04
カタカタとキーボードを叩く音だけが生徒会室に響く。
ソファに腰掛けている(生徒会室にこれまた豪華なものが備わっていることはもう言うまい)跡部は流石に雅が作業中のパソコン画面を覗き込むことはせずに自らも資料のようなものを読んでいる。
席を外してくれた有難かったのだが、セキュリティの関係上この生徒会室に出入りするためには生徒会役員の指紋認証が必要なため近くにいてもらわねばこの部屋に閉じ込められかねないのである。

「性別身長、及び犯行時刻のアリバイの有無から四十人にまで絞れたけどこれ以上は手詰まりね」

全くもって斎藤の仕事の速さには舌を巻いてしまう。
あれから一時間しか経っていないのに校舎に残っていた千人弱の対応を済ませてしまったのだから。
斎藤から送られてきたメールに添付されていた全員のアリバイは見事に整理がなされていて、正直簡単な作業だった。

「……随分と大きな独り言だな」
「聞こえるように言ってるのよ」

跡部が暇を持て余していることは明らかだった、こんな事件がなければ今頃コートの上でテニスに勤しんでいたのだから。
それも折角の練習試合だったのだ。

「文句なら犯人に言う、アンタ等警察に八つ当たりしてもどうしようもないからな」
「へえ、ただのお坊ちゃんかと思ってたら意外と大人なのね。それじゃあそんな君に一つ聞き込み調査、西郷先生ってどんな人だったの?」
「眼中になかった」
「うわ、ズバッと言うね」
「ウチで講師やってる奴なんて大抵コネで入れてもらったのばかりだ、教え方も上手くねえ」
「授業もたれてたことは?」
「二年の時に少しだけな、あまりにも酷いから外させた」
「マジでか」

流石跡部財閥とやらの一人息子である、学園からの待遇も半端ではなく彼の一言で教師の変更なんて簡単なことなのだろう。
そこへコンコンと生徒会室の扉をノックする音が。
誰かと思えば「白鳥、今日のところは帰るぞ」と不機嫌気味な土方の声。
一通り現場検証も終えて残りは所轄に任して帰還するようにお偉いさんからでも命令があったのだろう。
まあつまり説教の準備が整ったからさっさと怒られに帰って来いということで土方もそれを分かっているから不機嫌なのも無理はない。
跡部に「じゃあ、ありがとう」と礼を述べて指紋認証で鍵を開けてもらって廊下に出る。
去り際、跡部がその背中に一言「早急に犯人を逮捕してくれないと部活も出来ない」、それに「精進しますよ」と返してその場を去った。

「どうですか?何か出てきましたかその後」
「いや平助が特定した以外の成果はない、鑑識が指紋やらも取ってたが拭き取られていたから残ってないだろうな」
「そうですか……」
「それから一つ、事件の関係者がこの氷帝学園にもう一人いた」

土方によると、教頭の清河一郎が当時西郷を含め四人が苛めを行っていた際のクラス担任でいじめの存在を知りつつ黙認していたばかりか、助長させるような言動を行っていたとのことだ。

「恐らくこのタイミングで襲うなんて自殺行為はしないだろうが、念のため警官をつけて護衛させている」
「いえ、そうなら必ず犯人は清川を殺しに来ます」
「何だと?」
「犯人の性格から見てです、理知的な面も持ち合せていますから今回のような大胆な殺し方はしないでしょうが」
「だとすると、自動的に殺せる……毒か何かか」
「今のところはそのようなものは発見されていないがな、それより生徒の中に例の殺された連中のイジメと関わりがありそうな奴はいたか?」
「いえ、年齢も違いますし少し調べただけでは。しかし思い当たりそうなことがあるのでこれから署に帰って詳しく調べます」

イジメを苦に自殺した人物、吉田松子の妹かがいるかもしれないかと思ったがいなかった。
沖田が調べた話によると吉田松子に兄弟はおらず両親も彼女が自殺して数年後に事故で他界していて殺された四人に恨みを持つものは実質いなくなってしまった。

「しかしそのような性格の犯人なら、誘き寄せられるかもしれません」
「何だと?」
「隙を作ってやりましょう、その時必ず犯人は来る」
「だが清河の殺人未遂は立証できても、それ以外の殺しはしらばっくれられたらどうしようもないぞ」
「だから証拠固めをしておくんですよ」

ちょうど科捜研の方から有益な情報が入りましたから、そういえば土方の目が僅かに見開かれた。

「……行けそうか?」
「ええ、だから土方さん謎明かし役お願いしますよ」

チェックメイトだ、そう言って雅は笑った。









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