04
「こちら玄関前、不審な人物は見当たらないぜ。どーぞ」
「大広間、特に怪しい人の姿はなし、と」

無線機の向こうで「うわー、こんなかっちりした服久しぶりに着る」とか言っている平助に内心もう少し緊張感を持ってくれと思いながらも、確かにこんな各界のセレブが集うようなパーティーに、護衛とはいえ参加するとは露にも思わなかった。
公安との共同捜査というから何をするのか、どうせあのお坊ちゃんに使われるのだろうと頭が痛くなっていたのだが予想に反して大分きらびやかな仕事だ。
というのも、本日は跡部グループ主催のパーティーなのだ。

「大した余裕だな、息子の在籍する学校のバスが襲われ、その標的が自分達だとわかって尚パーティーを中止しないとは」
「犯罪者などには屈しないって意味じゃないの。独自に有能なSPも雇っているみたいだし」

ウェイターの格好で言う斎藤からシャンパン(勿論勤務中であるためノンアルコール)を受け取りつつ会話を交わす。
対策室や公安の面子はそれぞれ変装している、例えば雅や沖田等は招待客として、先程無線で連絡を取った藤堂や斎藤はスタッフに扮していて、原田は外で運転手のように振る舞いつつ付近に不審な人間がいないか見張っている。
本来であればこのような仕事は警備課に依頼すべきなのだが発案者である風間曰く、あまり外に情報を流すようなことはしない方がいいらしい。
それにしても妙に似合うな、ウェイター服と思えば雅の格好を改めて見て斎藤が口を開いた。

「馬子にも衣装だ、と総司が言っていたが確かに俺もそう思う」
「……それは似合っているって言いたいの?それとも"馬子"だってこと?」
「いつまでも一つの場所に留まっていては不審に思われるから調理場の方へ行く」
「スルーか!」

すたすたと歩いて去ってしまった斎藤に若干苛ついていると、同じく招待客に扮した千鶴(土方は危ないから待機していろと言ったが、お役に立ちたいと言って引かなかった)がどこぞの会社社長に声をかけられて挨拶している。
そういえば普段の謙虚さから皆忘れがちだが千鶴は警視庁長官の孫娘、れっきとしたお嬢様。
挨拶もそつなくこなしているのを感心して見ていると前方に金髪の、やたら目立つ格好に着飾った男が立った。

「当然だ、アレは我が妻となる女だ。お前のようなじゃじゃ馬ではない」
「じゃじゃ馬で悪かったわね、っていうか私一言も喋っていないんだけど」
「お前ごときがこのような場に来て考えることは一つだろう」

フンと偉そうに鼻で笑う風間に溜息をつきつつ、辺りに視線を巡らす。
入り口から一番遠いテーブルの前には跡部家当主と孫であるこの前の氷帝学園での事件の際には協力してもらった跡部景吾が慣れた様子で、挨拶を交わしている。
こっちも生粋のお坊ちゃん、その様子は板についていた。

「偶然やなあ、こないなところで会うやなんて」

独特の関西弁及び中学生とは思えない低音ボイスの丸眼鏡少年の突然の登場に、ああこの前のバスの子かと納得する。
親が大学病院の教授ということでそれなりに親同士の親交があるため今回招待されたと忍足侑士は簡単に説明した。
「この前の事件に関係してるん?」という忍足に、何故正体を知られているのだと目を吊り上げた風間に慌てて先日のバスに爆弾が仕掛けられた件の被害者だと説明した。
同時に誰かに聞かれたら不味いので声のトーンを落とす。

「跡部当主及び、その親族の護衛よ。今回の爆破事件、どうやら跡部が狙いらしいから」
「ああ、あの家も無駄に恨みこうてるからなあ」
「だから今日はあまり跡部君に近づかないで、色々ややこしくなるから」
「こないな場所で跡部には近づかへんよ、部活ん時と人格違うんちゃう?っていうくらいキャラちゃうし」
「流石にこういった場でもあんなキャラだったら問題でしょうね」

それなりに分別はあるということだろう。

「そろそろパーティーの進行が始まる、行くぞ」
「行くぞって、どこへ」
「我が妻のところに決まっているだろう。ああして下劣な男共が寄ってきたらどうする」
「仮にも上流階級の人だから!」

自分意外皆下、という俺様理論をナチュラルに振る舞ってくる風間に突っ込みつつ日頃公安で風間のお守りをしている天霧と不知火(特に天霧)に深く同情した。
ていうか自分こそ今護衛の仕事中だということを失念しているだろ、と思いつつそんな様子に苦笑している忍足と別れを告げてより跡部に近いテーブルへと移動する。
移動しやすいようにパーティーの形式は立食にしてもらった。
間もなく司会を務める永倉に宴会みたいなノリにならないか内心ハラハラしていると、不意に再び千鶴と目が合った。

(………?)

一瞬、ほんの一瞬だが千鶴から違和感のようなものを感じて首を傾げるも次の瞬間にはいつもの笑顔になり、やはり気のせいだったかと思い直す。
そうしている間にやはり若干パーティーよりも宴会のノリになっている永倉の進行により、皆の視線が前へと集まる。
というのも、どこぞの有名財閥からの贈呈品である樽入り日本酒が紹介されているらしい。
だがこれは予め跡部側と打ち合わせしていた偽物、参加者の視線を集中させるためのものだ。
ただ護衛されるよりも事件の収束を望んだ跡部家当主の要望により犯人の炙り出し作戦が立てられた。
わざと全員の視線を一点に集中させることによって、犯人に行動を起こす隙を与える。
その作戦が上手くいったのか、目立たないようにインカム型に耳に取り付けた無線機から斎藤の声が入ってきた。

「対象の右後ろ十数メートル、男が一人不審な動きをしている」

その声の指し示す方向に目を向けると、スーツ姿に身を包んだ一人の若い男が胸元に手を入れたまま跡部景吾をじっと見つめている。

「……どうします、確保しますか?」
「いや、まだ確たる証拠はねえ。怪しまれなように出来るだけ接近しろ」

別室に待機し、到る所にある監視カメラの映像や他のメンバーからの通信を管理している言わば司令塔の役割を担っている土方の命令に従い、少しずつその男へと近づいていく。
その時、男が胸元からあるものを取り出した。
照明に黒光りするそれに雅の顔色が変わる。
そして男はそれ―――拳銃を上へと向ける。

「土方さん!」
「……くそ!!」

バン、バン!!と銃声が数発会場内に響き渡った。







≫忍足の登場頻度高し


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