黎明の刻 | ナノ


 島原一騒動



※京都弁が壊滅してます
 最後の方にR-15くらいの表現があるので注意




「……これが京都守護職が後ろ盾につく条件ですか」

目の前に置かれた小瓶に入っている赤い液体。まるで血を連想させるそれからは嫌な感覚しかしない。それ以前に生理的に、本能的に思った―――これに関わってはいけないと。あからさまに嫌な顔をした雅人を軽く睨むと、新見はすぐにまた外面のよい表情に戻し、医者の風体をした男に「雪村先生、それではお願いいたしますよ」と言った。雪村と呼ばれた医者はこちらこそ、と何を考えているのか分からない表情で応じる。

「芹沢さんはそれでいいんですか」
「………」

答えない。今回ばかりは芹沢さんの力を持ってしてもこの条件を受け入れる意外道が無かったのだろう。ともなると後ろ盾のない、ただ飯食らいでしかない我々は江戸に帰るしか選択肢が残されなくなってしまう。ここにいる誰もがそれは避けたかった、芹沢さんでさえもそれは例外ではない。この人が是と言ったなら自分に反対する力はない。どんどん進んでいく話に、とにかく嫌な予感しかしなかった。







京都残留の許可、及び会津藩が後ろ盾になってくれるということで、近藤さん筆頭に皆喜びで沸いていた。これでようやく大義名分というやつが出来たのだ。俺はそのうち芹沢さんが許可さえ出せばいつでもここを出て行く余所者だが、その喜びようには一緒にいるこっちまで嬉しくなるようだと龍之介は思った。しかしそんな空気をぶち壊すように聞こえよがしに新見さんが告げた。

「やはりこれも芹沢先生がいらしたからこそですよね、先生の卓越した政治見識や持論を聞いて是非ともと頼まれたくらいですよ」
「全く、大袈裟な」

と言いつつ、芹沢さんも満更でないようだ。

「いいえ、芹沢さんを中心に隊を取りまとめるのならば残留許可を出すと言っていたではありませんか」
「……嘘付け」
「ん?何か言ったか?」
「いや何も」

隣に座っていた白鳥がぼそりと何か言っていたような気がするが聞き取れなかった。それにしても折角京都に残れると言うのに嬉しくなさそうである。芹沢さんたちが島原にでも繰り出す雰囲気になり、今夜は静かに蹴られる心配もなく安眠できるぞと安堵していたが、結局永倉に巻き込まれる形となり同行が決定してしまった。まあ他にも平助やら原田、こういうのには来そうに無いと思っていた沖田や斎藤も来るのでまた犬だの何だのと理不尽な扱いを受ける可能性は少しは低いだろう。芹沢さん主催なので当然ながら白鳥もついていくことになる。集まっていた八木邸の広間から出ようとしたところで、不意に後ろにいた白鳥から袖口を掴まれた。

「なんだ?」
「さっさと芹沢さんのご機嫌とってここから出て行った方がいい、取り返しがつかないことになる前に」
「………?」

それだけ言うと俺を追い抜いて先に出て行ってしまった。そりゃ一刻でも早くここから出て行きたいに決まっている。が、取り返しがつかなくなるってどいういうことだ?と考えても全く思い当たらなかった。







「貴様、舞妓の分際でその口の利き方はなんだ!何様のつもりだ!」

宴も酣となったとなったころ、突然響き渡った怒鳴り声に場が静まり返った。何ごとかと思い、声のした方を見てみると芹沢さんが一人の舞妓を睨みつけていた。

「何様のつもりや、言われたかてうちは思うたことをそのまま言っただけどす」

歳は自分と対して変わらない、しかし凜と強さを見せる声色で芹沢さんに言い返す少女。それにしても芹沢さんに対して威張り散らすな、と言った時には肝が冷えた。おいおい何を考えているんだ、相手は不逞浪士なんかよりも厄介な芹沢さんなんだぞ。常識なんて母親の腹の中に置いてきたような人なんだぞ。流石に見かねて、というか今にも芹沢さんがその子に暴力を振るいそうだったので止めに入ろうとした。

「せ、芹沢さん落ち着けって!間に受けても仕方ないだろ……いって!!」
「ええい、五月蝿い!」

不機嫌度最高の芹沢さんを止めることなんて出来ず、鉄扇で殴られてしまった。じんじんと鈍く痛い。そんな様子を目の前で見ていて普通なら血相変えて謝る筈なのに、寧ろ周りにいた他の舞妓が一生懸命場を収めようとしているのに、頑固なのか意地なのか絶対に謝ろうとしない。そんな気丈な様子に芹沢さんの目の色が変わった。近くにあった盃を手に取り、舞妓の額めがけて投げつける。あんなんもろに当たったら痛いじゃ済まないぞ!?と止めに入ろうとする。しかし投げられた盃は少女の額には当たらず、その前に立ったやつの腕にぶつかり、床に落ちた。

「芹沢さん、これ以上騒がないでもらえますか。浪士組の京都での評判を下げる行為は謹んでください」
「お前、俺に意見するつもりか」
「はい」

舞妓の前に庇うように立った白鳥は芹沢さんに一切物怖じせずにきっぱりと言い放った。

「……ほお、今夜は痛い目に遭いたいようだな」
「帰ってからのことはいくらでもどうぞ。とにかく今は引いてください」
「いいだろう、今の言葉忘れるなよ」

なんだか、今の会話に違和感を感じた。何と言えばいいのか分からない、敢えて表現するなら芹沢さんの言い方が妙に色を帯びていたというか。周りは皆どうにか場が収まったことに安堵していて違和感を感じたのは俺だけだったようだが。結局結構な騒ぎになってしまったので、近藤さんや土方さんの耳にも入ることになる。他の舞妓に連れられて足早にそこから立ち去るさっきの命知らずな舞妓を追いかけると声をかけた。

「なあ、大丈夫か?」

白鳥のおかげで目に見える怪我はしていないが、気丈に振る舞っていてもあの人に睨まれて怒鳴られれば怖いだろう。少女は立ち止まって振り向くと、相変わらず凛とした声色で言った。―――偉い武士なんて、大嫌いやと。

「そやけどもお侍はんには感謝しとります」

代わりにお礼を言うて下さると嬉しいどす、と言うとほんの少し顔を赤らめて少女はどこかへ行ってしまった。これは、もしかして。

「ありゃ雅人の奴に惚れたな」

いつの間にか横にいた原田がにやりと笑った。








「……う、く……っ!」
「久しぶりだな、お前が俺に楯突くのは」

暴力的な行為が行われながら、覆いかぶさる男の口調は楽しげだった。ぐっと唇を噛み締めて声が漏れないようにする、前川邸には自分達の他に新見や龍之介もいる。平間は長い付き合いで知っているから別にいいとしても、それ以外に知られるわけにはいかない。そんな様子を芹沢さんは寧ろ楽しんでいるようだった。声を出させようと攻め立てる。しかしこっちにも意地がある。

「あの犬が気に入ったのか?しかしあの薄汚い犬はお前には勿体無いだろう」
「んん……っ!」

衝撃が身体を襲い、もう限界が近いことを訴えていた。

「俺が一から躾けた、お前にはな」









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