この歳になってまるで子供みたいに道草食ってる人始めてみた……!
木の根本で日向ぼっこしているナマケロを微笑ましげに眺めているNにリンは頭が痛くなった。
ツツジの言う通り普通に歩けばトウカの森を抜けるのに数時間とかからない筈なのに、見上げた空は既に暗い。
元々木々が生い茂っており暗い森だが、木の隙間に見える空は完全に夜になっている。
それなりに余裕はあると思っていたのだが、まさかこんなことになるとは。

『仕方ない、今夜はここに野宿するか……』

ホウエンに来てからここまで野宿するような事態にならなかった。
出来るだけ余裕を持って行動し、大抵ポケモンセンターもしくは民家に泊めてもらっていた。
バシャーモに出てきてもらい、火起こしをする。
トウカの森にはあまりレベルが高かったり獰猛なポケモンはいないのでその点においては危険が少ないのだが、夜は冷える。
ムクリと起き出してどこかに行ってしまったナマケロを見送ると、Nは「見たことないトモダチばかりでわくわくする」と言いながら横に座った。
だがその表情はすごく真剣だ。

「つくづく身にしみたよ、僕は井の中の蛙だった」
『……そうだね』

否定はしない、確かに初めて会った頃彼の世界はお世辞にも広いとは言えなかった。
だからこそ生まれた"トモダチを人間から救済する"という考えはしかたなかったのだと思う。

「イッシュ地方を旅していた時も今も、もっともっと知りたい、たくさんのトモダチと出会いたいという気持ちが止まらないんだ」

一瞬、ほんの一瞬だが炎に反射してNの瞳に光が差したような気がして驚きに目を見開く。
もう一度見直したがその瞳は元のどこか濁ったようなそれに戻っていた。
気のせいだっただろうか。

「だからリン、君にすごく感謝してる」

温かい炎に引き寄せられたのか、キノココが木の影からこちらを窺っているのが見えて、Nが優しげに手招きするとおずおずと近づきその膝の上に座った。
ここまで野生のポケモンを一切警戒させることがないというのは、Nにしかない天賦の才能であり、与えられるべくして与えられたものだと思う。

『私のおかげなんかじゃないよ』

確かに少しは彼の世界を開く手助けをしたかもしれない。
だがここまで来たのは間違いなくN自身の力だ。
一旦話が途切れ、お互い静かになりなんとなくNが優しくキノココの頭を撫でるのを見てほうしとか大丈夫だろうかと心配になりながらも、全く平気そうなので相変わらず流石だ。
人間相手だと若干空気が読めなかったり、意地でも自分の考えを通そうとしていたりだが本当、ポケモン相手ではこんなに優しい顔をする。

「僕の顔になにかついてる?」

ふと顔を上げてNが不思議そうに問うた。

『いーえ、なんでも……くしゅん!』

火で暖まっているとはいえ、やはり夜の森は冷える。
くしゃみが出て着ていた上着をぎゅっと握りしめると、突然背中に暖かな温もりが。
なんだろうと思えば背中にはスバメがすりよっていた。
もしかしてとNの方を見ればそちらにもスバメがいてモフモフと囲まれて既に寝ている。

『……まったく、相変わらずマイペースなんだから』

それでもその光景に思わず笑みが溢れてしまうのは仕方ない。
寝顔がすごく安らかだ。
さて私も寝るか、とスバメとそれから若干膨れっ面でいるピカチュウを抱き上げると草の上に敷いたシートの上に寝転がった。
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