カントー地方にあるニビシティと言えば、トキワの森とオツキミヤマに挟まれていて、更にはハナダシティからは段差に阻まれて来れないから、観光客が少ないというのが専らの悩みの種であった。
少しでも改善を図ろうと博物館が作られたが、やはりホウエンのカイナシティにあるそれと比べて寂しい状況なのである。

『え、タケシいないんですか?』

大抵のどのジムにもいる、受付のやたらテンションが高い男性にタケシは現在不在だと伝えられて首を傾げる。
よくジムを不在にして岬へとデートに出掛けてしまうカスミと違い、タケシはあまりジムを休みの日でもないのに空けたりしない。
流石に街の外には出ていないだろうが、ポケモンセンターやフレンドリーショップは今しがた寄ってきたが姿は見なかった。
だとすれば、あと考えられるのはあそこしかないだろう。

『博物館かなぁ……』

誰よりもニビシティの観光客の集客力の低さになげいているのは、タケシである。
基本的にジムリーダーというのはジムの運営や挑戦者と戦うだけでなく、街の活性化に努めていたり街の住人にも頼りにされている。
コガネシティのアカネが最たるもので、自ら芸能人としてラジオパーソナリティーも努めていて積極的に宣伝している。
そんなこんなでタケシが力を入れているのは博物館であった。

『ここもいつ見ても人が少ないというか』

入場料を支払って中に入れば、一回には自分意外にご老人が一人に旅の格好をした少年、多分これからジム戦をしにニビジムに赴くだろう二人しかいなくて、この博物館赤字経営なのではないかと心配になってしまう。
そんなことを考えながら階段を上り二階に着くと、数人のやたら興奮した会話が聞こえてきた。
一階の静閑な様子と比べて騒がしい雰囲気に、何があったのかと耳を澄ませば、その声にあまりにも聞き覚えがあり硬直してしまう。

「見てよ、この化石!クロガネの近くの炭鉱では中々お目にかかれないね!」
「こんな素晴らしい石を見たのは久しぶりだよ。カイナシティにも博物館はあるけどあそこは海の展示物が主流だから、ここは最高だね」
「わざわざシンオウから来た甲斐があったよ、こんなに話の会う人と会えたのは久しぶりだよ」

一つのガラスケースを囲んで四人の男が話をしている。
一人はシンオウのクロガネジムリーダー、ヒョウタ君。
二人目はホウエンリーグ前チャンピオン兼デボンコーポレーション御曹司という名の、先日めでたく職無しとなったダイゴさん。
三人目はシンオウのミオシティ近くに居住している波動使いという名の職業不明、ゲンさん。
そして四人目は「いやぁ流石!この博物館の見所はまだまだ(以下略)」などと完全にお得意様に接待している会社員のような腰の低さで博物館を懸命にアピールしている当街ジムリーダー、タケシ。
以上岩使い二名、鋼使い二名の計四名。
……取り敢えず、見なかったことにしてさっさと帰ろう。
特に前者三名は普段は物腰丁寧ないい人だが、自分のフィールドに話が及ぶと途端に絡みたくない大人になるのだ。
タケシへの用事はまたあとでいい、ニビジムに引き返して受付の人と世間話でもしていよう、そうしよう。
と、クルリと身体を反対向きにして来た道を戻ろうとしたその時。


「あ、リンちゃんじゃないか。こんなところで会うなんて奇遇だなぁ」
『……見つかった』
「リンちゃんもここにはよく来るのかい?本当にこの博物館は宝の宝庫見たいなところだよ」
「そう言って貰えるとうれしいなぁ」
『タケシ、恨むからね』
「え、怒ってる!?」
「後で互いの自慢のポケモンを見せ合おう、リンちゃんも当然参加するよね」
『本当に来なきゃ良かった!』

マニアな人達とは往々にして人の話を聞かないのだろうか、そして自分の好きな物は人も好きだと思い込んでいるのだろうか。
結局その後ニビジムにてポケモン見せ合い(+バトル)が行われていて、ここで待っていても同じ結果だったなぁと思ったのだった。
まぁ元々タケシと久しぶりにバトルしたくなったから来た訳なので、結果オーライで強い人と戦えて良かったのかも知れないが。
しかし合間にも行われる岩&鋼トークに、若干ドン引きの目線を送り続けていたのは言うまでもない。



(リンちゃん鋼タイプ一体も持っていないなんて、空気読もうよ)
(んな空気読みたくないから!)





≫この人達絶対仲良くなるよなぁと。
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