「ニューキンセツの電力を奪うことには失敗したか、まぁいい…あの程度のエネルギーでは焼け石に水だろうからな」

そこは書斎と呼ぶのが最も相応しい部屋だった。
壁は一面設置された本棚に、様々な色の背表紙の本が敷き詰められて図書室といっても過言ではないかもしれない。
本棚と奥に置かれた小さな机と椅子、気だるそうに机に腰掛ける青年は黒を基調とした制服に身を包む部下の報告に読んでいる本からは一切目を離さずにいた。
いくつもの地方の伝説、その中には過去にこのホウエン地方を壊滅に追いやりかけるほどの死闘を繰り広げたカイオーガとグラードン、それを止めたと言われるレックウザのことも記載されている。
足りない、このポケモンではまだ足りない。

「それなりの物を欲するというなら、相応の対価が必要ということか。成る程面白い」
「失敗した者達の処罰は如何様に」
「あのマッドサイエンティストの手伝いでもさせろ。奴の研究内容を見たものは、一週間は悪夢に魘されるらしいと聞くからな」
「御意」

いつも黄ばんだ白衣を身に包む女の姿を思い浮かべ、青年はククッと笑い声を上げる。
あの狂った女は性癖こそ理解し難いが、その成果は十分利用するにあたる。
あちらも自分の元では好きなように研究出来ることを理解しているからこそ、ここに身を置いているのだろう。

「次の集会はいつにいたしましょうか」
「明日の夜でいいだろう、そろそろ次の手を考えないとな」
「ニューキンセツで我々の邪魔をした少女はイッシュからの客船の件と同様だという報告でして、二年前の」
「古き体制の頃のこの組織に興味はない、ただまた我々の妨害をするようなら考えないといけないな」
「……次こそは、侵入を許すつもりはありません」
「その言葉、信用させてもらうよ」
「有り難きお言葉にございます」

深々と頭を下げて部屋を後にする部下が扉を閉めて、誰もいなくなると青年はパタンと本を閉じた。
そして以前見た少女の姿を思い出す。
二年前前にサカキのいないロケット団を完全に潰し、それからここホウエンでマグマ団やアクア団、イッシュにてプラズマ団を次々に壊滅させた。
正義の味方でも気取っているつもりなのかと虫酸が走る。
今度はそうはいかせてやらない。
ロケット団という古き組織の残党を手中に収め、自分好みに作り上げた。
ノウハウは全て以前いた組織の王を参考にした。

「俺は最後の最後に詰めが甘くて足元救われるなんてことは絶対にしないよ、N様」

嘗ての王。
その特異な能力で人々の心を巧みに手に入れ、結局は自身も盤上の駒にすぎなかった哀れな王。

「まずは遺跡から見つけた謎の文字盤の解読が急務か」

青年――クロンはいくつもの点で構成された文字盤を恍惚とした表情で見つめた。






>>この話ポケモンじゃなくても大丈夫そう(笑)
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