェントの報告では確実にこの島の最深部にいると」

文字通りの無人島に降り立ち辺りを見渡して顔をしかめる刻に、対して涼しい表情の平家が言った。
刻を擁護するわけではないが何故そこまで確信を持って言えるのかと疑問に思いながら、未来は生まれて初めて離島にやって来て物珍しそうに見渡す桜に声をかける。

「この先は本格的に戦いになる……場合によっては自分の身は自分で守って貰わなきゃいけない事態になるかもしれない。それでもついてくる?」
「勿論だ!」

エージェントと共に大神が不時着させた機体のところで待っていてもらう、という選択肢も与えたが一蹴にされて苦笑した。
それなら最初からこんなところまでついてこないか、と。
先程から遅れて参上したエージェント達は神田を筆頭として不幸にも同じ飛行機に乗り合わせた乗客の対応に奔走している。
次から次へと舞い込む仕事に彼等も休む暇などないのだろう、過労で倒れた場合労災はおりるのかと関係のないことを思った。

「さあ我々も進みましょうか、目的は目の前です」

島は殆んど人の出入りがあるとは思えないほど樹木が鬱蒼と生い茂っており、獣道すらままならない。
大神を先頭に炎で草木を少しずつ焼いてもらい、開拓しながらと地道に進んでいく。
後方では刻が暑いだの虫に刺されただの文句を言っている。
不意に桜が口を開いた。

「刻君、その西園寺殿とは一体どのような人物なのだ?」
「あー……、変人っていうか最早変態?いや変態は平家だし」
「さてレッツお仕置きタイムと参りますか」
「待て待て!俺にしてみたらこんな森ん中歩くだけで既に罰ゲームだっつーの」
「一言で言い表すならマッドサイエンティスト、研究以外には全く興味を示さない人です」

お決まりのコントを始めてしまった二人に代わって大神が説明する。
大神の説明は端的であるが見事に的を射ていて、確かに彼女についてはそれ以外の表現の方法はないと言える。
彼女との会話は異能関係意外全く通じない、まあそれ以外の話題を振ろうという猛者はいなかったのだが。
そんな会話を繰り広げながら進んでいくとやがて獣道が終わりを告げ、そこには流石にコンクリートでということはないが明らかに人間による手が加えられたような舗装が施された道が開けた場所に出た。

「どうやらここが正しい道のようですね」
「なんつーか別にあんな道じゃないところ無理矢理通らなくても、もうちょい探せばちゃんとした正規のルートがあったんじゃネ?」
「それは私達の苦労が馬鹿みたいだから言わないであげて」
「わ、私は楽しかったぞ!探険みたいで」
「桜小路さんフォローになってませんよ……取りあえず進みましょうか」

暑さのせいかこれ以上喋っても疲れるだけなので全員無言で頷き、歩く。
だがすぐに足を止めることになった。

「分かれ道ですね」
「俺達の人数は五人、道は三つ……順当に考えると一人と二人二組に分かれんのか」
「こんなこともあろうかとくじ引きを持ってきました」

嬉々として割りばしの先に三色つけた簡単なくじを取り出す平家に突っ込まざるを得ない。
なんでくじを引かなければならない状況になるとわかっていたんだ。
それを言ってもおそらく平家のことだから満足のいく返答を返してくれるとは到底思えないので、仕方ないとその手に握られている五本の割りばしの中から一本を引き抜く。
ちなみにもし桜が一人になった場合はやり直しだ。



「無駄に順当な割り振りになったナ」
「へえ、てっきり桜と二人がいいものだと思ってたけど」
「何、ヤキモチ?」
「阿呆か」
「まあぶっちゃけた話、勝手な行動の多い桜チャンのお守りは大神に任せておくのがいいと思うわけよ」

