イッシュ地方を離れる船の汽笛の音が聞こえる。
目の前に留まる船の豪華さにリンは一瞬言葉を失った。

『アララギ博士…こんなに凄いの用意してくれなくても』

博士曰くポケモンリーグ制覇のお祝いも兼ねているらしいが、それにしても一般庶民が乗るには場違いと言っても過言ではない(事実チケットを見せた船乗りには本当にこの船に乗るのか何回も聞かれた、チケット見ろっての)
目的地であるホウエン地方のミナモシティまでは、かなり時間がある。
それまでこれまた豪華な個室でゆっくりしたり、船内探索でもしよっかと既に個室のふかふかなベッドで跳び跳ねている相棒のピカチュウに言えば、「ピカッ!」とご機嫌な返事が返ってきた。

『まあ、イッシュを旅してる間はゆっくり休む時間なんて無かったからね』

各地のジムに挑戦しつつ、現れた謎の組織"プラズマ団"とも戦ったり。
ピカチュウと一緒にベッドに横になりながら物思いに耽っていると、不意に黄緑色の髪の毛の青年が頭を過った。

―――N。

それが本名かも定かではない。
結局レシラムに乗ってどこかへ飛び去っていった彼だが、今頃どうしているのだろう。

『夢を叶えろ、か』

去り際のNの言葉が甦り、呟く。
彼には夢があると言ったが、実際どうなのだろう。
故郷ワカバタウンを旅立って、ジョウト・カントー・ホウエンそしてイッシュにてチャンピオンを倒し殿堂入りを果たした。
本来だったら新たな地方へ向かうところだが、そういやホウエンでマグマ団やらアクア団騒動であんまり観光出来なかったなぁと思い返しホウエンに戻ることにしたのだ。
イッシュでも色々大変だったけどライモンシティで遊園地を堪能出来たからいいかな。

勝ち続けることに、強さを求めることに限界を感じ始めたのもある。
その先に一体待っているのだろうか。
まるで自分自身を否定するようなその考えに、思わず苦笑してしまう。
もう考えるのは止めよう。

『よし、豪華客船探索に行こっか!』
「ピカ!」

ピカチュウを抱き上げてベッドから起き上がれば、ピカチュウも腕の中で待って
ましたとばかりに右腕を突き上げる。
意気揚々とドアノブに手を伸ばした時、ドアを開く前にそれは開き、誰かと鉢合わせになる。
黄緑色の髪、整った顔立ち、白のシャツに腰から下がるボイドキューブ。
あまりにも見覚えのある人物に、目を瞬く。

『え、N…!?』

そして何故ここにいるかも分からないNは、静かにドアを閉め事も無げにこう言った。



「ちょっと、追われててね」








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