02


「お茶です」
「どうも」

千鶴が出した茶に越前は軽く頭を下げた。
自分の後に事情聴取を受けている桃城はまだ部屋から出てこない。
少し離れた椅子に腰掛ける被害者の弟――寺田勢太を見ると仕切りに桃城のいる部屋を気にしている。
まるで早く帰りたいかのようだ。

「ごめんなさいね、もう少ししたら彼の聴取も終わってご両親が迎えに来ると思うから。斎藤君、几帳面で」

向かい側のソファに座った女性が同様に出された茶を飲む、この人が自分の事情聴取を担当していたことを思い出した。

「まあ仕方ないでしょ、死体発見しちゃったんだし」
「そう言ってもらえると捜査するこちらとしても有難いわ、それじゃあさ時間潰しに一緒に事件を整理してみない?」

桃城君の聴取、もう少しかかりそうだからという女刑事に何がしたいんだかと思いながらも特にすることもないので付き合うことにする。
ペンと紙を取り出した彼女は、時間に沿って発生した出来事を簡潔に書き出した。

「十七時半すぎ、寺田勢太勤務先を出て家に徒歩で向かう」

ちなみに弟が勤務する鉄工所から自宅までは約四十分程度時間がかかる。

「それから十八時少し前、現場からそう離れていない住宅地の一角で君と桃城君が何者かとぶつかりその人物が落とした財布を拾う。そこに書かれていた住所がすぐ近くなので直接届けた方が早いとそこに向かって、遺体を発見してしまった……オッケー?」
「特には」
「それから死亡推定時刻だけど、詳しくは検死解剖してないからまだだけど現場検証に言ったウチの刑事によると十八時前後ね」
「あの人っスか?」

越前がチラリと目を向けたのはまた何かやらかしたのか土方にくどくどと注意を受けている平助の姿。
見た目もかなり幼く見えるせいかあまり刑事には見えないというのが現実なのだろう。

「ああ見えて科学捜査系はツテがあるから詳しくて、人を見かけで判断してはいけないってことよ」
「ふーん」
「ちょうど君達が遺体を発見した直後に弟さんも帰宅、それが十八時十分頃ね。それですぐに警察を呼んで、鍵がどこも開かないから近くの交番の警官の前で石で窓ガラスを割って中に入る。以上」

シンプルすぎるくらいシンプルな事件、これで密室でなかったらこっちに回ってくることもなくもっと簡単に処理されていただろう。

「あー、やっぱり密室の謎が解決しないとどうにもならない」
「別に鍵があったとか」
「実際のやつ見せてもらったけどあれは残念ながら無理ね、複雑な上に年季が入りすぎてる……千鶴、おかわり」
「はい、今お入れしますね」

越前さんもどうですかとにっこり笑顔で言われたので僅かに入っていたお茶を飲み干して空になった湯飲みを渡す。

「そもそも気になってたんだけど」
「何が?私が知ってる範囲なら質問してくれて構わないよ」
「ここって警視庁の中だけど、よくドラマとかで出てくる捜査一課ではないよね」
「一応ここも一課の一部みたいなものなんだけどね、あそこの不機嫌顔を室長に発足された特別犯罪対策室、通称サクラ」
「サクラ?」
「世間一般ではあまりいい意味に聞こえてこないけど私達は皆薄桜学園の卒業生だということでそこから名付けられたってわけ」

薄桜学園、という名にイマイチぴんと来なかったのか首を傾げる。
越前と桃城が持っていたテニスバッグを思い出してそういや君達はテニス部だったね、と笑う。

「ウチは剣道が有名だったのよ、今は昔ほどではないんだけどね」
「わかったような、わからないような」

そこへ桃城の取調室から出てきた茶髪の青年が相変わらず不機嫌な顔で書類とにらめっこしている土方に声をかけた。

「中学生がお腹すいたって言ってるんでカツ丼でも出前してくださいだって、というかいい加減あの空気の中でずっといるのキツイんですけど」

そしてテクテクと歩いてきて雅の隣にドカッと腰をかける。

「一くん雑談もなくひたすら細かく繰り返し状況ばかり聞いてくるものだから疲れた。千鶴ちゃん、僕もお茶」
「は、はい!」

慌てて再び茶葉を取り出した千鶴は、お茶のセットを収納している棚を閉めようとするが開閉部分の磁石が甘くなっているのか閉まらなくなっているらしい。

「そろそろ彼も一くんも限界なんじゃない、時間稼ぎは」
「でも今日中に解決しないと、証拠消されそうだしね……」
「あの、そういう扉は」

何度も閉めようとして失敗している千鶴を見かねて越前が声をかけた。

「小さい磁石とかありません?」
「ん?ホワイトボードに貼ってたけど表の塗装が剥がれたやつならあるぜ」
「多分それなら大丈夫」

近くのデスクで写真整理をしていた原田が差し出した薄い磁石を受け取り、棚まで歩くと扉と棚の閉まる場所にその磁石を挟み込みそっと扉を閉める。
すると扉はもう開くことはなくしっかりと固く閉じられた。

「ありがとうございます」
「別に、母親がよく甘くなってるって家でもやってるから。でも応急措置みたいなものだからそのうちここ直した方がいいと思う」
「………!」

その様子を見ていた雅が何かに気付いたのか電話を取り出しどこかにかけ始めた。

「新八さん今どこ?…駅前の居酒屋って、まだ七時すぎなんだから飲みすぎないでくださいよ。それより新八さんがさっき行ってた場所について聞きたいことがあるんですけど……はい、やっぱり」
「あの人また飲みに行ってたんだ」
「ずりーよ!俺達も早く上がりたいのに雅と土方さんが帰してくれないのに……」
「文句言ってる暇があったら手を動かせ!」

喚く同僚達を尻目に電話を切るとちょうど千鶴が出したお茶に手をつけていた沖田に言った。

「斎藤君呼んできて、そろそろ聴取も終わりにするからって」








>>越前が完全に大人に対してタメ口な件。


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