二番道路を歩きながら、リンは背後を歩く人物に声を声をかけた。

『トウヤ君、君はどうして私の後を歩いてるのかな』
「……バレました?」
『そりゃそうでしょう』

カラクサタウンを出て、ここまで行動を共にしていた四人もそれぞれ別のペースで歩みだした。
チェレンとトウコは我先にと駆け出していき(チェレンにはどこか焦りが見えた気がする)ベルもゆっくりながら進んでいった。

「一つ、聞きたいことがあったので」
『聞きたいこと?』
「N、という人に会いませんでしたか?」
『どうしてそう思うのかな』

少し考え込んだ表情のトウヤは、先程のカラクサタウンでの出来事―プラズマ団の演説とNとのバトルについて話した。
ポケモンセンターの中から見えていた人だかりの原因はプラズマ団の演説で、そこにいたのは怪しげな格好をした団員達とゲーチスと名乗り"ポケモンを解放せよ"と演説したとのこと。
そしてそのあと現れたNという人物に突然話し掛けられてバトルをしたらしい。

「そのあとポケモンセンターの方に向かって行くのが見えたので、もしかしたらリンさんとも合ってるんじゃないかと」
『うん、会ったよ』
「その……何か言ってませんでした?」
『ポケモンと人間の共存についてどうのこうの言ってたね』
「変なこと聞くかもしれないんですが、それ聞いてどう思いましたか?」

故郷からポケモンと旅に出たばかりの彼にとって、それを否定するようなNの言葉は衝撃だったのだ。
彼なりにその意味を考え、それでも自分の中を結論が出なかったので同じく話を聞いたリンに意見を求めた。

『否定も肯定もしなかったよ、だってその人が一心に信じていることを否定する権利はないもの』

個人的には、理解出来ないけどねと付け足す。

『とまあ、私自身も一度だけ"ポケモンは人間と一緒にいない方がいいんじゃないか"って思っちゃった時があるんだよねこれが』
「そう……なんですか?」
『歳は同じなんだけど、私よりも旅に出るのが先だったから先輩トレーナーの人がいるのだけど』

道路に置いてあるベンチに腰を下ろす。
少し話が長くなりそうなのでトウヤ君にも座るように促せば、遠慮がちに横に座った。

『イッシュ地方からだいぶ離れたところに、カントー地方というところがあって。そこに今はラジオ塔になってるんだけど昔は亡くなったポケモンを祀っているポケモンタワーがあったの』

今から五年程前、そこでは幽霊騒動が有名な話となっていた。
ポケモンタワーを上ろうとする者には正体不明のモノが"カエレ……カエレ……!"と進路を塞ぐのである。
ポケモン達もその得体の知れぬ存在に恐怖し戦うどころではない。

『その先輩が原因を突き止めた結果、その正体はロケット団というポケモンを使って悪事を働く集団に殺されたポケモンの霊だった』
「……っ!」

トウヤ君が息を飲むのが分かる。
人間がそんな非道な行いをしていたことにショックを隠せなかったのだろう。

『私もね、その話聞いた時"酷い、人間は最低だ!"と思った。でも先輩はこう言ったの"彼等が望んでいるのはそんなことじゃない。傷付けてしまうから背を向けては何の解決にもならない"って』

今でも覚えてる。
いつの間にか溢れてしまっていた涙を拭いながら言った彼の言葉を。

『だから、Nやトウヤ君の言っていたプラズマ団の主張することは一概に間違っているとは言えない気持ちもあるけど、それが正しいだなんて思わない』
「そう……ですね」
『トウヤ君がどう感じるかは君の自由。信じる道を進めばいいんじゃないかな』
「はい!」

どうやら悩んでいたことは幾らか吹っ切れたようだ。
笑顔でお礼を言いながら先に進んでいった彼を見送り、リンも二番道路を歩いていく。

『まさか私が後輩トレーナーにこんなことを説くなんて思わなかったよ』
「ピカ?」
『あー!久しぶりに色々考えたから疲れた、さっさと道路抜けよ』

肩に乗っていたピカチュウを地面に下ろし、サンヨウシティまで競争ねと走り出す。
サンヨウシティはもう目の前。






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