「あれが、煙突山」
『フエンタウンの温泉は煙突山の火山の力を利用してるらしいんだって』

赤い岩肌を見つめて呟くNに、ロープウェーのチケットを買って渡しながら説明する。
イッシュには火山の類いがないためすごく新鮮なのだろう。
受付のお姉さんにチケットを見せて他には客のいない広めのロープウェーに乗り込む。
本当は111番道路にある砂漠にも寄りたかったようだが、こちらの砂漠は特に砂嵐が酷くフエンで販売されているゴーゴーゴーグルを装着しないと入れないのであとでということでこちらに来たのだ。
さらにロープウェーに乗ったら乗ったで、いつかの遊園地のように楽しそうにそわそわしている。
これは残念ながら円運動しないんだけどな、と苦笑。

「本で読んだことはあるけど、実物に乗るのは初めてなんだ」
『ライモンでもすごく楽しそうに観覧車乗ってたよね、わざわざプラズマ団を探すとか口実まで作って』
「あそこは人間二人でないと乗せてくれないじゃないか」
『確かに一人旅にとっては結構辛いよね、見ず知らずの人を誘うのも気が引けるし』
「あの時はちょうどいいところに顔見知りの君が現れて助かったんだよ」
『よく言うわよ、いきなり観覧車内で自分はプラズマ団の王だなんて衝撃の告白されるとは思わなかったんだけど』

その上降りたところに現れたプラズマ団を逃がすためにいきなり勝負を仕掛けてくるとか、非常識にも程がある。

『……ホント、こういう乗り物乗っていい思い出ないんだよね』
「?」
『前にこれ知り合いの女の子と乗った時はまさかのマグマ団と相席しちゃってこの中でダブルバトル、ポケモンの技がこっちにも当たるかとひやひやものだったわよ』
「マグマ団って?」
『陸地を増やすべきだって名目で活動してるんだけど、窃盗したりポケモン奪ったりろくなことしない連中』

結局古代のポケモンを蘇らせた末に暴走させ、世界崩壊の危機すら招きかけてその尻拭いに奔走させられたこちらとしては大迷惑だったと言える。
そのマグマ団の嘗てのアジトがあったのがこの煙突山、というわけだ。

『まあ騒動過ぎ去った煙突山はおばあちゃんが煎餅売ってたり、お姉さんが観光に来てたり平和な場所だよ』





「すごい……」

あちこちでマグマが沸き立つ情景に、Nは素直に感嘆の声を上げた。
確かにこれだけ自然の猛威の象徴のようなものを間近で見れば、誰だって圧倒されるだろう。

『本で読んだのよりすごい?』
「勿論」

まるで子供のように言葉の端々が弾んでいる。
相変わらず目の輝きはイマイチ足りていないが。

『この火山を利用して温泉が沸いたり、火山灰を使ってガラス細工を作ったりする人もいるのよね。このあたりにしか生息していないポケモンもいるし』
「トモダチも?」
『皆等しく大自然の恩恵を得ているということ』

しばらく感心したようにあたりを見回したNだったが、やがて何かを感じたのか赤い地面に手を当てた。

「ここに、眠っているんだね……」

超古代ポケモン、グラードン。
紅色の玉によって蘇らせられたグラードンは、同じく海底洞窟に眠っていたカイオーガと世界が滅びるのではないかというくらいの激しさで死闘を繰り広げた。
結局それはレックウザの登場によって鎮められたが、日照りになったり大雨になったりで大変だったのを覚えている。

『どうしてそこまで戦うのだろうね』
「互いに譲れないものがあるんじゃないかな」
『譲れないもの?』
「互いに存在を賭けて、生まれた時からの宿命みたいに」

まるでぶつかることは必然であるかのようだ。
なら彼等に共生という道を生み出したレックウザは、何を意図しているのだろう。

「今は眠っていて、とても穏やかだ」

それが本来あるべき姿なのかどうかは誰にもわからない。





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