「あら、リンちゃんじゃない」

バトルを終えてセンリさんに改めて挨拶を済ませるとジムの外に出る。
これからミシロタウンの方へ向かおうかとNと話していると、隣の家から自分の名前を呼ぶ女性の声が聞こえてきて、誰だろうとそちらを見ればミツル君のお母さんがニコニコと手を振っていた。

「お久しぶりです」

隣にいるNに気づいて「お友達?」と聞かれNは軽く会釈する。
傍らのグラエナも行儀よくお座りのポーズ、ちなみにセンリさんとのバトル中近くにいないと思っていたらどうやらジムトレーナーのザングースとじゃれていた。

「しばらく見ない間に一段と綺麗になっちゃって、ミツルも会ったらびっくりするわよ」
「いえ……ミツル君今は?」

最後に彼と会ったのはチャンピオンロード、おじさんの家で養生していると思っていたのでかなり驚いたものだ。

「実はね、ジョウト地方に旅に行っちゃったのよ」
「ええ!?」

あまりにミツル君のお母さんがさらりと言うものだから一瞬冗談かと思った。
しかし相変わらずのどこか困ったようだがニコニコ笑顔でそれを否定するような言葉を口にする気配はない。

「ほ、本当ですか?」
「そうなのよ、この子とどこまでやれるか試してみたいって。私達も止めたんだけどねえ、意志は変わらなかったみたいで」
「でもミツル君、身体悪かったですよね?大丈夫なんですか?」
「それが皆びっくりした話なんだけど、お医者さんに行ったらもう何にも不安要素がないからお医者さんの方も何したの?って聞いてきたくらいで。やっぱりポケモンのおかげかしらねえ」

病気は気から、という言葉があるように笑うと免疫力が上がるというのがあるように、彼がポケモンを通じて旅をして自信をつけることによって彼自身の身体にもいい影響をもたらしたのかもしれない。

「だからね、最初ミツルがポケモンを持つときリンちゃんには本当にお世話になったから改めてお礼を言うわ。ありがとう」
「い、いえ私は何もしてないですよ。ただ見ていただけですから」
「臆病で世間知らずのあの子が初めてポケモンを捕まえられたのはリンちゃんが一緒にいてくれたからよ」

だから私達夫婦もあの子が無事に成長して帰ってくるのを待つことにしたわ、どこかで会うことがあったらよろしくねと言うとNの方を向いて「リンちゃんとお幸せにね」と言って去っていった。
最後、どう考えてもまたいらぬ勘違いをされたが既にミツル君のお母さんはここにはおらず訂正する術はない。

「………ねえ、リン」
「なに?」
「その子と君ってどういう間柄?」

間を空けて聞いてきたNの声色はどこか低い、長話していたのが嫌だったのかと思いつつ返す。

「ホウエンを旅して最初にトウカシティでジムに挑もうとしてた時にね、このジムは実質五番目のレベルだから四つジムバッチを集めて来てからにしてくれって言われて」

意気揚々とジム戦しようと思っていたこちらとしては拍子抜けだ。
しかも次の街に行くには森を抜けて行かなくてはならないしどうしたものか、その日中に行こうとして森で夜になったら嫌だなと思っているとジムにどこかおどおどという感じで現れたのがミツル君だ。
まさかこの子もうバッチを四つ集めて挑戦に来たのか人は見かけによらないし、と思ったがそうではなく近所に住んでいる子でおじさんの家に行くことになるからポケモンがほしいけどどうしたらいいか困ってセンリさんに相談に来たらしい。
ジムリーダーはただジムで挑戦者とポケモンバトルをしているだけが仕事ではなく、副業をしていたり街の人にも信頼されている。
そんなミツル君にセンリさんはポケモンを貸すから自分の力で捕まえてみなさいと言った。
だが臆病な性格なのか箱入り息子だったせいか不安げな様子のミツル君、それを見かねたセンリさんが偶然居合わせて場数も踏んでいる私に良かったらついていって見ていてくれないかと頼んだのだ。

「実際ミツル君、すぐにポケモン捕まえられたしあんまりいた意味もなかったんだけどね」
「……そう」

ポケモン捕まえる云々の話が気にくわなかったのか、少し不機嫌そうなNは先に歩き出してしまう。
それを慌てて追いかけた。


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