赤司君が手のつけられない厨二病な話 [ 1/7 ]



帝光中学男子バスケ部はその実力はさることながら、日頃の練習もとにかくきつい。特に一軍ともなるとプロの選手も真っ青になるほどハードなトレーニングで、部活終了後には体育館が死屍累々になるとまで言われている。
平均以下の体力しかないと周知の事実である黒子テツヤは人がいなくなった体育館の中央で大の字になっていたが、そろそろ帰らないと鍵の管理をしているキャプテンに小言を言われるかもしれない、とムクリと起き上がった。いつもだったら青峰や黄瀬が大丈夫かと声をかけてくれたり、紫原がもっと風通しのよいところに運んでくれたり、もしくは緑間が「人事を尽くさないからそうなるのだよ」などと言いながらも冷たいスポーツドリンクを手渡してくれたりするのだが、生憎四人は今日どこぞの強豪校へ練習試合に出ているのでいない。キャプテンは同行せずに黒子をしごいていたので、その四人と一緒に試合に出ていた部員(一軍とはいえキセキとまで呼ばれている五人には遠く及ばない)に少し同情しつつも外に出て、顔を洗おうと水道の蛇口を捻った。
顔面にあたる水の冷たさが気持ちいい。別にシックスマンである自分だったら彼等と同等にコートに立てるなんて思っていない。特に最近は青峰を中心に元から突出していた才能が開花して、黒子のパスを必要とせずとも余裕で一人何十点もゴールを決められるようになっていた。周りよりもどんどん抜きん出ていく才能に、虚しさを感じていることも知っていた。それでも彼が誰よりバスケを好きでいると知っていたから。

「……僕は何を感傷的になっているんでしょう」

いつも騒がしい人達(特に黄瀬)がいないせいだろうか、正直黒子は他の一軍部員達と親しくない。中には実力もなく三軍から突然一軍に上がって、しかも試合にまで出ている黒子に妬みを抱いている人もいる。それも仕方ないことだ、そういう彼等を押し退けてユニフォームを着ているのだから。洗顔してすっきりしたあと、部室に戻って着替えて帰ろうと歩き出したところで、人気のあまりないそこに誰かが息苦しく呼吸するような音が聞こえた。

「………?」

自分と同じように練習で疲れたのだろうか?いやそれにしては息が乱れすぎているような気がする。ハアハアととても苦しそうだ、もしかしたら体調が悪いのではないだろうか?それなら保健室に連れていくなり、場合によっては教師を呼ばなくてはならないかもしれないと音のする方へと向かうことにした。



「ぇ、赤司君……?」

体育館から部室に向かう途中に、運動部の部員がよく外回りとしてランニングをしている小規模の雑木林がある。そこに植えられている木々のうちの一本の根元に、黒子のよく知る人物が座り込んでいた。なんでこんなところに赤司君が、と思うと同時にそこにいる彼はいつものキャプテンとして厳しく強く君臨する赤司征十郎の姿とは異なっていた。左目を手で押さえていて、その表情は何かに耐えるように酷く歪んでいる。目で思い出すのは赤司の左右の瞳の色が違う、いわゆるオッドアイだということだ。右目が彼の髪の毛の色と同じ赤であるのに対し、左目は金色。珍しいとは思っていたが、もしかしたら何かしらの痛みが生じているのかもしれない。赤司は、努力しても何の向上のも片鱗もうかがわせず、部を辞めようとすら思っていた黒子の才能を見出しユニフォームを着てコートに立てるようにまでしてくれた張本人だ。ここで自分が大丈夫かと声をかけたところで、寧ろ他人に弱味を見せたがらない赤司にとっては迷惑な話かもしれない。それでも心配だった。放ってなどおけなかった。

「赤司君、大丈夫ですか……?」

「……黒子か、誰かの気配がしたからてっきり俺を狙う組織の連中の手が伸びてきたのかと思ったよ」

組織?と黒子は首を傾げた。赤司が二年にしてバスケ部のキャプテンとしてのさばっていることを妬む上級生のことや、いつぞやの試合で完膚なきまでに叩きのめされた他校の生徒のことを言っているのだろうか。

「……いや、何でもない。少しばかり左目が疼いてね」
「痛むんですか?」
「大したことじゃない、時々だがこうやって宿主である俺から主導権を掠め取ろうとするから押さえ込んでいるんだ」
「はあ……」

イマイチ赤司が何を言っているのかわからない。取り敢えず急を要するような事態ではないようだ。目にゴミでも入ったのだろうか。当の赤司はというと、何故かフッと自嘲的な笑みを浮かべながら話を続ける。

「出来ればそれ以上近づかない方がいい、暴走させて黒子を傷つけたくはないからな」

その時、左目を押さえていた赤司の手の隙間から不意に何か小さなものがポロリと落ちた。何だろうと思って地面に落ちたそれを目を凝らして見ようとする。夕焼けに反射してキラリと光ったそれは―――金色のコンタクトレンズだった。
黒子が状況を理解する前にバッとそのコンタクトを拾い上げた赤司は、ニコニコと悪寒がしそうな笑みを浮かべていた。

「見たか?」
「い、いえ……よく見えませんでした一瞬だったので」
「そうか良かった。黒子まで俺と同じ宿命を負うことはない。そろそろ下校しなくてはならない時間だ、俺もこれが片付いてからすぐに行くから先に行ってくれ」

コクリと頷くと黒子は急ぎ足でそこから離れて部室へ駆け出した。先程の台詞、もし選択肢を間違えていたら確実に今命はなかっただろうと思いながら。



結論:カラコンがずれてちょっと痛かっただけ



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