『私は、ジョウト地方に行こうと思ってる』
私達三人はスタートとは同じだけど、これから先はきっと交わることはないのだろう。
一人はジムリーダーとして、一人は伝説のトレーナーとして、
『あっちには見たことのないたくさんのポケモンに出逢えるって聞いたから』
私は、まだ宙ぶらりんのままだ。
「リンちゃーん、倉庫からモンスターボールの箱持ってきてくれないかな」
『はーい、今持ってきます!』
ウツギ博士に頼まれて靴に履き替えて外に出ると、研究所の裏側にある倉庫へと向かう。
確かモンスターボールの入っている箱を持って行けばいいんだっけ。
現在ジョウト地方の南東に位置しているワカバタウンという町に暮らしている。
幼馴染二人には大見栄切って『ジョウトに行く!』などと宣言したものの、知り合いなど全くいない場所で途方に暮れていた。
クチバシティから船に乗り、アサギシティにやって来て聞いたのがワカバタウンに住むウツギ博士という人物。
彼はジョウトにおけるポケモン研究の第一人者である、つまりはオーキド博士のジョウト版みたいなものだ(実際はオーキド博士の方が全国的に有名人らしいが)
元々ジムに挑戦するとか目的のなかった、強いて言えばジョウトに生息するポケモンと触れあってみたかったし、その生体を知りたかった。
つまり私はどっかのバトルが大好きな幼馴染とは違い、根っからの研究者体質ということだ。
それからなんとかワカバタウンに辿り着き、ウツギ博士に自分がこちらのポケモンを知りに来たと伝えると、博士は笑顔で「歓迎するよ!」といい、更には博士の研究所に住まわせてもらってまでいる。
そんなことをしながらあっという間に月日は流れ、気付けばあれから三年が経っていた。
三年前から幼馴染とは連絡は取っていないが、それぞれ元気にやっているだろう。
「いやーごめんね。女の子にこんな重たい物持たせて」
『大丈夫ですよ、肉体労働なら任せてください』
「はは、そりゃ頼もしいね!」
伊達に怪物幼馴染についてカントーを旅した訳でなく、体力は普通の女の子よりもあると思う。
それでもちょっとばかり重かった箱を置き、ふぅと息をついていると机の上にある三つのモンスターボールが目に入った。
「ああこれ、今日ゴールド君にポケモンじいさんのところまでお使いに行ってもらおうと思っていてね。ちょうどいいチャンスに彼にポケモンをあげることにしたんだよ」
『ゴールドに、ですか』
ゴールドとは研究所の隣に住んでいる少年で、私より年下の癖に女好きで、でもいきなり子供っぽく絡んできたり……要するに、イマイチ掴み所のない奴だ。
昔から旅に出たいと熱望していたが、お母さんが心配だとなかなか許可を出さなかったのだ。
だが彼ももう十一歳、可愛い子には旅をさせよとかいう諺もあるし、旅を想定して一度ポケモンと一緒にお使いに行ってみることにしたらしい。
「それでね、やっぱりゴールド君が心配だからお母さんがリンちゃんにも一緒に行って貰いたいんだって!」
『……え?』
博士のいきなりの言葉に私は目を瞬かせた。
『ゴールドも一人の方がいいんじゃないですか?』
困る、というか嫌だ。
漸く自分の好きな研究に没頭出来ると思っていたのに、この流れだと絶対お使いに付き合う→そのまま一緒に旅のパターンじゃないか。
しかもあんな扱いづらい子、私の神経が磨り減る。
だが笑顔でナイスアイデアだとばかりに言う博士にそれを言うわけにもいかず、適当なことを言って遠慮しようとすると、不意に研究所の玄関の方からまだ声変わりの済んでいない幼いけどしっかりした声が聞こえてきた。
「そんなに俺と行くのが嫌っスか、リン先輩?」
『ゴ、ゴールド……』
「あ、ゴールド君よく来てくれたね!」
まるで孫が遊びに来て喜んであるおじいちゃんのように頬を緩ませるウツギ博士を尻目に、内心溜息をついていると博士が「リンちゃんもちょっと来てー!」というので、モンスターボールの置かれている研究所の奥へと向かう。
「旅に出るお二人に、僕からポケモンをあげよう!」
『博士、旅じゃないです』
「あ、そうだったね」
天然なのかわざとなのか、洒落にならないことを言う博士。
本格的に博士とゴールドのお母さんとで私を旅に出そうと目論んでいるのではないだろうか。
もしかして、私ここにいたら本当は迷惑なのか。
急に不安な気持ちに駈られながら、博士が机の上のモンスターボールを指差し言った。
「さぁ、どれか一匹好きな子を選んで!そのポケモンが今日から君達のパートナーだ」
