01


その日はいつもと変わらない朝の筈だった。
最近多発しているという比較的裕福な学校の生徒を狙った連続爆破事件の影響で、集団登校という一見すると小学生かと突っ込みたくもなったが正直そんなことを考えていたのもどこか自分には関係のない、巻き込まれることもないだろうと軽んじていたからだろう。
家の方向が近いもの同士で、普段は運転手つきの自家用車というには豪華すぎる車で登校する生徒たちが揃って貸し切りのバスに乗り合わせる、まるで幼稚園児みたいだと近くで友人とお喋りをしていた女子生徒が言っていた。
宍戸亮としては普段から送り迎えなどごめんだと普通に登校していたので、いつもと変わらないがそのせいで朝練がないことが少しばかり不服だった。
吊革に掴まりながら、窓の外の見慣れた風景を何となく眺める。
途中で同じバスに乗り合わせた鳳や忍足、向日と共に適当に雑談しながら揺られていると、突然バスの外から変な電子音が聞こえた気がした。

「宍戸さん、今変な音しませんでしたか?」
「ああ、俺も聞こえた」

隣で同様に吊革に掴まっていた鳳と顔を見合わせ、窓の外の様子を見ることにする。
ゆっくりと窓を開きあまり推奨される行為ではないが窓から顔を出し外の様子を窺う。
心配症な鳳が「宍戸さん、危ないですよ!」と慌てて言うが大した風圧でもないので別段危険ではないだろう。
電子音が聞こえてきたのは確かバスの後方の方だった、と思いそちらの方に視線を向けるとパン!と音が鳴り響き鼻先を何かが掠める。
それが平穏に暮らしていたら一生お目にかかることなどないだろう、刑事ドラマなどでしか見ることのない銃弾だと最初に気づいたのは忍足だった。

「宍戸!早うバスの中に戻り!」

その切迫した言葉に脳内が何事かを理解する前に慌てて身を引っ込める。
すると追い討ちをかけるように機械で作ったような声がバスの外から聞こえてきた。

≪――このバスは七十キロ以下の速度で走行すると仕掛けられた爆弾が爆発します≫

それはまさにそもそもこのバスに乗る原因となった連続爆破事件の手口だった。
走行中の車に予めプラスチック爆弾を仕込んでおき、遠隔操作でコントロールしアナウンスで乗っている不幸な被害者を脅す。
最終的には絶対爆破させるため車内から脱出を試みるものもいるが、それを防ぐために別に銃を装備した車が追跡してるとかとんだ手の込みようである。
バスの中を恐ろしいまでの静けさと緊張感が襲う。
まさか集団登校中に巻きこまれるとは。

「お、おいユーシどうすんだよ……」
「落ち着き岳人、慌てふためいてもどうにもならへん」

こういうときはミスターポーカーフェイス、忍足の落ち着き具合に感服するしかない。
しかし落ち着いたところで何をすればいいかまったくわからないことも事実。
今まで経験したことのない事態に途方に暮れるしかなかった。









「連続爆破事件、ですか」
「上から早急に解決しろとのお達しだ」

報告書から目を離さず、イライラといった表情を隠さずに土方が溜息をついた。
そもそもこの案件は別の班の担当だったはずだが、一向に犯人は特定できず死傷者も増える一方。
被害者が金持ち学校の生徒ばかりなためか親に警察や政府とも関係があるものもいて早くどうにかしろと圧力をかけてきて、困り果てた上が最近検挙率のいいウチに白羽の矢を立てたらしい。
報告書が積み重なっていてろくに休みの取れていない土方にはいい迷惑なようだが。
実は最初は芹沢班に命じたが芹沢が今忙しいとかで断ったらしい、あの人もとんだ命知らずだ。

「しっかしどうすんだよ土方さん、毎回爆弾仕掛けられてる車に規則性がなくて手の打ちようもねえだろ」
「学校も学年もバラバラだからな」

永倉の言葉に原田が頷く。

「学校側は何か予防策はしているんですか?」
「バスチャーターして集団登下校だとよ」
「……は?何それ完全に狙い撃ちされるじゃないですか」
「勿論それは俺も言った、が聞く耳持たねえ」

土方さんちゃんと仕事してるんですかと茶々をいれる沖田。
言い返すのも面倒になったのか何も言わず土方はガシガシと髪を掻き上げた。
そこへ白鳥が若干控え目に声をかける。

「土方さん、本当にそのバス狙われる可能性ありますよ」
「ったく、あの無能集団…!」
「落ち着いてください、今までの手口から見て仮に仕掛けられていた場合も爆破まで時間は十分にあります」

現在まさに生徒の登校時間、もし今走行中のバスに爆弾があっても斎藤の言うようにこれまでの手口では犯人は標的を散々走らせてから最後に爆発させる。
その時間は平均で二時間程度、被害者の恐怖を煽るためなのなら悪趣味だとしか言いようがない。

「仕掛けられる可能性のあるバスを特定しましょうか?」
「そんなことが出来るのか?」
「人間に完全な無作為などありえません、その選び方には必ず法則性が生じます」

そういうと、雅は自分のデスクにあるパソコンを起動しカタカタとキーボードを叩き始める。
そんなことが出来んのかと永倉は物珍しそうに画面を見るが、そこに羅列している大量の文字数字になんじゃこりゃと顔を顰めた。

「おいおい、暗号でも解読してんのかよ」
「新八っつあん、一応東大卒だってのにそんなんで大丈夫なのかよ」
「うっせー、パソコンは専門外だ」

そんなやり取りをしてる間にも結果が出たのかガタッと椅子の音をたてて雅は立ち上がった。

「国道沿いの道を走行する氷帝学園のバス!そこが一番可能性が高いです」

その時、同じタイミングでデスクに開かれている電話が鳴り斎藤がそれを取る。

「はいこちら特別犯罪対策室、……はい、国道沿いのバスがバスジャック、手口から一連の爆破事件と同一犯と思われるですか」
「おい、本当に起きちまったじゃねーか」
「総司、行くよ!」

斎藤の会話内容を聞くとすぐに雅は歩き出し、ちょうどそこに置いてあった原田の車の鍵を取ると借りてきますよ、と言って駆け出した。

「え、どうして僕?」
「当たり前だろ、爆発物って言ったらお前以外扱える奴いねーだろ」
「あーはいはいそうでしたね。じゃあ土方さん、近藤さんに僕がしっかり働いてるって言っておいてくださいよ」

そう言って雅を追うように駆け出す沖田を見送り、近藤さんに報告しなくてもちゃんと働いてくれよ…と零したのだった。








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