「知ってるか?この微妙な時期に一年に転入生だってよ、しかもイケメン」
「ほお、君がイケメンに興味があるとは思わなかったよ。てっきり女の子が好きなのかと」
「当たり前だ、俺が好きなのかは女の子だけだ!」

わかったからもう少し声のボリュームを下げてほしい、と私がマネージャーを努める部活に所属していて更に同じクラスな上に隣の席の小早川君に溜息をついた。

「イケメン興味ないのか?女子なら大体気にはするだろ」
「女子が皆そういうわけじゃないでしょ。例えば女の子で滅茶苦茶美人な子が転校してきたとして、部長が気にするの想像できる?」
「あ、出来ねーわ」
「でしょ?」

ウチの部の部長程堅物、というと言い方が悪いが浮わついていない男子高校生はお目にかかったことがない。
顔はいいので時々女子から告白を受けているが、バッサリ切り捨てているらしい。
あまりにも大人びているためたまに老け顔と言われているのは気にしているようだが。

「それにその転入生、私の親戚だから」
「嘘だろ?」
「そんなんで嘘ついてどうすんのよ」

真顔で否定しやがってコノヤロウ。
昼休みなのでそろそろお昼を食べようと、燐お手製の弁当を広げる。
残念ながら本来一緒に机を並べてランチタイム、となるべき友達は生徒会の仕事が忙しいとかで滅多に一緒に食べれない。
仕方なく自分の机で隣の席の小早川君と雑談の続きでもしながら、と弁当の蓋を開けると小早川君がその中身を見て首を傾げた。

「お前の弁当、そんなに手が込んでたっけ」

悪かったな、今まで冷凍食品もいくつか入ってる手抜き弁当で。

「その転入生がね、作ってくれるの。料理が得意だからって」
「転入生女子力高っ!」

女子力の高い男子高校生ってのもどうなのだろう。

「ちょっと待て、一条お前って確か親御さんも兄弟も今家にいないから実質一人暮らしなんじゃなかったのか?」

まずい、早速口を滑らせてしまった。
周りを見渡すが皆それぞれ自分達のお喋りに夢中で私達の会話を聞いている者はいないようで、一先ず安心。

「……誰にも言わないでよ?」
「いや言わねえけど、問題ないのか?一つ屋根の下ってやつだろ」
「特に何もないね」
「いや絶対何かあるはずだ、だって思春期だもの」

みつを風に言われても困る、実際何もないし考えもしていなかった。








「燐、次体育だから着替え」

そう言って相模が投げて寄越したどこからか借りてきたらしい体操着袋を受け取る。
奥村燐は非常に上機嫌だった。
まさにやっと俺の時代が到来した!というところである。
というのも、転入生として緊張しながらも自己紹介を済ませて以降女子から積極的に話しかけられたり(今までの人生そんなことが殆んどない)、クラスメイトからも友好的に接されている。
学校の校風が影響しているのか、ガサツだというイメージを持たれた聖十字学園だがこちらは同じ私立といえども金銭的な敷居も高くないし自由な校風で、先程も少しミスって机をいくつか纏めて持ち上げて(燐としては円滑に掃除を進めようと思った)も引かれるどころか奥村スゲーと称賛された。
更に言うなれば料理が得意というのも極めつけだったらしい。
自作してきたお弁当の完成度の高さに皆一様に驚き、昼休みにはちょっとした輪まで出来ていたのだった。
鼻歌でも歌い出さん様子で服を脱ぎ、体操着に手をかけていると何やら相模が自分の背中をじっと見ている。

「何かついてるのか?」
「いや、尻尾ってないのかなって」

確か奥村燐の特徴として黒い尻尾があった筈だ。
流石に外には出せないと服の内側に隠しているのだろうかと。

「ああ、それなら普通に出してるぜ。ほら今も」

どうやら尻尾をゆらゆらと左右に揺らしているようだが、目を擦っても相模には見えなかった。

「見えない……」
「沙綾が言うには、霊感がねーと見えないんじゃねえかって」

霊感と魔障を受けている状態は実際殆んど同義語だ、と以前燐の弟である雪男が言っていたらしい。
世間一般では幽霊の存在を感じたり見たりすることが出来るのを所謂霊感、というが幽霊自体が少し異端であるが悪魔の一種だ。
霊感のある人間はたいてい本人も知らずして超軽度の魔障を受けていて、結果霊的なものに敏感なのだ。
残念ながら雪男の説明をそこまで理解出来なかった燐だったが、相模は燐の一言で粗方わかったようだ。

「そーいや昔から沙綾って霊感とかあった気がする」
「昨日買い物に行った時に沙綾意外の人に見えるか試してみたんだけどよ、結局だれも見えなかったんだよな」

もし尻尾を不審に思われて万が一指摘されたらコスプレですとでも言ってしまえばいい。
だが今のところ沙綾意外にそれを見ることの出来る人間はいない。

「ふーん」
「だから心置き無く出してるぜ」

服着るとき邪魔だけどな、と燐は笑った。










放課後、沙綾は部活があるらしく遅くまで帰れないので燐は校内を散策したあと先に帰ることにした。
転入したクラスの人間に部活を見に来ないかと誘われ多少見に行ったが、元々部活などとは縁遠かった燐にはイマイチしっくり来なかった。
特に性格のせいかチームプレーなんてのは大の苦手だ。
朝は早めに教師のところに行き、必要な教科書やらを受け取る(重い教科書一式を一気に持ち運ぶものだから驚かれていた)時間で暇を潰せたが放課後はそうはいかない。
正直まだ道に自信がなかったので沙綾に分かりやすい地図を書いてもらい、なんとか辿り着いて夕食を作って待っていようと意気込みながら靴を履き替えたところで下駄箱の裏から何やら声が聞こえてくる。

「――ちょっと上手いからって調子に乗ってんじゃねーよ」
「いや、別に乗ってないっスから」
「あ゛あ゛ん?いつも女子の黄色い声に鼻伸ばしてやがんじゃねーかよ!」
「そりゃ純粋に嬉しいから……」
「こりゃ一発シメときゃならねえな」
「はは、それは勘弁してくださいよ」

いつの時代、場所でも勝手な理由をつけられて絡まれる人間はいる。
以前燐自身もしょっちゅう絡まれ、それをことごとく返り討ちにしてきたものだから"悪魔"などと有り難くない名前を頂戴したものだ。
だからなのか、放っておけない。
内履きからスニーカーに履き替えると燐はその声が聞こえる方へと向かったのだった。







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