「聞いたぞクロン、デボンから古文書を奪取するのを子供に邪魔されたらしいな」

ククク、という笑い声に青年は不愉快だという風に眉間に皺を寄せた。

「俺のミスではない、したっぱ共が無能なだけだ」
「部下の失態は上司の責任、組織の基本だろう?」

正論なだけに余計腹が立つ。
お前はただ研究をしていればいいのだと言ってやろうと思ったが、どうせまた適当なことを言って切り返してくるのだろう。
付き合うだけ時間の無駄だというものだ。

「ったく、どいつもこいつも……!」
「まあそうカッカするな、子供だからといって油断するなということだ。成長途中の子供は己の限界さえも弁えず突っ込んでくる、更に恐ろしいことにその限界をいとも簡単に突き破ってしまう。そういう生き物だからな」
「……わかっているさ」

最初にロケット団を解散に追い込んだのも、その残党を壊滅させたのも子供だった。
今回デボン本社に点字に関する古文書があるということで奪ってくるように命令したが、眼鏡の子供と元チャンピオンに邪魔されあえなく撤退という体たらくだ。
元チャンピオンの父親がデボンコーポレーション社長だというのは有名な話だが、放浪癖がありまさか本社にいるとは思っていなかった。

「だが同じ古文書がミナモの美術館にあるから奪ってきたのだろう、良かったじゃないか」
「あっちは老いぼれた館主しかいないからな、楽な仕事だっただろうさ」

これでホウエンにある三つの遺跡に書かれた点字を解読することが出来る。
だがそれだけでは足りない、まだ古代ポケモンに繋がるにはキーが足りていないと予感していた。
だがどこを探せばいいというのか見当がつかなかった。

「簡単な話だよ、君がこれだけ探して見つからないから隠した者は余程見つけてほしくないと見える」
「つまり、絶対見つからないような場所……」
「例えば海底など私はお薦めするがね」
「海底なら散々探させた、ミナモからトクサネの間もルネ周辺もかつてアクア団という組織がカイオーガを覚醒させた海底洞窟付近も探させたさ」
「なにも海はそれだけではないだろう?」
「……まさか、マボロシ島とかいう運任せな島にあるのではないかとか言い出すんじゃないだろうな」
「それも中々面白いが、遺跡を作った者は運よりも、一見複雑だが確実な手順を踏めば辿り着けるような作りにすると思うよ。少なくとも私は何か重大なものを隠すならそうするな」

この女はきっともうそれがどこなのかわかっているのだろう。
わかっていてヒントを与えるような言葉に、無性に苛立つ。
ならばその誘導に敢えて乗ってやろうとホウエン全体が載っている地図を広げる。
"一見複雑だが確実な手順を踏めば辿り着ける"そして海底……まてよ、確かカイナの東に広がる海は潮の流れが速くどこに運ばれるかわかったものではないと聞いたことがある。
したがって自然と実力のある者が集まるという。
成る程、ここか。
一見潮の流れは読めないからどこに行くかわからない、だが全て計算すればある一ヶ所が浮かび上がってくるだろう。
部屋の入り口に控えている部下に「134番水道の潮の流れが全て網羅された地図を持ってこい」と命令した。

「それからクロン、ものは相談なのだがしたっぱ二十名程と幹部一人貸してくれないか」
「何をするつもりだ」
「陽動だよ。我々の狙いが古代ポケモンであることを……聡い元チャンピオン辺りは気づいているかもしれないが、デボンを狙っているとでも思わせておけばいい。つまり分かりやすく言えばデボンをちょっと乗っ取ってみようかとね」

さも大したことではないというこの女はきっと赤子の手を捻るが如く達成してしまうのだろう。

「そうすれば客船やニューキンセツで邪魔をしてくれたという二人に会えるかもしれない。往々にして正義の味方は登場するものだからね」

そっちが本当の目的か、と思ったが口に出さないでおいた。

「君が嘗て心酔したN、という青年に興味があるのだよ」







>>こっち側なにげに書いてて楽しい件。
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