くじ引きの結果、桜・大神ペアと刻・未来ペア、そして一人は見事に平家になりそれぞれ分かれた道を進みだした。
刻としては野郎と二人きりにならくてよかったとでも思っているのだろう。
ホント任務に煩悩を隠さない奴だなと呆れつつもこの道が当たりの可能性が十分にあるので、余計な問答はせずに先に行くことにして歩き始める。
だが足を踏み出したところで何の前触れもなく右腕を掴まれて後ろに引かれ、突然のことに身体が傾く。

「な、に……っ!?」

引かれたのとは反対の腕が後頭部に回された瞬間、唇に柔らかいものが当たった。
一瞬にも満たない短い時間の出来事だったが、それが刻の唇だと理解すると未来は驚愕に目を見開いた。
唇が離れた瞬間未来は思い切り刻の身体を突き飛ばし、すぐに後退して距離をとると何をするのだと手の甲で己の唇を擦った。

「ひっでえな、おい」
「私、そんなに軽くないんだけど」
「人見にはいいくせに?」
「なんでそれを……」
「あ、そーなんだやっぱり」

鎌をかけられたのだと気づき、悔しげに唇を噛む。

「ぶっちゃけ前から怪しいと思ってたんだよな、嫌に仲好いくせに」

ザクザクと草を踏みしめる音がして近づいてくる刻に本能的に後退りをするが数歩も進まないうちに背中が木に当たった。
刻の右手が顔の横についた、逃げる道を断たれたこの状態に舌打ちをしたくなる。
睨みつけてやればぐっと顔を近づけられ、思わず目を逸らした。
まるで見透かされたような瞳から、逃げたかった。

「手当たり次第に手出したいなら他所あたってくれる、どうせ女の子なら誰でもいいんでしょ」
「心外だなー、誰でもいいってわけではネーヨ。まあアンタぐらいのレベルなら拒まないけど」

俺にしてみる?と耳元で囁いてくる刻、ぞわりとした感覚に肩を震わせるとニヤリと笑った。
こいつ、完全に調子に乗りやがって。
その表情にイラッとして膝蹴りをお見舞いしてやろうと喰らわせてやろうとしたその時、刻がどこから取り出したのか銃を右向けて撃った。

「覗きなんて悪趣味だな」
「へえ気づいてたんだ、そのままラブシーン続けてくれても良かったんだけど」

そこに立っていた少年はさも何事もなかったかのように銃弾を避ける。
その少年の容姿に見覚えがあり、『あっ』と声を漏らした。

「高峰羅刹っつったっけ」

真っ白な髪の毛に赤く染まった瞳、それは先日桜小路家を襲撃してきた始末屋の一人だった。

「あー違う違う、俺の名前は高峰刹那。あいつは双子の弟。その証拠に髪も瞳も偽物なんだ、実際この下は普通の黒髪黒目。あいつのフリしてるといろいろ動きやすいんだよ」

あっちは俺の存在に気づいていないけどな、と高峰は笑った。

「お前が西園寺から差し向けられた刺客ってワケ?」
「まーそういうこと、ああでもそっちの神楽坂未来は別に通ってもいいよ。ぶっちゃけレイさんが興味あんのアンタだけだし」
「私だけ、ね……」

面倒だから高峰の相手は刻に任せて先に進ませてもらおうと思ったが、どういうわけか一向に刻はどいてくれる気配がない。

「じゃあお前をサックリ倒して一緒に進ませてもらう」
「ちょっと、何勝手なこと言ってんの」
「ホラ、これから俺がカッコイイとこ見せてやるから」

惚れてもしらねーぞ、とウィンクをしてきた刻に敵前だが張り倒してやりたくなった。

「言っとくけどさ、俺強いヨ?」
「余裕かましてると痛い目見るんじゃねーの、金髪野郎」

どういうわけか見学宣告をされ、刻の後ろで見ていることになってしまった。
こっちとしては早く進みたいことこの上ないのだが、生憎進む道は刻と高峰の戦闘の場となっていて通せんぼ状態になっている。

