「わあ、リンちゃんお久しぶりです!」

マユミはじゃれてくるグラエナを抑えよしよしと撫でてどうにか落ち着かせた。
あれだけ興奮していたのをあっという間に大人しくさせてしまうあたり、流石預かりシステムを一人で営んでいて手慣れているなあと感嘆する。

「お部屋の掃除をしていたら、窓の外にリンちゃんを見つけて。こういう仕事してると独り言が多くなっちゃうんですよね」

呟いたのをユウキから預かっていたグラエナがモンスターボールの中で聞いていたらしく、勝手に飛び出して行って慌てて追いかけてきたらしい。
この子はとにかく人懐っこいがそれが知り合いでは更に顕著になる。
マユミ曰くユウキが久しぶりに預けていたのを手持ちに戻した日なんてそれはもう大変らしい。
どれくらいかといえば、黒い尻尾をブンブン振って飛びかかっていくので下手すると押し潰されかねないとのこと。
愛情表現なのだろうが少しだけ命の危険も伴いそうだ。

「こういう預かりサービスを始めたのは、どうして?」

隣にいてマユミとも簡単に挨拶を済ませたNの声は冷たいような感覚がした。
嗚呼きっと彼はポケモン図鑑もそうだが、こういった人間のエゴでポケモンを管理するようなものが大嫌いなのだ。
マユミと会わせたのはまずかったかもしれないと今更ながら思う。
しかし私の危惧に反してマユミはにっこりと柔らかく笑った。

「確かにこんな風にコンピューターで管理なんてするのは可哀想だ、と仰る方の気持ちもわかります。ポケモンとは人間の好きに出来るだけの便利な道具ではありませんよね」
「なら、何故」
「例えば貴方は一緒にいたい友達がたくさんいたらどうしますか?」
「………」

Nが黙ってしまった、質問を質問で返すなと言いたいのだろう。

「僕には、ポケモンは皆トモダチだよ」
「貴方にとっての友達とは非常に定義が広いのかもしれません。でも大抵の方々の友達とは例えば一緒に旅をしたり、バトルをしたり、ご飯を食べたり。この世界はとても広いです。いろいろな場所に行けば必然的に出会いも多くなります、けれど人間は愛を注ぐ対象が多ければ多いほど、平等にはなれなくなる生き物です」
「君はトモダチを手軽に持ち運ぶことや平等にできないから手持ち以外をボックス、他人に預けるのがいいことだと」
「勿論それがポケモン達にとっていい状態だとは私も思いません、あくまで全て人間主観ですから。それでも私の仕事に感謝してくれる方がいて、重宝してくださる方がいるなら喜んで続けますよ」
『N、これ以上は』

どこか責めるようなNの口調に咎めるように口を挟ませてもらった。
自分の考えを語ることはいい、だが押し付けるのは少し違うのではないかと。
旅を通していろいろなものを学んで感じたとしても、根本的な彼の考え方は変わらないのだと痛感した。
マユミには彼女なりの仕事に対する情熱があって、それを簡単に否定してはいけない。
Nの腕を掴み、そろそろ行こうと言う。
N自身もこれ以上の問答は意味を成さないと理解したのかその場を去ろうとしてマユミに挨拶をしたところで、マユミの足元で近くを飛んでいたチルットとじゃれていたグラエナがバッっと立ち上がり私の足に擦り寄ってきた。

『ごめんね、私たちもう行かないと』
「そういえば先程ミナモシティにおられるユウキさんから連絡がありまして」

そうだ、とたった今思い出したようなマユミに今更な!と突っ込みたくなる。

「一ヶ月後のコンテストにこの子を出したいそうなんですけど、それまでにミナモに行かれる予定がおありなら久しぶりに外を歩かせてあげたいと思っていたところなので……よろしければ連れて行ってあげてくださりませんか?」

グラエナを見ればそれは名案だとばかりにこちらを見て尻尾を勢いよく振っている。
特にNと意思の疎通がとれることが嬉しいのか、私の足から今度はNの周りをぐるぐると回っている。
というか預かっているのだから勝手にユウキ本人以外に任せてしまっていいものなのか。

「ユウキさんも喜びますよ、この子は外にいたほうが楽しそうですし」

それに私からユウキさんに言っておきますし、というマユミにそれじゃあとグラエナの頭を撫でてやる。
どのみちミナモにはいくつもりだ、遠回りをしたとしても流石に一カ月以上はかかるまい。

『それじゃあ少しの間だけどよろしく』








>>ちょっと無理矢理な気が。不完全燃焼です
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