それが俗に言う"惚れた弱味"だということに気付いたのは、リンがシロガネ山にてレッドに四回目の敗北を喫した時のことだ。
そうでなければ、誰が今や伝説と揶揄される幼馴染のところへ熱心に通い詰める女に尽くしてなどやるものか。
幼い頃から容姿端麗、頭脳明晰でポケモンリーグ元チャンピオンに加え、現トキワシティジムリーダーの経歴を持つグリーンに言い寄る女は数えきれぬ程いた。
流石に取っ替えひっ替えなんてことはしなかったが、そちらの方面には十分不足しなかったことはお分かりいただけただろう。
トキワシティにあるマンションの一室にグリーンは住んでいた。
自宅はマサラタウンにあるものの、やはりジムに近い方がいい(この歳になってまだ姉と暮らしているのが恥ずかしかったというのもある)

『毎度思うけど、グリーンの手料理は絶品だよね』
「あったり前だろ、俺を誰だと思ってんだ」

そうでしたね、グリーン様でしたねといいながら我が家で俺の作った手料理を頬張っている奴なんて、世界中探してもこいつしかいないだろう。
ジョウトとカントー合わせて十八個のバッチを所有し、境目にあるポケモンリーグにて殿堂入りを果たしたリンは、シロガネ山にいるという伝説の存在―レッドをの噂を耳にして一番シロガネ山に近い街、トキワシティに滞在しているのだ。
ついでに言えばその十八個の中に我がトキワジムのバッチも入っている訳だが、そこには触れないでおこう(惚れた女にコテンパにされたなんて末代までの恥だ)

『ああもう、あのタイミングでカビゴンに眠られなきゃ……!』

ピカチュウのボルテッカーが決まって私が勝ってたのに!などと宣っているリンに「アホか」とツッコミを入れる。

「そのための技なんだから使うのが当たり前だろーが」
『別に知ってますよーだ』

ジョウトでロケット団を壊滅させたと聞いてどんな凄腕かと思えば、実年齢と見た目にそぐわぬとんだガキ臭い女である。
『ご馳走様』と手を合わせる(一応それなりに礼儀というものはあるらしい)と、トキワに滞在するようになってから泊まり込んでいるポケモンセンターへ向かうためそそくさと我が家を出る準備をする。
そこで決まってグリーンが「送っていく」といって、最初はリンも別に近いからと断っていたものの先日その道中できんのたまを売る親爺に絡まれて以降、申し出に甘えて夜道を一緒に歩く。

『レッドが言ってたんだけどさ、グリーンって昔から全然変わらないんだってね』
「俺が昔から変わらずイケメンだったって?」
『誰もそんなことは言ってないから』

性格よ性格と言うリンだが、レッドに負けたトレーナーでその後も悠長に彼と話している人間など見たことがない(勝った場合もそんな人を見たことがないので何とも言えない)
だいたいシロガネ山に登る人間など滅多に敗けを知らない猛者ばかりで、あまりにも絶対的な強さに畏れをなして逃げるように去っていくのが普通だった。
本人に聞いた話ではリン自身もレッドに負けるのが人生初の敗北で、その時は相当な衝撃だったと聞いている。
しかしそれに諦めることもなく幾度となくシロガネ山に通い詰めているのだ。

『旅先で突然勝負を仕掛けて来ては、俺に負けてたって』
「う、うるせーな!」
『バイビー』
「アイツそんなことまで……!」

レッドの方もいつもの無口に定評のある彼と違い、リンとは比較的饒舌に話しているのだ。
だから時々思ってしまうのだ、こいつら所謂"両想い"という奴なのではないか、と。








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