「うわー、奥村今日も弁当気合い入ってんな」

休日の練習、特に家でやることもないと部活についてきた燐は朝からしっかりお弁当を作ってくれた。
燐の転校初日には本当に転校生が作ったのかと半信半疑だった小早川君も、その完成度の高さに感嘆する。

「今度俺の分も作ってくれねー?」
「え、良いけど?」
「自分の弁当あるでしょうが!燐も二つ返事しない、材料費は誰が出してると思ってんの」

いくらアメリカにいる母から毎月問題ない量の生活費が振り込まれているとはいえ、一人増えると結構出費もかさむものである。

「じゃあさ、合宿とかで山奥行くとき食事作ってくれよ」
「普通他から仕出しとかとるんじゃねーの?」
「……仕出しも出前も範囲外な場所に行くんだよ」
「へー、スッゲーな!」

燐は素直に感心していたが小早川君の表情はあまり芳しくない。
というのも、あまりに山奥すぎて携帯電話の電波も全く通じず現代っ子としては辛いものがあるのだ。
しかも合宿所に着くまでも途中から車が通れない山道なので登山状態、趣味が登山の部長しか特をしない合宿だ。

「ゴールデンウィークとか、去年のは一条が作ってくれたんだけどよ……あまりに普通すぎてコメント出来なかった」
「普通で悪かったな!今度から君の分は黒焦げで出してやろうか」
「いやマジで勘弁してください」

どうして普通であることに文句を言われなくてはならないんだ。
料理苦手とかいう属性なんて一人暮らし困るだけじゃないか。
いや、燐がやってくれるようになってからめっきりやっていないのだが。

「いつ頃からそんなに料理出来るんだ?」
「あー、うち修道院でさ。男しかいないから修道院の大人で順番に作ってたんだけど皆適当で味も甘かったり、しょっぱかったりで。俺がやった方がマシなんじゃないかと思って作り出したのがきっかけ」
「へー、奥村の家修道院なんだ」
「おう、小さい頃から聖書とか絵本代わりに読んでたぜ」

幼い頃の話をする燐はどこか懐かしそうな表情をしていた。
漫画での展開を思い出し何を言っていいのか悩み黙っていると、私達の会話を聞いていたのか奈良橋先輩がやって来る。

「確かにこのお弁当の完成度はプロの料理人レベルだね、奥村君夏の合宿料理人として来てくれない?」
「い、いいのか?」

燐はチラリと一般の部員の方を見る。
体力宇宙として一躍有名になったので、一緒に練習をするのは特に大きな疑問も上がっていないが流石に合宿まで来たら変に思われるのではないかと。

「ああ、大丈夫大丈夫。その山奥合宿はレギュラーだけだから、君の事情を知っているメンバーだけだよ」

場所も場所だがその上練習メニューが地獄だとかでとてもじゃないが普通の部員はついていけないのだ。

「奥村君、その時は食事係お願いするね」
「おう任せろ!」

どうやら私の仕事が減りそうだ。









「燐一段と機嫌が良いね」

夕食時、鼻歌混じりでフライパンの上のハンバーグを焼いている燐、今のところ私以外には見えていない尻尾もそれに呼応してピョコピョコと揺れていた。

「俺昔から悪魔だ何だ言われて、友達なんて出来たことがなくてさ。あんな風に家族以外に料理を誉めてもらったこともねーし」

照れ臭いけど純粋に嬉しいんだ、と燐は笑った。

「そもそも中学はあんまりまともに学校行ってなかったし」
「……だから中学レベルの勉強もさっぱりなのか」
「う゛……」

先日燐のクラス担任に呼ばれて定期考査について衝撃的な結果を知らされた。
燐の名誉のために詳細は差し控えさせていただくが、とにかく酷かったとしか言い様がない。

「転校してきたばかりでまだ慣れていないのもあるし、親御さんがご自宅にいらっしゃらなくて大変なのもわかるけど高校は単位落としたら不味いから、今度は頑張るように言っておいてくれないかしら」

割と歳の若い女の教諭にすみません、言っておきますと言うしかなかった。
……いや、知っていた、作中で弟の雪男が塾の方も含めて燐の成績にどれだけ頭を悩ましていたか。
義務教育だった中学とは違う、高校では最低限の成績、具体的には通知表で最低「2」の数字が得られなければ単位を落とすことになり、一定数以上の単位がないと進級出来ない。
もし燐が留年なんてしてしまった日には、燐を学校に入れてくれたアキラのお祖父さんに会わす顔がない。

「……次のテスト前にはサポートするから、なんとか赤点は免れてよ」
「が、頑張る!」

うちの学校は部活動も力を入れているが進学率も高く、文武両道をうたっているだけあって日頃の授業やテストのレベルも結構高い。
私自身並の成績だからテスト前そんなに構っていられないのだが、事態はかなり深刻なのだ。

「やっぱり誰かに相談しよう……」

とにかく日常的に勉強する癖をつけさせようとリビングで一緒に予習をしていたのだが、開始十数分で爆睡し始めてしまった燐に大きく溜息をついたのだった。







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