また負けた。
しかもかつて無いほど圧倒的な差をつけられて。
最初に勝負したときもこれよりよほどマシなバトルをしていたと思う。
サニーゴに超強力なボルテッカーを華麗に決めてご満悦気味なピカチュウを抱き上げてレッドは一言、言い放った。

「躊躇いがあるなら、勝てないよ」

その言葉がぐるぐると頭の中を駆け巡りながら相変わらず吹雪のシロガネ山を来た道を戻って行く。
本当につまらないバトルだった、レッドも多分というか絶対そう思っただろうと思うとなんだか申し訳ない。
別にコンディションが悪いわけでもなく、シロガネ山が寒いのはいつも変わらないことだし何が問題だったのか。
結局考えても明確な結論は出なくて、麓のポケモンセンターでまた負けましたとジョーイさんに回復してもらいトキワシティに向かう。

「その顔だとまた負けたんだろ」
『……その通りですけど』
「そう拗ねるなって。アイツに勝とうなんて大それたことは一朝一夕の努力じゃ叶わねぇんだよ」
『グリーンは勝ちたくないの?幼馴染なんでしょ』
「あったり前だ、いつかはアイツの鼻っ柱へし折ってやるつもりだっつーの。でも今は素直にレッドの奴はスゲーって認めてるんだよ」
『ふーん』

そのままトキワジムに向かえばちょうど挑戦者がジムリーダーにぼろ負けして肩を落として帰って行くところで、なんとなく親近感が沸きながらそのジムリーダーを見たら「どうだ見たことか」と超ドヤ顔で立っているものだから微妙に殺意が沸いてきた。
それでも会話してみればそれなりの答えが返ってくる。
負けた腹いせにジムにいたエリートトレーナーをフルボッコにしてやれば、「おい八つ当たりすんなよ」と盛大な溜息。
でもこんなやり取りを心底楽しいと思っている自分がいたりして。
今度は余裕で勝利して、現在レッドとグリーンに絶賛迷い中のミーハー姐さんサニーゴにどうしたものかねぇと相談してみるが、知るかとばかりにプイッと別の方向を向かれてしまう。

『はぁ、お腹すいた』
「もう昼過ぎだからな、どっか食いに行くか?」
『ジム勝手に開けていいの、ジムリーダーさん』
「今日はもう三人相手にしたし、どっかの誰かの八つ当たりでジムトレーナー達も満身創痍だから閉店」
『悪うございましたね』

ジャケットを適当に羽織り、じゃああと宜しくと片手を上げてジムを出ていく様子にキザな奴だなぁと思いながらもついていく。

「……あの二人、もう付き合えよ」
「グリーンさんがあんなに女性を甘やかしているの見るの初めてかも」
「いいなぁ、俺もあんな彼女が欲しい…」
「あんな馬鹿強い女の子、お前だったらしょっちゅうフルボッコのサンドバック代わりになるだけだろ」

ジムトレーナー達がそんな会話を繰り広げているとは気づかずに。





『なんでこんなに勝てないのかなぁ』
「だから言っただろ、実力不足及び経験不足」
『神様ってホント平等じゃないよね』

トキワジム近くのファミリーレストラン。
各自適当に注文を済ませ、ピカチュウのリクエストでポケモンフーズも頼んではぁと溜息をついた。
流石ジムリーダーと言うかウェイトレスのお姉さんに挨拶され、近くの席に座っている女の子達も遠慮無しにガン見している。
だがカスミ曰くこの前までは何人か付き合ったりもしていたらしいが、最近はご無沙汰とのこと。
腐ってもジムリーダー、バトルの方が面白くなってきたのだろう。
そこはトキワのジョーイさん曰く、久しぶりに自分を破るトレーナーが現れたからじゃないでしょうかということで少しは自惚れてもいいだろうか。
改めて今回の敗因を考えてみる。
"躊躇いがあるなら勝てない"とレッドは言っていたが私はいつも全力だ、手なんて彼相手に抜くわけがない筈。
だとすれば、まさか。
ふと思い当たる節があって顔を上げれば、ばっちり目が合ってしまってなんとなく逸らしてしまう。


(……無意識に、勝ったらもうグリーンに相手にされることもないと思ってる、かもしれない)







>>次回最終話。
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