02
「あの、土方さん」
「何だ」

ハンドルを握る目線は真っ直ぐ前を向いたまま、土方は助手席に座る雅に返答する。

「さっき話題がイジメの件に触れたとき、総司なんだか不機嫌そうになってましたよね」
「……ああ、そうだったな」
「別に総司の過去を掘り下げたいとかではないんですが少しばかり気になって」
「これは近藤さんに聞いた話だが、アイツは幼い頃近藤さんのところの道場にいたときに兄弟子に稽古という名のイジメを受けていたらしい」

沖田が苛められていた、その意外な事実に後部座席に座っていた藤堂が若干腰を浮かせた。

「へえ、総司を苛めるなんて命知らずな奴らだな!」
「平助、シートベルトをきちんとつけろ」
「イタタ!一君分かったから足抓んなって!」

藤堂の隣に座っていた斎藤がキラリと目を光らせる。
確かに後部座席もシートベルトをつけなければならないと規定されているが、それにしては些か乱暴すぎると苦笑していると土方は騒ぐなと溜息をつき続けた。

「当時から近藤さんはああいう性格だ、総司のことに気付いた近藤さんは兄弟子に注意をしたが無くなるどころか」
「一層悪化したんですね」
「当然と言えば当然なんだがな」

近藤さんに告げ口をした、つまりチクリだと思われたということだ。

「結局どうしたんだ?それ」
「ある時総司が兄弟子と試合をする機会があってな、まだ幼かったから近藤さんも止めたんだが総司の奴が"やらせてほしいって"そこにいた誰もが無理だと思ったらしいんだが……」
「それで、結果は?」
「まさかの総司の勝ち、といっても総司も額から流血してたらしいんだが。それ以降兄弟子も実力を認めてイジメは無くなったとよ」

氷帝学園の正門はすぐ近くだ、あまりの敷地の広さに絶句(主に平助が)しつつも駆け寄ってきた警備員に警視庁だと土方さんが警察手帳を見せた。
慌てて警備員は門を開けて車は敷地内に入る。
それにしても正門を通ってからしばらく経つが一向に校舎に辿り着く気配はない。

「外側から見ても思ったんだけど、広すぎじゃないかこの学校……」
「氷帝学園中等部の総敷地面積は約三万六千平方メートル、大体甲子園球場と同じ広さだ」
「一君、それ関東ではあんまり使わない単位だよ…」
「中等部と初等部及び高等部、大学は併設している。全部の敷地を合わせたらとんでもない広さだろーよ」

どうにか駐車場を見かけて車を止めると土方はようやく見えた校舎に向かって歩き出しながら顔を顰める。

「話によるとここの学園の大半の生徒は車で登下校しているらしい」
「しかも運転手つき」
「うわー流石お金持ち」

色々かけ離れた世界に藤堂は思わず天を仰ぐ。
キョロキョロと見回す彼に無理もないと思いながら刑事がそんな不審な行動をして怪しまれたらどうするんだ。
やはり広すぎる玄関でスリッパに履き替えて、事務室で斎藤が正門と同様の手続きをしようとするが、どうやらもう警備室から連絡が行っているらしくにっこりと事務の女性から「承っておりますのでどうぞ」と促されてやっぱり豪華な絨毯に何度目かわからない溜息をつきたくなる。
職員室の場所が三階だということで、階段の方向に歩きだしたところで雅は玄関の方で会話している青い一団に気がついた。

「あれ……」
「どうした白鳥」
「ほら見てこの前の」
「あ、ホントだ」

少し大きな声の藤堂に気付いた一団の中で一際身長の低い少年がこちらを見て、目を見開いた。
そしてその様子に視線の向こうを見たもう一人の少年があ!と声を上げた。

「この前の警察の!」
「お久しぶり、越前君に桃城君」
「えーと、確か……」
「白鳥よ、白鳥雅」

先日の件で率先的に近寄ってきた二人に、不思議そうな顔をしている残りの面子に土方達を紹介する。
一段と大人びている風貌の少年が一歩前に出た。

「先日はうちの部員がお世話になったということで」
「いえ、捜査の一環ですから」

礼儀正しく部長の手塚です、と名乗る少年に四人も簡単に自己紹介をする。

「君達は一体どうしてここに?」
「練習試合で」

手塚の傍らにいた越前が答えた。

「ああ、確かテニス部だったね」
「でもこの学校広すぎてここまで来るのに三十分もかかったんだけどね」
「越前!」

目上の人にタメ口の越前に手塚が咎めるような声を上げるが、良いのよと笑う。

「こっちも夜遅くまで署に引き止めちゃったから」
「しかし食事までご馳走になったとか」
「部長、それは桃先輩だけっス……不二先輩何笑ってるんですか」
「いや、なんだか面白くて」

越前の背後にいた甘栗色の髪の少年は一連のやり取りを聞いてクスクスと笑っていた。

「警察の人って強面の人ばっかりだと思ったら、綺麗な女性の方もいらっしゃるんですね」
「あら、口がお上手ね」
「見かけに騙されちゃ駄目だって、こう見えて大の男を張り倒しちまうんだぜ……イダッ!」
「何根も葉もなことを吹き込んでんのよ馬鹿」
「いやいや事実だろ、なあ一君」
「俺からはノーコメントにしておく」
「おいお前ら、遊びに来てるんじゃねーんだぞ!」

完全に雑談モードに入っているのを見て、土方の眉間に一際深い皺が寄った。
手に持っていた若干分厚めのファイルが運悪く最も近くにいた藤堂の頭にヒットし涙目になる。

「どうして俺ばっかこんな目に……」
「申し訳ありません土方さん、さあ行くぞ二人とも」
「無視かよ!」
「まあまあタンコブになったら後で千鶴に冷やしてもらいなさいよ」
「人事だと思って……」

それじゃあね、と青学レギュラー陣に手を振って階段を上ろうとしたとき、上の階から突然キャー!!という女生徒の大きな悲鳴が聞こえてきた。
その尋常ではない様子に揃って顔を見合わせる。

「行くぞ!」
「多分声は二階の階段近くからだと」

全力で駆け上がると、そこには生徒が何人か集まっていて皆顔を青ざめさせていた。
その一人に声をかけると、震えた声で出来つつある人だかりの方を指差す。

「さ、西郷先生が倒れてて血溜まりが出来てて……」
「何だと!?」

人だかりを押しのけて中央に倒れる人物を見つける。

「クソ、やられた!」

土方が地団太を踏んだ。
そこには今回の訪問の目的である西郷隆仁が血溜まりの中息絶えていて、その背中には血のついたナイフが置かれていた。







>>平助不憫。


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