05
校内で殺人事件が起こったというのに翌日も滞り無く授業が進められている、実に氷帝学園らしい。
そりゃそうだ、あんなクズ一人いなくなったところで世界は変わらず回り続ける。
目には目を、歯には歯を。
奴等は松子お姉ちゃんを殺した。
罵って痛め付けてお姉ちゃんの精神も肉体もボロボロにして殺したのだ。
あんなに優しかった松子お姉ちゃんが死んだというのに奴等はのうのうと生きているという事実に耐えられなくて、それならば私が罰を下すことにしたのだ、何もしない社会に代わって。
それもあと一人で全てが終わる。
無能だと思っていた警察が意外にもあそこまで素早く対応してくるとは予想外だったがきっともう手詰まりだ、第一あれはただの状況証拠で絶対的な証拠など何一つ無いのだ。
松子お姉ちゃん関係に気付いたのか面倒なことに護衛の警官がついていたが、流石に西郷のように大胆なことはしない。
苦しむ姿を間近で見れないことは残念だがもう手段を選ぶ余地はないのだ。
誰もいなくなった部屋の扉を開き、中に入る。
机に近寄り一番上の引き出しを開けると小さなピルケースに入っているカプセル状の薬が目に入り笑みが溢れた。
ポケットに忍ばせていた毒を取り出し薬に塗る、後は奴がこれを飲めば私の復讐劇は全て終わるのだ。
地味な幕引きだが贅沢は言っていられない。

「残念だったな、アンコールは言ってやれねぇよ」

不意に背後から声が聞こえて振り返る。
退路を断つかのように開かれたドアには一人の男が立っていた。
覚えている、昨日西郷を殺した後に最初に来た警察の一人だ。

「観念するんだな連続殺人犯、現行犯だ言い逃れ出来ない」

土方の脇から斎藤が室内に入りまさに今毒が塗られたカプセルを手に取る。

「アーモンド臭に硬貨の錆が取れる……青酸カリで間違いないと思われます」
「ああ、ご苦労だったな斎藤」
「ええ確かに教頭先生の薬に毒を盛りましたけど、昨日の西郷先生の件は私っていう決定的な証拠でもあるんですか?それに連続殺人って……」
「どんなに変声機で声を変えても人間の声には声紋というのがあるんだよ」

少女の身体が微かにビクリと震えた。

「実質三人目の被害者である寺田登子は悪質な金貸しから借金していたようだからな、万が一を考えて自宅の電話に盗聴機を仕掛けていたんだよ。もし弁護士沙汰になっても自分に有利に働くように」

それは完全に偶然としか言い様がなかった。
だが最も立証が難しいと思われた殺人幇助を裏付ける証拠となった。

「おい白鳥、認証は済んだか?」
「はい、ばっちり一致しました」

廊下にいた雅の手にはノートパソコンがあってまさに今自分の声が録音されたのだと少女はギリッと歯を噛み締める。

「そしてもう一つ、動かぬ証拠って奴だ」

そう言って土方は少女が履いている黒タイツを指差した。

「二人目の被害者、木戸象二郎の爪からごく微量だが黒い繊維が検出された。おそらくどういうタイミングかは定かでねぇが犯人の足を掴むなり引っ掻くなりしたんだろうよ。検識の結果とある高級ブランドのオーダーメイドだそうだ。氷帝の女子は大部分タイツはオーダーメイドなんだそうだな」

昨日生徒会長である跡部に確認した内容だった、流石お金持ち学校というか既製品を買う女子は滅多にいないらしい。
そこで下校時刻をすぎて生徒は皆いなくなった時間帯に、手分けして西郷の件で絞り込んだ女子の靴箱から僅かに残っている繊維を調達し時間外だが科捜研に無理言って照合してもらったのだ。
予想は的中、流石に犯行時のと全く同じタイツを履いてはいなかったがメーカーに問い合わせたところその少女のものであることが判明した。

「お前と昔彼等から受けたイジメを苦にして自殺した吉田松子とは一ヶ所だけ通学路が交わっていた」

幼い頃、両親が多忙なために孤独を感じていた少女はその場所――公園で吉田松子と出会った。
本来イジメなんてなければ面倒見のよい明るい性格だった彼女と少女が親しくなるのは当然のことだっただろう。
そんな中、イジメに耐えられず彼女は自殺してしまった。
幼い少女には死の真相など知らされることはなかっただろう、だが少女は知りたかった何故あんなに優しかった彼女が死ななければならなかったのか。
そして残酷すぎる事実に行き当たるには時間はかからなかった。

「……なんだ、そんなところまで調べたんだ。警察って無能だと思ってたけど貴方達はそうじゃないみたいね」

観念したのか少女は小さく息をついて笑った。







「良かったのか?土方さんにいいとこ取りさせて、あの推理も証拠が残ってそうな場所の見当つけたのも雅なんだろ」

警官に連行されていく少女を見送りながら、藤堂は傍らに立つ雅に問うた。

「良いのよ、たまには土方さんにも花持たせてあげないと。さーて、昨日は殆んど寝てなくて疲れたからさっさと署に戻って千鶴に美味しいお茶でも淹れて貰おうかな」
「え、お俺も!」








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