放課後、燐の姿は人がいない空き教室にあった。
というのも今朝下駄箱を開いたところまだ真新しい上履きの上に、可愛いデザインの便箋がありその中には「お話したいことがありますので、放課後物理実験室に来てください」と女子特有の可愛らしい丸文字で書かれていたのだ。
当然ながら年齢=彼女いない歴の燐にとって、こんな出来事は勿論初めてだ。
滅茶苦茶同様していたので、もし一緒に沙綾やアキラ、もしくは小早川辺りがいたら勘づかれていただろう。
しかし幸か不幸か今朝早くから朝練があり、朝食の後始末を済ませ燐はゆったりと登校したのだ。
普通の人より睡眠時間が多く、朝早く起きるのも苦手な燐だが現在の同居人(燐が居候している)は弟よりも容赦なく、そしてダイナミックだった。
朝、ぐっすり寝ている燐の耳元でお玉で中華鍋をガンガン叩くのだ、物凄い騒音に跳ね起きる以前に鼓膜が破れかねない。
そして決まって笑顔で言う。

「燐、朝ごはん」

昨晩のうちにご飯のタイマーもその他準備も済ませているのだから自分でやっていけばいいじゃないかと思うが、どうやらきちんと燐を起こすという目的らしい。
流石にあんな豪快に起こされて、すっかり目も醒めてしまいその後二度寝することもなく朝の時間を余裕を持って過ごしている。
……大分話題は逸れてしまったが、今朝受け取ったラブレターとしか思えないものに浮かれながらも相手の登場を今か今かと待ちわびていた。
やがてガラリと教室の扉が開かれ、そこには予想通り可愛らしい女子生徒が立っていた。

「あの、ごめんなさい!お待たせしました」
「や、俺も今来たところで」
「来ていただけたということは手紙、読んでいただいたんですよね?」
「お、おう」

目の前の美少女が嬉しそうにはにかむ。
これは本格的にまさかの……!とテンションが急上昇するが、精一杯顔には出さないようにする。
燐の顔を真っ直ぐに見つめると美少女は意を決したように口を開いた。

「ひ、一目見た時から奥村君のことが好きなんです」






「おーい奥村、さっきから妙に機嫌がいいっつーか浮かれてるけどなんかあったのか?」

何故か当たり前のように基礎練に参加させられている(奈良橋先輩の命による)燐のいつもと違う雰囲気に小早川君が声をかけた。
それは私も気になっていたところで、今朝は特に変わることもなかったのに何があったのだろう。
対して燐は鼻歌混じりで、なんで俺も走らされるんだと溢していたウォームアップのマラソンにも意欲的に取り組んでいる。
なんかお花が飛んでいるように見えるのは気のせいだろうか。

「聞きたい?」
「んだよ勿体ぶるなよ、もしかして今日の小テストがいい点だったとか?」
「いや、いつもの如く悲惨だった」

威張って言うな、周りで聞いていた人達が内心突っ込んだ。
燐のお馬鹿っぷりは最早部内では皆に知られている、アキラは同じクラスだから普通に授業風景とかでわかるとして他の面子も話せば語彙のおかしさとかで気づくらしい。
今度の定期考査前に相談しようと思っていたからちょうどいいかもしれないが、それでいいのか燐よ。

「じゃあ何があったんだよ」
「そこまで聞きたいなら仕方ねーなー!」

いや、そこまで言ってないからと聞きながらやはり突っ込む。

「実は俺、告白されたんだぜ!」
「…………」

暫しの沈黙。

「ええ!?」

それには近くでストレッチをしていたアキラや奈良橋先輩も食いついた。

「お前、先輩の俺を差し置いてリア充だと!?絶対認めん!」
「いてーな!」

小早川君が燐の頭をぐりぐりとして燐が猫のようにシャー!と牙を向く。
基本的にこの二人は最初に助けた縁もあるのか、割と気が合うらしく仲良くしている。
それだけでなくこの学校が私立とはいえ自由な校風もあるのか(正十字学園はお金持ちのお嬢様やお坊ちゃんの学校だから粗雑な生徒は引かれてしまう)、元々もてている弟と双子の兄弟なのだから顔もいいわけで告白くらいされても疑問ではない。

「で、その告白してきた子ってどんな子なんだよ。ていうかお前オーケーしたのか?一条と同棲してるくせに」
「同棲って言うな!……沙綾はあれだよ、親戚じゃねーか」
「遠い親戚だろ?日本の法律では従姉弟以上に離れてる親戚と結婚できるんだぜ」
「け、結婚ってそんなんじゃねーから!」

……二人とも声が大きいのか、周りにただ漏れでむしろこっちが恥ずかしい。
もう少し周りの目を気にしろ、周りの目を!

「だってさ、ここだけの話一条さんと奥村君ってどうなの?」
「なんでもありませんってば」

奈良橋先輩の笑顔がやたら眩しい、この人他人のこういう話大好きだからな……餌にされる方はたまったものではないが。
私にとって燐は漫画のキャラクター。
どういう縁か彼がこの世界にやってきてしまった、本来燐がいるべきなのは弟や祓魔塾の友達がいる青の祓魔師の世界だ。
私にはどうしたら燐が帰れるのかわからない、でも放り出すことなんか出来ないから無事に帰れるまでここで出来れば楽しい生活を送ってほしい、それだけだ。

「いや、なんかただ好きだって言われてそのまま逃げられたから付き合っても何も言われてないんだよな」
「馬鹿だなー、好きって言われたってことは=付き合ってということなんだよ」
「そーなのか……」
「それでどんな子なんだよ、一年?先輩?可愛い系、それとも綺麗系?」
「えーと、身長は沙綾より低くて可愛かったと思うけど。藤吉さんっていうんだけど知ってる?」
「……藤吉?」

これまで口をはさまなかったアキラがここにきて初めて言葉を発した。
その声色はどこか上ずっている。

「なんだ相良、お前藤吉って子知ってんのか?」
「知ってるもなにもそいつって……」

どこか引き攣った顔のアキラが口を開こうとしたその時、校庭に女子の高く可愛らしい声が響いた。

「奥村君!」




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