02


「ねえ、明らかにこれ法定速度より早いよね?」
「仕方ないでしょう、非常事態よ」
「じゃあせめてサイレンくらい鳴らそうよ、うわっ」
「んなもん鳴らしたら犯人にばれるでしょうが!」

急カーブに差し掛かり、沖田は傾く車体に咄嗟にシートベルを締めた。
最初からちゃんと締めとけよ、と思いながら視線は前方から目を離さずにハンドルを握りアクセルを更に踏みしめて加速する。
このまま行けばもう数分もしないうちにジャックせれているバスまで追い付けるだろう。
だが沖田に対応させている対策室から繋がる電話、千鶴によるとどうやらバスの方も犯人からの脅しでどんどんバスの速度を上げていかないと爆破するように仕掛けられているらしい。

「加速しないと爆破する……可能性としては有り得るわね」

そう呟くと沖田に「ねえ、ちょっと斎藤君出して」と言って受話器を自分の耳に当てさせる。

「ええ……、そう。よろしく……早急に」
「一君に何を頼んだわけ?」
「それはもう少ししてからのお楽しみ」
「へー、意外と余裕なんだ」
「そんなわけないでしょう、可能性も考えて手を打っておいただけよ……あれ、あのバス!」

前方に氷帝学園のバスを見つけ、雅が声を上げた。

「どうするつもり?」
「乗り移る」
「そりゃまた無茶苦茶だねえ、まあ嫌いじゃないけど」
「じゃあまず運転代わって」

シートベルトを外して片手にハンドルを掴み、胸ポケットから拳銃を取り出した。

「え、ちょっと代わってってそんなこと簡単に言われても困るんだけど、僕免許持ってないけどいいの?運転経験って言ってもゲームセンターでくらいしかないよ」
「この際仕方ない、一瞬だから」

仕方ないなあ、と苦笑すると沖田もシートベルトを外し運転席の方に身を乗り出すとハンドルを握る。
雅の方はアクセルに体重を乗せて窓の外に身を乗り出しバスの隣をぴったりくっついて走る小型の車に銃口を向ける。
おいおい、まさか日本の普通の道路でウージーなんておっかないものを乗せている車に遭遇するなんて思わなかった、しかも遠隔操作で発射するように設定されているらしくバスの方向に向いている。
直接サブマシンガンに打ち込むのは跳弾の可能性もあるので、車自体を走行不可能にしてやろうとトリガーに指をかけたところで沖田がねえ、と声をかけてきた。

「もうすぐトンネルに入るよ」

確かに前方にはトンネルが見える、もう数秒も経てば中に入るだろう。

「寧ろ好都合、このトンネルって抜けるまでどれくらいかかる?」
「都内ではかなり長い方だと思うよ、五分ちょっとはかかるんじゃない」
「じゃあ入った瞬間あの車撃つから、準備しておいて」
「ホント人使い荒いなあ、まあいいけどさ」

そんな会話を交わしている間に、バスとその隣の車もトンネルに差し掛かる。
そしてその直後自分たちの車もトンネルに入った瞬間、雅は引き金を引き、前方の車のタイヤに向かって連射した。
タイヤをパンクさせられて急停止した車を間一髪避けると(沖田では当然対処できないので咄嗟に雅がハンドルを横に切り、どうにか避けた)運転席に戻りぴったりとジャックされているバスに寄せる。
一連の出来事をポカーンと見ていたバスの中にいた氷帝学園の生徒達に窓を開けるようボディランゲージで指示する。
最初に呆けていた状態から戻った丸眼鏡の中学生が窓を開けた。

「警察よ、氷帝学園のバスで間違いないわね」

速度の所為か殆んど叫んだに近かったがようやく聞き取れたようで頷いた。

「これからそっちに飛び移るから、危ないから退いてなさい!」
「え、ええ!?」
「……車どうするつもり?」

沖田が冷静に突っ込んだ。

「先に飛び移って、私が後から行くから。ブレーキもちゃんと踏むからそのうち止まるでしょ。斎藤君にここら辺は人が寄り付かないようにしてもらってるからちょっと放置しても事故ったりしないでしょ」

沖田が冷静に「馬鹿じゃないの?」呆れたような目で見ているが、ここはスルーしておく。

「まあ、最悪この車がちょっと故障しても左之さんに経費で落としてもらえばいっか」

今は一刻を争う事態なのだと言えば、はあと溜息をついて本人が聞いたら勘弁してくれと言いそうなことを言うと、助手席を後ろに倒すと後部座席に移りドアを開けると風圧で危ないので後ろの窓を開けて身体を外に出す。
一メートルほど感覚を開けてバスと同じ速度を保っていると、少し衝撃が走って沖田がバスの開かせた乗車口へどうにか飛び移ったことを確認した。

「ほら、次は君の番」

着地した場所から沖田が退いたことを確認すると、ハンドルが真っ直ぐであることに細心の注意を払って全開にした窓に手をかける。
そして思いっきり足元のブレーキを踏んだ瞬間、それを踏み台のようにして、飛んだ。
少しジャンプ力が足りないかと思われたがどうにか手すりにつかまり、バスの内部に入ることに成功する。

「はあ……、寿命が縮まるかと思った」
「自分が言い出しておいてよく言うよ」

我ながらまるでアクション映画のスタントマンみたいな芸当をやってのけたものだと感心しつつ、再び唖然とした様子の中学生たちに事情を聞くことにする。

「爆弾が仕掛けられた場所は?」
「わ、わからねえよ。さっきまで横走ってた車のアナウンスで爆弾があるとか言ってただけで実物は……」
「成る程、バスの中探してみたりはした?」
「一応中は運転席だとかも全部調べたけどなかったで」

それぞれ帽子をかぶった少年と、先程の丸眼鏡で関西弁の生徒が答えた。
その関西弁の生徒に見覚えがあるな、と思えばそれは相手も同じだったらしくこちらよりも先に雅のことを思い出したように声を上げた。

「誰かと思えば、この前跡部といた刑事さんやないか」
「あ、ホントだ!」

オカッパ頭の少年も雅の顔を見て思い出したようだった。

「知り合い?ていうか跡部って誰」
「ほらこの前氷帝学園で事件があったでしょ、そのときに捜査協力してもらった生徒会長」
「ふーん」

沖田はというと、少し不機嫌そうだった。









>>マリカーも真っ青のとんでもない運転ですね


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