01


「この前は桃も越前も大変だったな」

部活後、着替えを済ませて帰る準備をしていると不意に先輩である副部長の大石が話題を振ってきた。
見れば他のレギュラー面子も気になっていたのかこちらの様子を窺っている。
先輩達も随分野次馬気質が高いっていうか知りたがりだ、特に乾先輩。

「カツ丼をご馳走になりました!」
「えーマジ!?取り調べでカツ丼ってホントに出るんだー」
「実際は事情聴取、カツ丼も取調室の外で食べたんスけど」

菊丸が感心したような声を上げるのでちゃんと訂正しておく。
ことの成り行きを見守っていた不二が笑った。

「でも犯人がすぐに逮捕されて良かったよ」
「いやー、あんな推理小説みたいな謎解き生で見たの初めてっスよ!」
「桃先輩はそんな空気の中でもガツガツ食べてましたけどね」
「おい言うなよ越前!」

桃らしいと周りの面々が笑う。
そこへ部室の扉が開き、顧問である竜崎のところに行っていた手塚がぐるりと中を見回す。

「明後日急な話だが練習試合が決まった、相手の学校からの希望らしい」
「どこに行くんだい?」
「氷帝だ」
「うわーあの学校滅茶苦茶広いから迷いそうになるんだよね」
「じゃあ迷わないように迷子札をつけておかないとね」
「不二ぃー!」
「冗談だよ」

そんな部員達に手塚は内心溜息をつきながら続けた。

「相手は何回も全国に行っている強豪校だ、油断せずに行こう」










「それでやっぱりこの前の件、連続殺人事件と接点あったんですか?」
「ああ、実質三人目の被害者と考えてもいいだろう。直接手は下されてねぇが」

デスクで眉間を押さえながら土方は若干苛つきを隠さずに言った。
それも仕方ないだろう、先日の殺人事件からの関連で一課に連続殺人の捜査協力を申し出たわけだがあの芹沢が土方に対してまた小馬鹿にしたような態度をとったことは火を見るよりも明らかだ。
それにキレずにちゃんと捜査協力も取り付けてきた土方はかなり忍耐強いと言える。

「で、どんな事件なんですか?その連続殺人」
「斎藤、説明してやってくれ」
「了解しました」

来客用のソファにどかっと腰掛けて最近評判の推理小説を読んでいる沖田を見やり、黙々と書類整理をしている斎藤の爪の垢を煎じて飲ませたいくらいだと嘆く土方に苦笑しながら斎藤の説明に耳を傾けた。

「一人目の事件は十日前、被害者の名前は大久保利也で胸を鋭利な刃物で刺されたことによる失血死。深夜公園で何者かに襲われ朝方に犬の散歩で通りかかった主婦が発見しました」
「二件目は?」
「その三日後、川辺りの木に吊り下げられた上に同じく鋭利な刃物で胸を刺され失血死。被害者の名前は木戸象二郎で、一人目の大久保とは高校時代の同級生だということから同一の犯人と見て捜査一課の芹沢班が捜査していました」
「出口が大胆になってる……」
「恐らく一人目で味をしめたんだろうよ」
「それでこの前殺された寺田もその二人と同級生ということですか」
「ああ」

芹沢班から回されてきた資料から目を離さずに土方は頷く。
尚も続く斎藤の説明によると、その三人にはある共通点があるらしい。
それは、イジメの主犯格。

「彼らが同級生だった高校二年の時、クラスでイジメを苦に自殺した生徒がいたとのことです」
「率先してイジメをしていたのが、その三人ということか」
「でもさ、イジメって同じクラスとかで傍観者が圧倒的に多いけどそういう傍観者も同罪だと思うけどね僕は」

自分はイジメられたくなくてシカトくらいはしたんでしょ、そいつらもという沖田はいつもの飄々とした態度より若干だが不機嫌そうだ。

「今はそのイジメ云々の話をしてるんじゃねーんだよ総司、被害者の共通点がそれだという話だ」
「わかってますよ」
「でもどうして犯人は三人目を自らの手で殺さなかったんでしょうね」
「白鳥、お前はどう見る?」

唐突に話を振られて少し考えて口を開く。

「この犯人は感情的だけど冷静な面を持ち合わせている。二人を殺してまだ犯行を行うつもりだが万が一捜査の手が自分に伸びてきた場合に備え、"アリバイ作り"をしたんです」

三人目の寺田登子は実際に殺した犯人は弟だが、繋がりから見て一連の連続殺人と同一犯だとされることを犯人は狙った。
それから寺田勢太に時間を指定して殺させ、その時間自分は確固たるアリバイを作る。

「しかし手口から見て次は必ず自分の手で犯行に及ぶかと」
「成る程、ちょうどあと一人当時のイジメの主犯だった奴がいる」
「護衛にでも行くんですか?」
「それが本人も流石に三人殺されたら次は自分だと怖くなったらしく、数日前から自宅には帰らず知り合いの家を転々としているらしい」

斎藤が淡々と告げる。
余程連絡をつけるのに苦労したらしい。

「したがって明日、その人物西郷隆仁の職場へ行く。メンバーは俺と斎藤、白鳥そして平助だ」
「それじゃ僕はお役御免ですね」
「馬鹿野郎、お前は残って情報収集してろ」
「そういうのは新八さんに任せとけばいいじゃないですか」
「俺がいない間は近藤さんが対策室に顔を出してくれるらしい」
「早く言ってくださいよ、仕事に気合いが入るなあ」

現金な奴だと土方は溜息をつく。

「それで、西郷隆仁の勤め先ってどこなんですか?」
「氷帝学園中等部、そこで講師だとよ」









.


prev next

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -