「……つまり、気づいたらこの家のベッドに寝転がっていたと」

私の幼馴染である相模アキラの向かい側でまるで父親に娘との結婚を申し込もうというぐらいの腰の低さで座っている燐に、憐れみの目線を送りながらしかし特にフォローは入れないで眺めていた。
あ、燐と憐って漢字が似てる、どうでもいいけど。
というのも、私自身燐の迂濶さには呆れていたのでここでビシッと誰かに言っていただきたいのだ。
幼い頃から母親同士が仲良く、近所に暮らしていたため一つ年下ではあるがこの幼馴染は私に対して非常に過保護な面があるのだ。
私の兄と特に仲良かったせいもあり、その影響もあるのかもしれない。
一通り燐が漫画のキャラでつまり異世界から飛ばされてきたんじゃないか、という旨を伝えれば(多分彼以外には言えない、頭がアレな人扱いされる。それくらい信用しているのだ)散々疑わしい目で見たあと漸く信じてくれた。
以前彼に青の祓魔師の単行本を貸していて良かったとこの日程思ったことはないだろう。

「わかったよ、その話信じる」
「良かったじゃない、燐」
「おう!」
「でも変だよね、沙綾にその漫画借りたのつい最近なのに言われるまで全く気づかなかった。言われれば目立つ見た目だしすぐわかったけど」
「じゃあ、外歩いても本人だとはバレないってこと?」
「芸能人じゃあるまいし、まさか漫画のキャラ本人がいるなんて思わないんじゃないの?」

それですぐにわかった私は何なんだ。
そうだよオタクだよ、一人で駅前のアニメイトだって行っちゃうよ!
だが外歩いても問題ないというのはかなり好都合だ、やっぱり家事だけ押し付けて家の中に軟禁してしまうのは気が引けるし。
元来明るい性格の燐はアキラとも打ち解けたらしい。

「燐もウチに昼飯食べに来なよ」
「良いのか?」
「沙綾の遠縁の親戚とでも言えばいいじゃん」

流石我が幼馴染、これから周りに燐のことが判明したときその関係性を使わせてもらおう。
時計を見れば朝御飯を食べて既に一時間経過していて現在午前十時半、大所帯な相模家の食卓で私を誘いに来る場合は昼食ならバーベキューとかだろう。
燐一人増えても多分問題ない、相模のおじいちゃんは子供好きで高校生になった私達もまだ小さな子供のように接してくるので寧ろ燐を歓迎してくれるだろう。
そのくらい暖かい家なのだ、相模家は。
そして更に我が幼馴染は燐を余程気に入ったのか、名案だとばかりに一つ提案をした。

「俺等が通ってる高校、俺のじいちゃんが理事長だから入れさせてもらえるかも」
「え、マジ?」

燐が嬉しそうになった。
やはり家にいるだけで元の世界に戻れるかも分からずじっとしているだけなのは嫌らしい。
だがここは口を挟ませてもらう。

「流石にそれは無理じゃない?あんまり事情は説明出来ないんだし」
「大丈夫、じいちゃん適当だから」

それでいいのか学校経営者として、しかも私立。
しかしこの一見ご都合主義というのも利用出来るだけ利用させてもらおう。
今のところ燐が元の世界に戻れる手だては全く無い、正直調べたりすることも出来ないから(図書館に異世界トリップ関係の書籍があるとも思えない)二人して開き直って帰れる時は必然的にきっと来るって絶対!と思うことにしたのだ。
だからこそこっちにいる間は生活をエンジョイしてもらいたいと思っている。
ちなみに私は現在高校二年、燐は一年なので年下だから燐と同い年のアキラの存在は有難い。
その後相模家の食卓に招かれた私達は、アキラの段取り通り見事に彼のお祖父さんに気に入っていただけてトントン拍子に私達と同じ高校の編入が決定したのだ。
裏口入学万歳。
持つべきものは良い幼馴染だ。








「なに緊張してるの?」
「そりゃ転校なんて初めての経験だから、緊張もするだろ!」

ハンガーに掛けられた学ランを前に、そわそわと行ったり来たりを繰り返す燐に苦笑する。
ちなみにこの学ランは我が幼馴染の予備であり、まだ転入届けをどうにかして(戸籍云々は企業秘密と称しておこう)採寸を済ませたばかりであるので燐の体格では少しサイズが小さいがそこは我慢してもらおう。
聖十字学園に入学したときにはどうしたのかと聞けば、何でも理事長であるメフィストが全てやっておいてくれたと至れり尽くせりだったらしい。

「まだ慣れてないからってことで、アキラと同じクラスにしてもらえたから良かったじゃない」
「ああ、アイツには滅茶苦茶感謝してる」

元来性格は良いのだが、如何せん怪力だったりリミッターが外れると手がつけられないという理由で幼少期から友達と呼べる存在はいなかったらしい。
漫画では後に祓魔塾メンバーと青春したりだが、ここにいるのはあくまでもまだ父を亡くして聖十字学園に入ったばかりの奥村燐だ。
余計なことを言うのは彼にとっても好ましくはない。
だからアキラにはお礼を言っても言い足りないくらいだ。

「そんなに緊張する必要ないって、燐は燐らしくしてればいいのよ」
「……そうか?」
「そうそう、だから自己紹介に絶対得意なことは料理ですとか言っておきなさい。料理の出来る男は好感度高いから」

取り敢えず夕食後、最早燐の部屋となりつつある兄の部屋で所謂転校生のご挨拶の練習。
あれだけモテてる雪男と双子なのだから顔はいい、あとはどれだけ好意的な印象を与えられるかにかかっている。
ぎこちない敬語で話す燐に、寧ろ自然体でいった方がいいとアドバイスしたら「俺らしさって何だ……」と謎のスパイラルに突入してしまった。
だが正直なところ、燐が不安に思うほど問題はないと思う。
何と言っても顔がいいというのはデカイ(たとえ奇行に走っても"ただしイケメンに限る"という魔法の言葉があるのだ)
そんなに悲観的にならなくてもいいのに、と思いながら時計を見る。
明日は部活の朝練があるから早く起きないと。
申し訳ないが燐も叩き起こさねばならない、彼は学校への道程がわからないから仕方ない。
若干今夜は寝不足になりそうだと思いながら、もう少しだけ自己紹介を考える燐に付き合ってあげることにした。






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