「刻ー、さっさと勝ってよ。私こんな無人島で野宿なんてしたくないからね」

流石にまだ日が落ちる時間には程遠いが嘗て平家がとある人物と三日三晩戦い続けたということもあり、戦況や相性によってはかなり時間がかかってしまうこともあるのだ。

「へいへい、努力しますよ」

と言いつつもこの大自然に囲まれた島の中では刻が操る磁力を生かせる要素は都会にいるときよりも圧倒的に少ない。

「んじゃあ、俺から行かせてもらうよ!」

高峰が刻に向かって跳んだ。
相手が何をしてくるかわからないうちは容易に攻撃を受けるのは得策ではない、刻もそれは心得ているのかその着地点から華麗に跳躍して避ける。
高峰もそれはわかっていたらしく、自分の技をわざと見せ付けるためなのか誰もいなくなった地面に向かって右手を翳して着地した。
受身でもとるのかと思ったが、その時着地点の地面に異変が起こっていることに気づく。

「抉れて、いやこれは……へこんでいる?」

地面に半径二メートル程度の穴が開いていた。
そこはまるで大きな圧力がかかったかのように押し潰されてへこんでいるという表現が正しい。

「お前の異能わかったぜ、重力ダロ」
「ご名答。俺の能力は重力を操れる。この地球上に住まう生物は誰しも重力から逃げられない、金属がないとたいした攻撃ができない人には負けないだろうね」
「確かに、ここじゃ俺は戦いづらいだろーな。けど同時に残念ながらお前相手に異能を使うまでもないってことがわかった」

そう言うと刻は銃を真っ直ぐ高峰に向けると、パンパンッ!と連射した。
しかし高峰に向かっていったはずの銃弾は彼の身体に到達する前に突然失速し、ポトリと地面に落ちてしまう。

「バッカじゃないの?鉛玉なんて俺のところに来る前に全部無効化できるって」
「だろーな、でもお前の弱点もわかったぜ」
「……?」

刻の意図を図りかねている高峰にニヤリとおよそ正義のヒーローがすることはありえないだろう嫌な笑みを浮かべると、高峰に向かって駆け出し、そして勢い良くジャンプした。

「ちょ、ジャンプ力どんだけよ……」

思わず突っ込まざるを得ないほどのジャンプを披露した刻、どれくらいかと言われれば未来や高峰の身長を余裕で超えて、更にその二、三倍程度の高さまで到達し高峰の頭上に到達してしまうくらいだ。
高峰も絶句して刻を見上げている。

「重力ってのは、下にしか働かない力だろ?だったら最初から下に向かって撃ってやればいいんだよ!」

空中でその下にいる高峰に向かって発砲された銃弾はそのまま普通に高峰の肩と足に命中し、痛みで高峰はその場に崩れ落ちた。

「く、そ……っ」
「可能性として重力の働く方向を変えられる力もあると思ったんだけどさ、だったら最初に俺が撃ったときに重力のベクトルを変えて俺の方向に撃ち返してくる筈だからナ。よく俺がするみたいに」

最初の攻撃で刻は敵の大体の能力を把握していたのだ。
それは磁力という関連性の高い異能を保持していた刻だからこそ考えた方法だったのだろう。
悔しげにしながらも足を撃ち抜かれて立つことが出来ずにいる高峰に近寄ると、刻はその銃口を額に突きつけた。

「さてと、悪人には消えてもらいますか」
「待って」
「おいおい、まさか未来まで桜チャンみたいに人殺しは駄目だ!とか言い出すんじゃねーだろうな」

銃を持つ手を掴んだ未来に呆れたような目線を送る刻。

「馬鹿言わないで、そんなわけないでしょう。コードブレイカーとして異能狩りに加担している能力者を処分するのは当然だけど。今回は事が予想以上に大きいのよ、西園寺に関係する人物をあっさり殺すわけにはいかない」
「あーそういうこと」

納得したのか大人しく刻は銃口を下げたが、高峰は悔しげに睨みつけてくる。

「拷問かけられたとしても俺は吐かないぜ?」
「そんなことしてる時間はないにきまってるじゃない、私が言いたいのはアンタを拘束しておけば西園寺レイが姿を現すってこと」

