我等がサッカー部は全国大会にも出場経験がある強豪校としてこの周辺では有名である。
そのせいか所謂やっかみという奴をよく受ける。
放課後に校舎裏に呼び出し、なんて今の時代ちょっと古いんじゃないかと突っ込みたくなる出来事も度々あるわけで。
更にこちらはスポーツマン、もし不良相手に一発でも殴ってしまえば即大会出場停止だ。
まあ不良もそれを狙っているのだが。
そんなわけで今日も今日とて三年の、不良の方々にクラスメイトであり部員の小早川君が連れて行かれたという話を後輩から告げられた。
と、同時に先に帰った筈の我が家の居候が迎えにいった先輩と小早川君と一緒に来たのだから驚いた。

「え、燐なんでここにいるの?」
「いや……これには事情があって」
「彼が助けてくれたんだって」

迎えに行った先輩、奈良橋先輩はいつもと変わらぬ笑顔で言った。
しかし燐のことは逃がさないとばかりにしっかり首根っこを捕まえている、正直奈良橋先輩は私が言うのもなんだが男子の中でも一際細身で(それはもう女子が羨ましいくらい)恐らく燐の怪力をもってすれば難なく逃げることも可能だったと思うが、大人しくしていた。
多分それは部内でも”部長と奈良橋先輩には逆らうな”という暗黙の了解があるくらいに普段は優しそうな笑みを浮かべているが、ここぞという時には般若すらも逃げ出す極寒のブリザードを吹かせる恐ろしさを本能的に感じ取ったのかもしれない。
同じく燐の存在に気づいている一年唯一のレギュラーであるアキラも寄ってきて、小早川君が今回の事の次第を説明してくれた。
小早川君が運悪く不良の先輩に捕まっていたこと。
暴力を振るわれそうになったところで、偶然通りがかった燐が止めに入ったと。
そして弾みで燐がその不良の先輩を殴ってしまったこと。

「まあ、彼等には僕が話をつけて誰にも言わないようにしてもらったから」

奈良橋先輩の笑顔が気持ちいいくらいに怖い。
一体何をして不良達を口止めなんて出来たのか保身のためにも絶対に詮索などしてはならないと固く心に誓った。

「い、いやでもこいつがいなかった俺今頃どうなっていたことか……」
「だけど下手したら部の方にも火の粉が飛んできたかもしれない、そこは分かっているね?」
「ハ、ハイ……」

先輩に凄まれて小早川君がたじろぐ。

「まあ、実際助けて貰ったことは事実だからお礼は言わせてもらうよ。奥村燐君だっけ、ありがとう」

一転して礼を言われて予想外の出来事に燐は目を瞬かせた。
まるで全くそんなことをされることを予期していなかったような、多分彼が今まで生きてきた中で暴力を行使したあとに怒られたり蔑まれたり恐れられたりすることは散々あったとしても、感謝されることなどは一度たりともなかったのだろう。

「それはそうと彼、一条さんの親戚なんだってね」
「あ、はいそうですけど……」

急に話をこちらに振られる。
何を言われるのかと若干戸惑っていたところに有難いことにアキラが助け舟を出した。

「遠縁で、家庭の事情で田舎から出てきたばっかりなだそうですよ」
「別に変なこと言うわけじゃないよ、ちょっと彼をウチの部にスカウトしようと思って」
「……は?」

奈良橋先輩の突然の発言に素っ頓狂な声を上げたのは燐だったが、残りの面子も当然ながら何を突然言い出したのかと呆然としていた。
いや、元から突然変なことをいう人ではあったけれど。

「お、俺サッカーなんてしたことねー……ないですよ?」

一応年上、しかも本能的に逆らってはいけない先輩なので途中で敬語になった燐。
実際(漫画によると)学校もサボり気味で当然部活には所属したことないだろうし、サッカーとは基本的に複数人数でやるものだからお世辞にも友達がいるとはいえなかった燐がまともにサッカーボールも蹴ったことはなかったと思う。
まあ体力が果てしないのでその気になればどこの運動部でも重宝されるだろうが。

「いやいや、勿論部員にはなってもらう気なんてないよ」

また喧嘩されたら困るし、と先輩は笑った。

「じゃあスカウトって一体……」
「ほら、今日みたいに僕等よく目をつけられるからそういう時に上手く助けてほしいんだ。あたかもサッカー部とは全く関係のない通りすがりの通行人Aですってね」

そこまで言われてようやく合点がいった。
もしかしてこの人燐に。

「奥村君、君にサッカー部のSPになってほしいんだ」








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