03


「このバス内は全て探したけど爆弾は見つからなかったのね」
「隅から隅まで探したで」

他の一緒のバスに乗り合わせていた生徒達も一同に頷いた。
とにかく爆弾がどこにあるか把握だけでもしておこうという行動は正しいと言える。
しかし運転席から一番後方の座席まで、荷物台や天井、床下にスペースがないか全て隈無く探したが見つからなかったらしい。

「となると、爆弾はバスの外側に仕掛けられているんだろうね」
「今のバスの速度は約九十キロ弱、結構な風圧だけど行けそう?」
「ま、飛ばされないよう精々気をつけるよ」

適当な窓を開けて身を乗り出し、足をかける。

「ちょっ、おま……外に出るのか?」
「爆弾は外にあるんだから解除するには出るしかないでしょう」

向日が信じられないとばかりに声を上げたと同時に思い出す、この二人はかなりのスピードで走行中の車から飛び移るなんて芸当を平然と成し遂げたのだ。

「このトンネル抜けるまであとどれくらい?」
「うーん、二分半くらいじゃないかな」
「出来れば二分くらいで爆弾見つけ出して。私は前方の方行くから、後方よろしく」
「ホント、人使い荒いなあ」

苦笑しつつも先に出た雅に続いて沖田も窓枠に足をかけて身体を外に出すと、予想よりも強い風圧に目を細める。
そして腕を伸ばし車体の屋根部分に掴まると、腕の力でなんとか上に乗った。
乱れて目にかかる髪を煩わしく思いながらも屋根を見渡すが、これといって怪しいものは見当たらない。
ここにはないかと判断すると、風に吹き飛ばされぬよう細心の注意を払いながら窓枠に掴まりつつ、バスの側面にも爆弾がないことを確認しながら後方部へと向かう。
最後尾に辿り着き背面に顔を出す、何もない。

「これであっちにもなかったら考えられるのは一つしかないよなあ」

解除することを考えると正直きついだろうな、と独り言を呟きながら背面を下り、間違って落下でもしたらこの速度だ、最良でも大怪我最悪お陀仏なのできちんと掴まってバスの車体と地面との間を覗き込んだ。

「雅、爆弾見つけたよ」

風圧に声が掻き消されぬよう沖田にしては珍しいくらい大きめの声を張り上げる。
前方のチェックをしていた雅は、声を聞いて沖田のいる場所を見るとうわ、と声を漏らした。
予想の範囲内で最も最悪の場所だ、しかも沖田が懸命に手を伸ばすが到底届きそうにない、中央部に仕掛けられていてバスに乗りながらして爆弾の解体は不可能だ。

「どうするの、これ」
「トンネルを抜けるまであと数十秒……総司、今すぐ車体の上にきて」
「え、大丈夫なの?」
「ここを抜ければ助っ人がくるから」

携帯を取り出すとトンネル内では通話出来ないので、出たらすぐに繋がるように準備をしておく。
二人とも上に乗り適当なところに掴まる、間もなくバスは速度がかなりのままトンネルを抜けた。
時刻は九時近くになり、太陽の光が照らしてきて眩しげに目を細める。
トンネルが抜けた場所は橋になっていて、その周りは海になっていて日光を遮るビルの類いがないのだ。
通常ならばこの橋も車の通りが多いが、爆弾を仕掛けられたバスが走行中だということで通行止めにされており、他には一台もない。
と、その時少し離れたところにヘリコプターが一機バスと並行するように飛んでいるのに気づく。

「お、おいユーシ、あのヘリ」
「テレビ局の中継かなにかやろ、爆弾がしかけられたんやから当然大騒ぎにきまっとる」
「いやいやそうじゃなくて!ヘリに乗ってるやつ、こっちに銃向けてねーか!?」