『あの、私既にロコンがいるんですけどもらっちゃっていいんですか?』
新たな土地に旅立つということで、共にカントーを旅した仲間はオーキド博士に預けてきた。
勿論また一緒に旅したいと思うけど。
だがその中でも、特になついていてそのつぶらな瞳に涙を浮かべて嫌がったロコンだけはジョウトへも連れてきたのだ。
「いや、いいんだよ。これは僕からのゴールド君に付き添ってくれるお礼のようなものだし、ロコンも友達がいたほうがいいだろう?」
なんだか引っ掛かる部分を感じながらも、既に自分のパートナーを決めた(早すぎな気もするが)ゴールドに見せてもらう。
ゴールドが選んでしまったから私は選ぶことは出来なかったので、よく見ておきたかったのだ。
『ね、ゴールドはどの子選んだの?』
「えっと……こいつ」
慣れない動作でモンスターボールからポケモンを出すのを初々しいな、なんて思っていると、そこから現れたのは
『ヒノアラシ!この子可愛いよね』
前にテレビとかで目にしたことはあるが、実際に目はしたことがなかったために思わず興奮してヒノアラシを抱き上げる。
ったく、ウツギ博士も企業秘密とか言って教えないなんて意地悪だ。
本当は私も欲しかったが、既にゴールドが選んでいるし諦めて残り二つのモンスターボールに手を伸ばす。
『あー!チコリータにワニノコ!どっちも可愛い!』
つくづく自分はポケモン大好きだなぁ、なんて思いながら可愛さMAXのチコリータとワニノコに頬擦りをすると、背後にいたゴールドが多少呆れ口調で言った。
「本当、リン先輩ってポケモンの前だと人格変わるっスね」
「それくらいポケモンが大好きってことだよ、ゴールド君」
どちらも捨てがたいと思ったものの、最終的にはタイプの相性でチコリータを選んだ。
ごめんね、とワニノコの頭を撫でると元気な声でワニッ!と鳴くのでクスクス笑う。
「それじゃ、早速でわるいんだけど、ポケモンじいさんが世紀の発見だっておおはしゃぎでね」
『ポケモンじいさんの大発見は当てになりませんけど……ゴールドのお守りは私に任せてください』
「お守りって……」
ゴールドがジト目で見てくるが、無視無視。
「あ、ポケギア忘れた」
漸く準備して、可愛いポケモンももらってさぁ出発だというところでゴールドの間抜けな一言。
さっさと取ってくるように言ってから、研究所の脇で待っていると、そこに人影があるのが目に入った。
町の子供だろうか、それにしては何か変だし……
よく見ようと回り込んで見えたのは、燃えるような真っ赤な髪の毛。
研究所の窓から中を窺うような様子の少年に、一応声を掛けてみる。
『あの、研究所に何かご用ですか?』
「!」
声を掛けられたことに一瞬驚いたらしく目を見開いたが、その表情はすぐに険しくなる。
「……なに、ジロジロ見てやがんだ」
口の悪い子だな、おい。
多分年齢的にはゴールドと同じくらいなのだろうが、なんとなく近寄り難い雰囲気を醸し出している。
そのツンケンした態度に顔を引きつらせながらも、ポケモンに興味があるのだろうと気持ちを鎮める。
『もしポケモン見たかったら、博士に言えば見せてもらえるよ』
「……フン」
ああもう!とそろそろ怒りそうになりだしたところで、後方から「リンせんぱーい」と私を呼ぶ声が聞こえてきたので、じゃあねと赤髪少年に声を掛けてその場を後にする。
『ちゃんとポケギア持ってきた?』
「当たり前っスよ。それよりもあれ誰?見ない顔だけど」
『うーん、よく分からない。研究所見てるから多分ポケモンに興味があるんでしょ』
「ふーん……まぁいいや、それよりもそのポケモンじいさんとやらのところにさっさと行きましょ」
どうやら、クールそうにしていたが、実際はポケモンをもらって嬉しくて仕方なくて、早く出してバトルさせてみたいという様子のゴールドに小さく苦笑。
"ポケモン屋敷の坊"と名高い彼も、実際に自分のポケモンと共に町から出るのは初めてなのだろう
『じゃ、ワカバタウンを出てヨシノシティに着くまで暫くくさむらが続くわ。野生のポケモンもたくさん出てくるけど、準備はオッケー?』
「勿論」
こうして私達の小さな旅は幕を開けた。
(旅じゃないけどね!)
後書き
ポケスペ読んで衝動的に書いてみました。
話の流れはゲーム沿いっぽいんですが、登場人物のキャラはポケスペ仕様です。
夢主の設定としては、昔レッドと旅した経験のあるマサラタウン出身者です。つまり主人公(=ゴールド)より歳上。
ライバル(=シルバー)可愛いよ、ライバル。