※連載のパラレル設定みたいな短編




「あくまで噂なんだけどさ、ポケモンマスターになると一つだけどんな願い事も叶うんだって」

ポケモンマスターの定義すら分からないのにね、とトウコが笑った。
そういえば主人公がポケモンマスターを目指して旅をしている子供向け番組があったなと思い読んでいた雑誌に再び目を向ける。

「もしさ、一つだけ願い事を叶えてもらうとしたらどんなのがいい?」
『そうねー、時間を巻き戻すとか』
「巻き戻す?」
『だってバトル終ってからあそこであんなミスしなきゃよかったとか思うじゃない、だからやり直すの』
「えー、そんなのしょっちゅうだから貴重な一回使っちゃうのは勿体ないよ!」
『じゃあ願い事なんて無し』

そんな会話をしたしばらく後のことだ、とある町で偶然にNと会った。
偶然にと言いつつも彼もジムバッチを集めてリーグに挑戦しようと思っているらしいので旅の先々で会うのは至極当然のことだと言える。
彼は初対面から変、と言ってしまうと言葉が悪いが不思議な人だった。
ポケモンをトモダチと呼び、彼らが人間と共存しえないそれは彼らに不幸しかもたらさないと持論を展開された覚えがある。
まあ世の中にはいろいろな考え方があるし、それに理論立てて反論できるほど頭も良くはないので適当に聞き流した。
それから度々行く先々の街で出会うことになるのだが、彼の様子が少しだけおかしいと思い始めたのはライモンシティで二人乗りだからと無理矢理観覧車に詰め込まれた時のことだ。

「リン、君は今すぐに旅をやめるべきだ」
『は……?』

ひとしきり観覧車の魅力について語られた後の、実に脈絡の無い発言だった。
ポケモンを手放せ、と言われることはあっても旅をやめろなんて言われるとは思っていなかった。
なんの冗談だと思って彼の表情を窺うが本人はいたって大真面目なので混乱してしまう。

『私は旅をするためにこのイッシュ地方にやってきたのだし、旅をすることが私の全てなの』

だから貴方に突然そんなことを言われても旅をやめるわけないじゃない、そう言ってやれば少しだけNの瞳が揺らいだ。
おかしい、表情を変えるところなんて見たことないのにこのとき確かに彼の瞳は落胆の色を滲ませていた。

「じゃあお願い」
『お願い?』

ますます意味が分からない、彼はこんなことをいう人だっただろうか。

「君と、少しでも長く時を過ごしたいんだ」
『あの……変なものでも食べた?』

我ながら失礼なことを言っていると思うが明らかに彼の様子は変だった。
観覧車の中で二人っきり、そして先程の台詞。
相手がNでなければ告白の類いかとときめくこともあるかもしれないが目の前にいるのは間違いなくポケモン至上主義のNくんである。

「そうだね、突然そんなことを言っても戸惑うかもしれない」

少しだけ悲しそうに笑って彼は地上に戻ってきた観覧車から降りて行った。



「どれだけ未来が分かっていても、それを変えることなんて叶わないんだね……」


その呟きは、誰にも聞かれることなく風に消えていった。








>>夢主が不幸な事故に巻き込まれて、その後N君はポケモンマスターになり願いを叶えてもらう=時間を巻き戻してもらうけどうまくいかない的な話。
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