そもそもリンがイッシュ地方を訪れたきっかけはかねてからのメール友達であったチェレンからの誘いだった。
インターネットがごく一般に普及しているこのご時世、ポケモンの預かりシステムやら遠くにいる友達とのメール交換などその用途は広い。
半年ほど前なんとなく話が弾んで以来、度々メールのやり取りをしていた年下だがやたら落ち着いた少年が「博士からポケモンを貰えることになったんだ!」と言っていたのはつい先日のことだ。
その喜びように自分が初めてポケモンを貰って旅を始めた日のことを思い出していると、チェレンからの突然のメール。
"良かったら、リン君もイッシュ地方にきたらどうかな。ポケモントレーナーの先輩として実際に会って話してみたいしね"
ちょうどホウエンにて殿堂入りを果たし、次にどこに行こうか迷っていたところでの誘いだったので二つ返事で行く!と返した。
イッシュ地方。
ホウエンからもカントーやジョウトからも遠く離れたまだ見ぬ地。
新たな冒険に自然と心が踊ってしまうのはトレーナーの性だろうか。
……とまあ、長い間船に揺られつつ到着したカノコタウン。
チェレンに事前に言われていた通り、アララギ研究所というところの前で立っていると、前からいかにも"真面目です"オーラを醸し出している少年が歩いてきた。
きっとトレーナーに分類したら塾帰りとかだろうな。
一人でそんなことを考えていると、真面目少年がぶつぶつと「多分、この人だよな……」と呟き意を決したように近づいてきて話しかけてきた。

「あの、失礼かもしれませんが…リンさんですか?」
『えーと、チェレン?』
「やっぱりリンだったんだ……メールの感じだともう少し年が近いと思ってて」
『悪かったわね、子供っぽくて』
「いや、そういう意味じゃなくて」

ピカチュウを肩に乗せている人、という情報で声を掛けたのだろう。
昔から何度となく見た目と中身にギャップがあるとか有り難くない言葉を頂戴していたから、今更傷付かないっての。
いい加減怒っていると子供っぽいので、気にするなと自分自身に言い聞かす。
するとアララギ研究所のドアが開き、白衣を身に纏った若い女性がやたらハイテンションに駆け寄ってきた。

「貴女がチェレン君の言っていたリンちゃんね」
『は、はい』

この人がアララギ博士なのだろうと直感的にわかったのだが、その若さに驚いた。
ウツギ博士は若い方に分類されるものの、オーキド博士は言うまでもなくオダマキ博士もそれなりにお年を召している。
というか女性の研究者自体この業界では希少な存在だ。
確かオレンジ諸島というところには女性の研究者もいると聞いたことがあるが、実際に現場の女性と会うのは初めてだった。

「前にウツギ君から貴女のことを聞いたことがあったんだけど、その通り元気ないい子ね!」
『ウツギ博士とお知り合いなんですか?』
「ええ、同じ研究者としてたまに連絡を取り合ったりしているわ」

立ち話もそこそこにして本題に入りましょう、と博士はリン達を研究所に招き入れる。
研究所に入ってすぐ目に入った机の上には三つのモンスターボールが置かれている。

「さあ、この三匹から好きな子を選んで頂戴!」
『え、いいんですか?私まで貰っちゃって。ピカチュウもいますし』

自分の中で新たな地方に行くときに決めていることがある。
それは手持ちをピカチュウ意外皆オーキド博士に預けるというものだ(博士は喜んで了承してくれた)
新たに旅をする地方では手持ちのポケモンがそこに生息していないこともある。
そこで自分のポケモンが好奇の目に晒されることが単純に嫌だったというのもある。
ポケモンにも性格があり感情があるのだ。
そういうのを嫌がるポケモンも当然いるだろう。
本当はピカチュウも置いていこうと思ったのだが、本人の強い希望(リンの体からピッタリ離れないでウルウル目で見るともいう)によってここまでずっとついてきている。
まあ、新たな旅に向けてフレッシュな気持ちで臨みたいというのもあるのだが。

だからアララギ博士にポケモンを貰えるのはピカチュウしかいない中、十分嬉しいことなのだがその反面新人トレーナーでもないのだから申し訳ないという気持ちがある。

「確かに貴女はトレーナーとしての経歴も長いけど、イッシュ地方ではリンも立派な新人トレーナーよ」

だから新人トレーナーさんに私からのプレゼントよ!とウィンクしながら言う博士に思わずこちらも笑みが溢れてしまう。

『では喜んで選ばせていただきます』
「ちなみに僕の選んだポケモンはミジュマルだよ」

……うむ、どの子にしようか。
だいたい三匹から選ぶ時に悩んでしまうのは仕方ないだろう。
だってどの子も可愛いんだもの。
チェレンの選んだミジュマルは水タイプ、子ぶたのような愛らしい容姿のポカブは炎、そして凛とした表情のツタージャは草。
暫く悩みに悩んだあと私の出した結論はこれだ。

『ツタージャ、にします』

理由は単純明快、一番ピカチュウと仲良さげにしていたからだ。
特にダブルバトル等ではポケモンどうしのコンビネーションが大切になるからね(はいそこ、自力で決められなかったとか言わない)

『何はともあれ、よろしくねツタージャ』


さあイッシュでの旅の始まりだ。










≫幼馴染達と一番道路に踏み出す前に戻ってきたチェレン少年、わざわざサーセン。
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