01


「なあ越前、今ぶつかった人財布落として行ったぜ?」

部活帰り、先輩である桃城の言葉に越前リョーマは地面に落ちている女物の財布を見た。
だが先程桃城にぶつかったのは背格好的に見て明らかに男だったよな、と思いつつも「交番にでも届けたらどうか」と助言する。

「見てみろよこの住所すぐそこじゃねーか」
「……もしかして、家まで届けるんスか」
「一々警察に届けてたら遺失物の書類やらなんやら面倒だろ、留守なら郵便受けにでも入れとこうぜ」

何気ない会話、このあとまさか殺人事件の第一発見者になるとは露も思わず軽い寄り道気分で財布に入っているメモに書かれた住所まで歩く。
そこは割と大きな一軒家で名字もメモに書かれた氏名と一致している。
呼び鈴を鳴らすもやはり誰も出ないため桃城が腕を伸ばし郵便受けに財布を突っ込もうとしたその時、突如桃城がうわっ!と声を上げた。

「どうしたんスか?」
「あ、あれ見てみろよ。人が…人が死んでる」
「は?」

いきなり何を言い出すのだと思いながら桃城の指の方向に目を向け、硬直した。
窓の向こう、室内でソファの上に女性が仰向けになりその胸部にはナイフが突き刺さり血で真っ赤に染まっていて生きているようにはとても思えない。
すぐに目の前の扉に手をかけるが鍵がかかっていた。

「え、越前どうする!?」
「どうするもこうするも、とにかく警察に電話を……」
「君達、どうしたんだい?」

不意に後方から声がしてバッと振り向けばそこには若い男性が不審そうにこちらを見ている。
もしかしてこの家の住人だろうか、だとすればこちらが不法侵入者と思われかねない。

「拾った財布を届けにきたんですけど、窓の中に死体が見えて」
「死体だって!?」

男性も声を裏返らせて自分たちと同じく窓から室内を見て、息を飲んだ。

「姉さん!すぐにでも中に入らないといけないけど鍵が開いてないし…」

どこから持ってきたのか石で窓ガラスを割ろうとする男、言動からしてあの死体の女性の弟なのだろうがそれはまずい。

「多分事件なんですからその前に警察を呼びましょう」
「あ、ああ……そうだね。すまないが通報してくれ」










「被害者の名前は寺田登子、二十六歳。金融系の会社に勤めていた会社員です」

警視庁の一角にある特別犯罪対策室、通称サクラ。
ホワイトボードに貼られた写真と共に、斎藤が手短に事件を説明した。

「死因は果物ナイフで胸部を刺されたことによる失血死。凶器からは指紋が拭き取られていました」
「被害者の血縁関係は?」
「両親は幼少のときに死別していて、現在は二つ年の離れた鉄工所勤務の弟と二人暮らしだそうです。また室内には荒らされた形跡があり、現場検証に出ている平助は物取りの犯行ではないかと…しかし」
「しかし?」

若干言葉を詰まらせた斎藤に室長である土方は続きを促した。

「現場は第一発見者が発見してから、警察立ち会いの元に弟が窓ガラスを外から割り中に入って鍵を開けるまで鍵がかかっていたとのことです」
「弟は鍵持ってなかったのか?」
「玄関の鍵は年代物で複製は不可能らしく一つだけあるものも被害者の胸ポケットに、窓は警官が開けようとしても内側から鍵がかかっていてびくともしなかったそうです」
「完全なる密室だった、ということか……」

書類に目を通していた雅が小さく呟く。
やがて扉が開く音がして、現場検証に出かけていた藤堂が「戻ったぜー」と土方に報告するように声をかける。

「どうだったんだ?」
「どーもこーも、密室の謎が解けなきゃ犯人もしぼれないっしょ」
「そうか……」
「困りますよ、土方さん。ウチで迷宮入りの事件なんて出したら近藤さんの経歴に傷がつきます」
「てめえは黙ってろ総司!」
「まーたやってんのかあの二人は」
「あ、左之さんお帰り」
「ほらよ、現場の写真特急で現像してもらってきたぜ」

束の写真を受け取り机の上に広げる。
古風な洋館というイメージのその家、成る程鍵が特殊である理由も頷ける。

「ねえ、この窓の内側にある塗装の剥がれたような傷、なに?」
「さあ俺は現場に行ってねーから何とも言えないが、これはかなり新しい傷だな」
「ふーん」

机上にあるお煎餅を手に取り食べつつ再び写真を眺めていると、ドアが開き遠慮がちに千鶴が顔を出した。

「あのー…」
「どうしたの?とっくに定時だから事件のこと聞く前に帰ったかと思ってた」
「そちらの廊下のソファで第一発見者の学生さんと、被害者の弟さんと仰る方達がお待ちになってますけど大丈夫ですか?」
「あ、やべ!事情聴取に呼んどいて忘れてた」
「なにしてんだ馬鹿!さっさと中に入れろ!」





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