「よおレッド、お前またアイツに勝ったんだってな」
シロガネ山の山頂から少し下った洞窟内にグリーンは来ていた。
最早定期的な習慣となりつつある幼馴染への食料等差し入れと、電気が通っていないためにしょっちゅうバッテリー切れを起こす彼のポケギアの充電が主な目的である。
滅多に人の立ち入りがない極寒の雪山、食料が十分に摂れるとも思えない。
一応麓にあるポケモンセンターのジョーイにも目をかけて貰えるよう頼んではいるが、レッド自身そこまで利用しないため専らポケモンセンターはレッドの敗者の立ち寄り場となっている。
グリーンの問いかけにレッドは小さく頷くと、モンスターボールから手持ちのポケモン達を出し早速食事の時間とする気のようだ。
「リンは」
「アイツならカスミとタマムシでショッピングだってよ」
「そう」
レッドが他人を気にするなんて珍しい、と思いながらふと先日思ったことが頭を過る。
いやいやそう思うには軽率だ、二人とも根っからのバトルバカで人間よりもポケモンが恋人みたいな奴なのだ。
「ほらお前らの分だ、食うか?」
「ピカ!」
食材からポケモンフーズを取り出してやればレッドの肩に乗っていたピカチュウが目を輝かせて寄ってくる。
それにしても同じピカチュウにしてもレッドのピカチュウとリンのではだいぶ雰囲気が違う。
雌雄の違いも当然ある訳だが、前者はやたら凛々しく後者は主人ににて生意気である。
「リンの奴も懲りないよな、毎度毎度負けても通い続けるなんてよ」
「……」
熱心に食事に集中しているレッドはたびたび返事をしないが、一応ちゃんと話は聞いているのではたから見れば独り言のようだが気にならない。
「もしかしてアイツお前に勝つことじゃなくて、ここに来ることが楽しくなってんじゃねえかって」
相変わらずレッドは表情を全く変えずに食べ続ける。
ちょっとかまをかけてみたが、そう簡単に引っ掛からないか。
すると大体食事を済ませた(食べる速度が速すぎるのはこの際突っ込まないでおこう)レッドは、不意に口を開いた。
「リンは実力的には申し分ない、俺がいままで戦った誰よりも強いしポケモンも十分鍛えられている」
「へえ、お前がそんなにべた褒めなんて珍しいな」
「ただ、ここ一番での機転と運を掴み寄せられていないだけ」
レッドが言うのならそういうことだろう。
今更ながら自分と伝説と謳われる幼馴染との差を痛感してしまうわけだが。
「ま、要するにリンに足りないのは経験ってことか」
故郷であるワカバタウンを旅立ってからまだ一年も経っていない彼女には、三年という経験の溝は簡単には埋められない。
きっとこれからまた月日が経てばいくらでもひっくり返せるが、今はどうあがいても立ち塞がる現実なのだ。
「じゃあ俺は精々アイツの練習相手になってやるとするよ」
どうせまたトキワに戻ってきたらジムに押し掛けて『練習相手になれ!』と言うに違いない(そろそろ我がジムのトレーナー達もうんざりし始めているのだが)
アイツの恋路云々は置いておいても、トレーナーの先輩として出来るのはこれぐらいなのだろう。
≫殆んどしゃべってるのグリーン(笑)