翌朝、一足先に目を冷ましていたピカチュウが退屈紛れに腹の上で跳び跳ね出した痛みで目が覚めた。
それなりに体重もあるんだから勘弁してくれとばかりに溜息をつく。
どうやら久しぶりのホウエンにピカチュウも気持ちが高ぶっているようだ。
昨夜一応チェレンに連絡をとろうと試みたが自分同様ライブキャスターを置いていき、ポケナビに切り替えるらしいとのことだがどういう訳かその番号を博士や幼馴染にも伝えていないとのこと。
要するに音信不通、一体何を考えているのやら。
博士達曰く幼馴染メンツで誰よりもしっかりしていたチェレンなら問題ないだろう、そのうちに連絡が来るのを待つらしいが正直腹が立たない訳がなかった。

『全く、皆に迷惑かけてどこをほっつき歩いてるんだか』

身支度を済ませて漸く部屋を出る。
昨日は103番道路を通ってトウカシティ、そこからきっとジム巡りを始めただろうチェレンを追ってカナズミまで行こうかと考えたがやっぱり止めた。
彼なら初めての地でも勝手にやれているだろう、もしかしたらむしろ知り合いに会いたくないのかもしれない。
イッシュでの旅でいろいろ思うところがあっただろう、なら此方も邪魔せず自分の好きなように行動する(少し怒っているのもあるが)
意外と世間は狭いものだ、そのうち会う機会もあるかもしれない。
ポケモンセンターのロビーに出ると、そこには見慣れた緑色の髪。
リンのポケモンの声に気付いたらしく、Nはこちらを振り向くと座っていたロビーのソファから立ち上がった。

「おはよう。リン君はこれからどこに行くか決まってるのかな」
『えーと、取り敢えずキンセツシティに向かってジムリーダーのテッセンさんに挨拶でもしようと思ってたんだけど』

あ、その前にカイナの市場で買い物も済ませたいと付け加えれば、どういう訳かNはそう、と嬉しそうな表情になる。

「良かったら、僕もそれに同行させてもらえないかな」
『……別に構わないけど、なんでまた』
「ここに来たのは本当に偶然なんだよ。元々乗った船がどこに向かうかなんて知らなかったからね。だから左も右も分からないんだ」
『つまり、私に案内役になれと?』
「そういうことじゃないんだ。ただ君と旅をしてみたい」

Nの瞳は真っ直ぐだった、驚くくらいに。
まるで彼が"トモダチ"と呼び慕うポケモンと会話しているかのような(勿論私をポケモンと思っている訳ではない)

『道筋は滅茶苦茶よ?私の行きたいように行く』
「構わないよ、僕もジムバッチを集めてリーグにいく訳でもないからね」

広い世界をこの目で見たいんだ、とNは言った。
それは一切の邪念なしの真っ直ぐな言葉。
世界を知らずに生きてきた彼の心からの想いだった。

『分かった、好きにして』

少しぶっきらぼうに行ってしまったのは恥ずかしくもあり、実は嬉しかったからだ。
今までいろんな所を旅してきたが、割と頻繁に会うことはあったものの旅の同行者というのは初めてで。
それがつい最近に本気でお互いの信念を賭けてバトルした相手だったというのも、すごく複雑な気持ちにさせる要因の一つだった。

「それじゃ、よろしく」
『こちらこそ』








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