すでに敵の懐の中だ、此方の動きなど彼女にもちろん筒抜けであることなど百も承知。
だったら逆にそれを利用して敵をおびき寄せてしまえばいい。
彼女に協力しているなら当然その研究の恩恵を得ていることは間違いない、ならばあの研究への執着が凄まじいあの人がいくら敵に倒されたからと己の研究成果をそのまま捨ててしまうか。
答えはノーだ、研究への執着が凄まじい分それによって生み出されたものをまるでわが子のように大事にしている。
だから彼女がエデンにいた当時もいろいろとお世話になっていた私達に対してそれはもう大事にしていたものだ。
そう言えば、刻は私の見解に一定の理解を示したが後半の部分に少し首を傾げた。

「俺、あの人からそんなに良い待遇受けた覚えないんだけど」




「あれ、未来と刻君ではないか!」
「おや、どうやら完全に道は繋がってしまったようですね」

取り敢えず高峰を縛り上げてこれからどう行動したものかと思案していたところで、これから進む筈だった先の道から桜と大神、そして平家と別の道に向かった面子が歩いてきた。
そして足元で縛り上げられている少年を見つけると、平家は「どうやらお二人が一番アタリだったようですね」と言うが残りの道に向かった二グループが合流してしまったということはつまりこの先に進む道はないということでこれ以上進めない、つまり手詰まりだということを示している。

「……で、これからどーすんだヨ。もう進む場所ないだろ」
「また獣道を切り開いて他に進めそうな道がないか探しますか?」
「うえー…またあんな草むらを進むのかよ。いい加減都会っ子のメンタル削んのマジ勘弁」
「馬鹿だろお前ら、そんなんじゃ永遠にレイさんのところになんて辿り着けないって」

ハハハ、と笑いだした高峰に皆の視線が向けられる。
彼のことを知らない桜だけが誰だろうと疑問符を浮かべているが、残りの面子はこいつ自分の立場わかってやがんのかと思っていたが。

「どうやら彼にはお仕置きが必要なようですね、特大の」
「おー、やってやれ」

平家の光の糸に足を結ばれて逆さ吊りにされている高峰に、これで西園寺を誘き出すつもりならむしろこっちが悪役に見えてくるんじゃないかと思う。
だがまさかとしか言いようがないが、だんだん逆さ吊りにして楽しみ出した平家に大丈夫かこいつと思い始めたところでザッザッと土を踏みしめる音がして、その方向を見ればそこにはまさにこの島に来た目的、西園寺レイが白衣を翻しながら立っていた。
どこから現れたのかなんて考えるだけ無駄だろう、先程ここに辿り着いた私達にはわからない抜け道などがあるのだと考えるのが妥当だ。

「どうやら私の誘き出し作戦が功をそうしたようですね」

思い切りドヤ顔で言いやがる平家はスルーして皆西園寺の立つ方向を見た。

「久しぶりだな、コードブレイカーの諸君」
「ええ本当にお久しぶり、貴女は優秀な研究者だったから出来れば敵に回したくなかったけれど」
「ならこちらとしても都合がいい、私の研究に協力してさえくれればもう程度の低い異能者に協力をしてもらう必要もないからね」
「は?馬鹿言ってんじゃねーよ、未来お前も」

刻が肩を掴み、引き寄せた。
先程の件もあり気軽に触らないでという意味を込めてその手を振り払ってやると、「まだ根に持ってんのかよ」と溜息をつかれた。

「私は貴女のモルモットになるつもりは毛頭ないの、それに内部資料を持って逃げられたから貴女は立派な裏切り者。残念だけど裏切り者には制裁を与えないといけない決まりになってるのよ」
「ああ、先日も元コード:01の人見も死んだそうだな」

その言葉に少しだけ肩が揺れる。

「……お喋りはそれくらいにしてくれる?そろそろ幕引きの時間よ、これだけのコードブレイカーに囲まれて逃げおおせられるなんて思わないことね」
「勿論簡単に逃げられるとは思っていないさ。だが私がこの島にきて何もしていないと思ったのかい?高峰君、今こそアレを試す時だ」
「!平家、そいつ……!」

