「ホウエンに来てたなら連絡してくれれば良かったのに」
『どこにいるかわからない上にポケナビもいつも圏外な人に言われたくないんですけど』
「ハハハ、確かにそう言われると反論出来ないな」

なんとなく砂漠の石が気になって来たんだ、というダイゴさんはやっぱりよくわからない人だ。
せめて砂漠相応の格好をしてくるべきだ、高級そうなスーツじゃなくて。ダイゴさんは私の背後にいたNの存在に気付いたのか声をかける。

「珍しいね、君に連れなんて」
『珍しいも何も初めてですよ、ハルカちゃんとかユウキ君みたいに短期間一緒にいるっていうのはありましたけど。今回は彼にホウエンを観光させる旅なんで』
「へぇ、観光ね……」

ダイゴさんの瞳が一瞬鋭くなったような気がしたが、見直せばやはり笑顔。
取り敢えずキョトンとしているNにも彼のことを紹介せねばならない。

『こちらホウエンのチャンピオンの……』
「ああ、チャンピオンは辞めたんだ」
『は?』

あまりにもサラリと言ったので思わず聞き返してしまったが、冗談かと思ったが本人はいたって本気だった。

『辞めたってチャンピオンですか?』
「うん、チャンピオン」
『じゃあデボンを継ぐんで……』
「いや継がないよ」

この人は一体何がしたいのだろうか。
前にツブワキ社長が放浪癖があると嘆いていたがそれでもチャンピオンという確固たる地位があったからなんとか安定しているように見えたが、それまで辞してしまったとなるとただの働かない若者である。

「リーグは問題ないよ、ミクリがチャンピオンになってくれてルネジムも彼の師匠がリーダーに就任してくれて安泰だ」
『……まあ、ダイゴさんがそうなら別に何も言いませんけど』

この人は多分自分がどんなに大きなものをあっさり捨ててしまったのか自覚がないのだろう、そんな人に勝ったがチャンピオンの座を辞退した私が言えることではないのだが。
そんなことを考えているとNが何かを感じ取ったのかバッと遺跡の脇を見た。
そしてその方向へ走り出す。

『どうしたの!?』
「トモダチが……」

その先は言わずとも現場を見て分かった。
一匹のサンドが砂地獄に巻き込まれている。
地面タイプならこれくらい普通どうってことはないのだが、あの子は多分まだ子供でレベルが低いのだ。

「これは恐らくナックラーの砂地獄だね」

同様に後を追ってきたダイゴさんが言う。
ナックラーは蟻地獄ポケモンと言われるほど度々このように砂地獄を起こす。
砂漠に住んでいるポケモンならこんなのは日常茶飯事で特に大したこともないが前述の通りまだ子供でどうしたらいいのか分からずパニックになっている。
対するナックラー自身も遊んでやっているのでまさかかかっているポケモンがいるなど思わず、サンドの存在に気付いていないのだ。

『どうする?』
「僕が砂地獄を作っているトモダチに話しかけてみるよ」

そう言うとNはじっと砂地獄の方向を見つめた。
きっとあそこの地下中心にいるナックラーと、言い方はアレだが交信しているのだろう。
すると凄まじかった砂地獄は次第に緩やかになっていき、やがて収まった。

「これは一体……」

ダイゴさんが目を丸くするのも無理はない。
これは彼だけが持ちうる特別な能力なのだから。
巻き込まれていたサンドは何事かと驚いたように辺りを見回すとNの存在に気付きテクテクと寄ってきた。
Nはその子を優しく抱き上げる、若干いや結構重そうだが。

「母親のところへお帰り」

Nの言葉に頷くとゆっくり地面に下ろされ砂漠の上をテクテクと再び歩いてどこかへ向かっていった、きっと巣に帰るのだ。

「僕がここに来た理由はもう一つあるんだ」

ダイゴさんは先程のNの様子に何か言いたげにしていたが、それに特に触れることはなく別の話題を切り出した。

「君達は点字を知っているかい?」

その言葉に二人で顔を見合わせた。
点字の話は先程したばかりだ。

『はい一応、その点字がどうしたんですか?』
「もしかしたら、いやきっとこれがホウエンの古代ポケモンを目覚めさせることになるだろう。悪の組織がここに眠っている古代ポケモンを狙っているんだ。僕はそれを食い止めたい」
『悪の組織……ロケット団』
「そういえばリン君は先日の豪華客船ジャック事件に巻き込まれていたんだったね」

どこから聞いてきたのか、船ジャックの件をしていたダイゴさんは再び遺跡を見上げた。







>>一般的なサンドの重さは十二キロです(笑)
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