03
「長引かせてごめんなさいね、はいお詫びに言ってたカツ丼。出前取ったから」

話によると斎藤は何回も同じことを聞き直してきたのか何度も説明しなくてはならずげっそりした様子だった桃城だが、目の前に出されたカツ丼に目を輝かせたので簡単な人だなと先輩ではあるが越前は思った。

「それじゃあ僕はこれで……」

漸く桃城の事情聴取が終了したということで、我先に帰ろうと出入口のドアに向かった寺田だったがドアの前には体格の良い原田が立ち塞がる。

「最初に現場の写真を見たときから物取りの犯行ではないと確信していました」

椅子に座ったまま雅が話し始める。
周りのメンバーも何も言わない。

「まず現場の立地条件、見通しがよく人通りもそれなりにいい空き巣や強盗が好んで入るとは考えにくい」
「い、一体何が言いたいんです?」
「それから荒らされた室内。一見金目の物を探していたように見えますが、よく見れば慌てて手当たり次第に棚の中の物を出して投げ散らかしたようにしか見えません。これが何を意味しているか分かりますか?」
「物取りに見せかけた……?」
「そういうこと」

つい口をついて出てしまった。
横に座っていた桃城がなにやってんだ馬鹿、と目線を送るが相変わらずモグモグと口は動き続けている。

「勢太さん、貴方はいつもは徒歩で四十分かかるところを今日は走って帰った。少し急ぎ目に走れば半分程度まで短縮出来ます」
「………」
「すると六時よりも早く家に着くことが出来る。そこで家にいた登子さんを殺害し、物取りの犯行に見せかけるために一通り部屋を荒らしたあと彼女の財布や金目の物を持ち出して家を出た。そして外見がわからないような格好で家の近くで通行人にぶつかりわざと彼女の財布を落とした」

中学生を選んだのは、通学路だから住所から交番に届けるよりもすぐ近くの家に届けると判断してくれやすいて考えたからだろう。
そして思惑通り二人が死体を発見したところで、何食わぬ顔で今帰宅したと装い姿を現し警察を呼んだ。

「でも家の中は完全な密室だったんだろ?」

平助の疑問にそれはこれから、と話を続ける。

「勢太さん、貴方の勤め先は鉄工所でしたよね」
「そうですが……」
「先程確認しました、本日その鉄工所から磁石が一つ紛失したそうです」
「だからさっき新八っつぁんに電話してたのか」

しかも工業用に作られたそこら辺の市販のよりも確実に磁力が強いものだ。

「貴方は窓から外に出るときに内側の閉まるところに磁石を取り付けた、内側から鍵はかけずに」

そうすれば鍵の金属に強力な磁石がくっついて、人間の腕力では開けられないくらいになった。
そして警察が駆けつけたところで自分が窓を割って中に入り、玄関の鍵を開けて中に入れた。

「その際に磁石を回収したんでしょうね、窓枠の内側に一部塗装が剥げている場所がありました」
「し、証拠はあるんですか?僕がやったっていう」
「証拠?それなら今貴方が持っている筈ですよ、磁石。処分している暇などありませんでしたから」

すると観念したのか弟は項垂れた。
次第にポツリポツリと動機を明かし始める。

「姉は借金を抱えていて勝手に家を担保にしていたんです、母さんと父さんが残してくれたあの家を……それで許せなくて」
「だが正直今日解決しなくてもいずれもっと捜査したら、証拠なんていくらでも出てきただろうよ」
「それは、そのうち時間がたてばこの事件は連続殺人事件の一部になるからお前は疑われないって言われて……」
「なんだと?」

土方の表情が険しくなる。

「言われたって、誰にだ?」
「先日急に電話がかかってきて言われたんです、声は機械を通してたみたいで」
「マジかよ……」

原田の呟きが室内に響いた。










「有難う、助かったわ」
「いえ俺は別に」
「君が千鶴にあの方法を教えてくれたから私も思い付いたの、だから越前君のおかげ」

それから少し時間が経ち、越前と桃城は迎えに来たそれぞれの親に連れられ帰っていった。

「一課の芹沢班に確認取ったか?」
「この時間ですから芹沢さんや新見さんはいませんでしたが、平間さんに確認しました。今月に入って発生している二件の殺人事件の被害者と今回の寺田登子は接点があると」

土方の問いに斎藤が淡々と答え、土方は溜息をつくと眉間を軽く押さえた。

「明日以降になってたら証拠を隠滅されてたどころか、連続殺人扱いでウチから芹沢さんのところに担当が移ってたところだったな」
「いいじゃないですか、楽が出来て」
「んなわけねーだろ!」
「まあ僕としても手柄が近藤さんのじゃなくて芹沢さんのになるのは癪ですけどね」
「それでどうするんだ?土方さん。その連続殺人、今回の件と関係あるなら芹沢班と協力して捜査するのか?」
「……まだ分からねぇ」

芹沢さんが頷かないと捜査に関わらせて貰えないだろうからな、と土方は苦々しげに言った。








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