んな馬鹿な、そう思って忍足は目を凝らす。
眼鏡は伊達で視力が普通にいいと言っても、向日に比べると動体視力は劣るのだ。

「……せやな、確かにゴツイ銃もっとるわ」
「じゅ、銃ってなんでそんな!」

鳳が素っ頓狂な声を上げる。
同時にその声がバス内に聞こえてしまいざわめきが広がった。

「オイ、あれどうなってんだよ!」

宍戸が窓から身を乗り出し上に乗っている警察官に怒鳴る。
これから自分達はどうなるのか、言い知れぬ不安をぶつけた。
だが対してその声を拾った雅は「大丈夫大丈夫、見てなって」と楽観的に返してくる。

「あれ、私が呼んだから」
「呼んだって、ちょっと銃完全にこっち向いて……」
「大丈夫だから、斎藤君の射撃能力はピカイチだから」

そしてトンネルを抜けて漸く携帯が通じるようになったので、どこかに電話をかけ始める。

「そう、バス下部の中央付近……見える?うわー、そのトンデモ視力には感謝する。それじゃあよろしく」

その瞬間ヘリコプターから銃が発射されて、バスにいる面々が息をのむと同時に銃弾は見事に爆弾を打ち抜いた。
打ち抜かれた爆弾はバスから落ちて、地面に転がり衝撃で爆発する。
バス自体が百キロ近くのスピードを出しているので、どうにか爆発からは逃れることに成功した。

「さっき斎藤君に電話してたのってこういうことだったんだ」

爆発の危機から脱して、車内に戻った雅に沖田が言った。

「可能性としてあそこに爆弾が仕掛けられることは考えられたから、保険よ保険。斎藤君の視力と射撃能力ならあれくらいなんとかなるかな、と思って」
「中学生完全にビビってるけどね」
「……マジで死ぬかと思った」

先程の爆発によってどうやら命の危機から解放されたことに安堵したのか、皆ハアと息を吐いている。
彼等に「お疲れ様、頑張ってね」と声をかけるとバスを最寄りの適当な場所に止めさせた。
間もなく連絡を受けた所轄の警官が駆けつけるので、氷帝の生徒はその警官に簡単な事情聴取の後自宅に送るよう指示したのだった。










「今回の連続爆破事件、どうやら警察上層部と関係があるらしい」

上司に呼び出された土方が帰ってきたかと思うと唐突に告げた。

「警察上層部?何でまた」
「バスに仕掛けられていた爆弾が、先日刑事部管理官の自宅に仕掛けられた爆弾と同一のものだったらしい」
「その管理官はどうなったんだ?」
「幸いすぐに爆発物処理班を呼んで事無きを得たとさ、犯人の方も本気で殺す気はなかったのか爆弾だけ仕掛けて放置したみてーだな」
「なんだそりゃ」

永倉が首を傾げるのも無理はない。

「有名私立中学の生徒を狙った爆破事件と、警察上層部……なんか裏がありそうですね」
「調べたところこの前被害に遭った氷帝学園のある生徒の家と上層部に繋がりがあることがわかった」
「繋がり?」
「雪村、さっき公安から来た資料を読んでくれ」
「は、はい!」

千鶴が手に持っていた紙を読み上げる。
それによると氷帝学園中等部の生徒会長、跡部景吾の家である跡部家はその職業柄上層部と古くから繋がりがあるらしい。
それ自体は全く後ろめたいものではない、単に警察庁長官と先代跡部家当主、つまり跡部景吾の祖父が囲碁仲間なだけだ。
その延長でよく懇意にしているとか。

「つまり、連続爆破事件は警察上層部に関係がある跡部を狙ったもので中学生はそのとばっちりってことか?」
「そういうことだ」

藤堂の問いに答えたのは土方ではなかった。
この場にはいない筈のその声に、一斉に皆が扉を振り向く。
そしてそこにいる人物に土方は露骨に顔を顰めた。

「今回の事件、お前達対策室と我々公安部が合同で捜査を行うことになった、精々足を引っ張るなよ」

そこにいたのは警視庁公安部の警部、風間千景だった。








>>風間初登場。バスの件はまるっと緋弾のアリアのオマージュです、バス描写が稚拙ですみません。


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