平家が拘束していた高峰が、その言葉に合わせてニヤリと笑うと縛られた後ろ手に持っていた何かを軽く上へ投げるとそれを口でキャッチし一瞬の間に飲み込んでしまう。

「すみません、隙を突かれてしまったようです」
「一体何を飲み込んだのだ?」
「さあ、はっきりとはわかりませんが我々にとって間違いなく不利益になるものでしょうね」

大神の言う通り、どう考えても碌な事にはならないだろう。
平家の奴まったく油断して……!と内心悪態をつきたくなるがこれから何が起こるか分からない以上余計な行動はしない方が身のためだ。
さあいつ西園寺の研究成果とやらが効果を出すのかと思ったその時、まさにタイミングよくいきなり平家による高峰に施されていた拘束が何の前触れもなく無くなった。

「……おかしいですね、私は何もしていませんよ?」
「そんなことは分かってるっての!平家の異能をこんな簡単になかったことにしてしまうなんて」

何をしてくるかわからないため、おいそれと手は出せない。
動かずに様子を窺っているコードブレイカー達の前で高峰は「さっすがレイさん、こんなもん作れるなんてね」と言うと大神の方へ右手を翳すと。

「な……!?」

その右手から多量の水が大神へと襲いかかる。
大神もすぐに反応し左腕を突き出し、その青い炎によって迫りくる水を相殺する。
水蒸気爆発のような凄まじい反応がしてどうにか攻撃から回避した。

「おいおい、こいつの異能って確か重力だっただろ?今のはどー考えても」
「それに私の光をいとも容易く消したとなると……おそらく闇を生み出すような類いの異能が必要になるかと」
「闇を生み出すって、全く関係ないじゃない」
「相手の異能に対して相対する力を発動できるということか?」

まさか、そんな万能すぎる異能が存在するわけない。
そんなコードブレイカー達の当惑した様子に西園寺は笑った。

「近いな、だが私の最高傑作はそんなものではないぞ?」

見せてやれ、とばかりに西園寺が高峰に視線を送るとわかってますと頷きその瞬間未来の方向へ雷撃が繰り出された。

「っ!」

それをどうにか避けて銃を取り出すと一気に五連射する。
勿論高峰は難無くそれを重力で地面に落とした。
だが銃弾は囮だ、高峰の意識が銃弾に向いている一瞬の間に間合いを詰めると延髄に打撃を食らわせて意識を混濁させようとする。
しかしその手が頚部に到達する前に強烈な風が未来を襲い、身体は飛ばされ十メートル程離れた木に強く打ち付けた。
後頭部を強か打ち、視界が若干歪む。

「未来!!」
「……大丈夫、なんとか」
「今の未来さんの攻撃では一切異能を使っていません、つまり彼が繰り出す異能には相手との兼ね合いは全く関係がしないということになります。これは少々厄介なことになるかもしれません」
「ってことはアイツ……まさか」
「その通り、彼には提供してもらった人間の異能が使えるようになった。私がしていた研究というのは人間から自由に能力を取り出したり入れたり出来るようにすることなんだよ」
「異能を出し入れ……?」
「ああ、能力とは非常に不平等なものだ。必要もないのに力を得てしまうものもいるだろうし、悪用するものが得ることもある」

ならばあるべき人間が保有出来るようにしてやるべきではないか?と西園寺は言った。
ならば、と先程高峰が使用した異能の中で一つ引っ掛かるものがあったことを思い出す。

「同じ異能を持つ人間は二人以上存在しない、ならさっきの雷撃は、何……?」

雷、そんなものを操れる人間は一人しかいない。
もうこの世にはいなくなってしまった男の姿が浮かんだ。

「ああ、人見のことか。彼も協力してくれていたのだよ、彼自身の計画があるからここ最近は打ち切っていたがね」

世界から、色が減ったような気がした。







END
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