01


「白鳥君、確か明日は貴女非番でしたよね」

先日解決した事件についての報告書がようやく書き終わり、うーんと伸びをしていると対策室のドアが開きあまり姿を見せない人物が入ってきた。
こちらから捜査において協力を促すことはあっても、彼らも他の課から回ってくる仕事もあるため忙しいのだ。

「珍しいですね、山南さんがこの部屋に自ら足を伸ばすなんて」
「ええ、個人的に貴女に用事があったので」
「確かに明日は非番ですし用事もありませんけど?」
「それなら良かった、少し行ってきていただきたい場所があるんです」

そう言って山南が差し出したのは神奈川県にある大学病院の紹介状だった。

「私どこも身体悪くないですよ?」
「例の貴女の血液に含まれている謎の物質についてです。そこの大学病院で助教授をしている私の知人にその話をしたところ大変興味を持って……心配しなくても彼に他言無用だとお願いしてありますよ」

事の発端は数ヶ月前、科捜研に所属している井吹龍之介が暇潰しをかねて日頃割りと仲良くしている対策室のメンバーの血液を採取して顕微鏡で調べてみた(当然ながら本人の了承は得ている)
意図としては多分永倉あたりのコレステロールが多いとかそういうもので、千鶴の血が理想的だとか土方の血圧が高いとか笑いの種になっていたが一つ、雅の血液から謎の物質が見つかって山南に相談したという。
その後謎の物質が見つかったという事実は他には隠して密かに度々山南に血液を提出して研究しているのだが、中々その正体は判明しないらしい。
あまり他言はしてほしくなかったため微妙な表情になっていた雅だったが、その助教授が山南と大学の同期で非常に懇意にしている口の堅い人物だということで差し出された紹介状を受け取ることにしたのだった。









「すみません、隣いいですか?」

立海大附属病院、名前には聞いていたが随分と広いし綺麗だし設備の整った病院だなと感嘆しながら受付を済ませて待合室で適当な雑誌を眺めつつ待っていると不意に声をかけられ顔を上げた。
制服に身を包んだ儚げな印象の少年が少しだけ困ったような表情で立っている。
周りを見ると成る程合点がいった、どの席も人が座っていて自分が割りと端の方に座っていたこの椅子くらいしか座るスペースがないようだ。
中学生だろうか、礼儀正しい少年の態度にも好感が持てて「どうぞ」と二つ返事で了承した。

「平日の昼間だというのにこんなに混んでるんだね」
「ここは名医が多いと評判ですから、全国から診療に訪れる人も多いんですよ」
「詳しいね、私は初めて来たから驚いちゃった」
「数ヶ月前まで免疫系の病気で入院していたんですよ、もう治ったんですが今日は定期検診なんです」
「そうなの……」

詳しくは免疫系の病気だったら完治させるためには手術も必要だったのだろう、こんなに若いのに苦労している(何だかこう言うと自分が年寄り臭く感じるが気にしない)

「でも部活の友人が頻繁に見舞いに来てくれて、精神的にすごく支えてくれましたから」
「部活って、結構鍛えてるみたいだから運動部?」
「はい、テニス部です」

またテニス部か!と内心突っ込んだが目の前の少年は当然こちらの事情など知っているはずもないので黙っておく。
先日の連続殺人事件では捜査協力をしてもらったものだが同じテニス部だからといって知り合いだという確証もない。

「私は特に風邪とか病気とかでもないんだけど、検査にね」
「人間ドックですか?」
「うーん違うかな、知り合いの紹介で血液検査」

それ以上は初対面だし言わないでおいた、少年の方もあまり踏み入ったことを聞くべきではないとそれ以上は何も言わない。
そういえば心の中とはいえ「少年」と呼び続けるのは失礼だなと思って、相手に名を聞くならまず自分から方式で名乗ることにした。
流石に刑事というのは伏せておくが。
少年の方も「お姉さんと呼ぶのはちょっとどうなんだろうと思ってたんですよ」と言って自己紹介をしてくれた。
お姉さんって、この年の悪ガキは二十代前半の女性にもオバサンとか失礼なことをのたまうというのに本当に礼儀正しい子だ。

「幸村精市です」
「幸村君、ね」
「じゃあ俺の方は白鳥さんと呼ばせていただきます」

職場では千鶴としか流れない和やかな空気、癒される。
それから取りとめのない会話をして、気づけば周りに座っていた人々も大分様変わりしていてそろそろ自分も呼ばれる番だろうか。
そんなとき、静かな病院の中で響き渡る一際大きな悲鳴が駆け巡った。

「だ、誰か!先生を呼んできてくださいっ!」

非常事態だと見るからに焦っている看護師の様子に何事かと聞きに行く。

「どうしたんですか?」
「患者さんが、中庭で倒れていらして……出血が」

ここは病院であり病状が急変する患者がいてもおかしくはない。
だが声を聞きつけて駆け付けた医師の後から看護師の言っていた中庭の様子を見た。
中央にある大きな木の下で男がうつ伏せに倒れている。
その男性の腹部あたりの地面には血が広がっていて。

「ん……?」

身体の近くにキラッと太陽に反射するものが見えて目を凝らすとそれは手術で使われるメスだった。








>>ウィキペディアによると幸村は作者曰く「コート外では穏やかな人」


prev next

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -