八万企画
籠の中の鳥




いつから私達の関係はこうも歪んでしまったのだろう。
雪男も悪魔の力に目覚めた時?サタンを倒した時?獅郎さんが亡くなって燐が悪魔として覚醒した時?それとも、私達が出会ったその時?……今となってはもうわからない。
二人によって半強制的に悪魔落ちさせられたこの身体、最後の最後に人間であることを諦めてしまったのは死への恐怖という己の弱さ故か。ゲヘナに連れてこられてかなりの時が経った。とは言ってもゲヘナには昼も夜もなくひたすら荒れた土地を悪魔が行き交うだけの世界なので正確にどれほどの時間が経過したのか私に知るすべはない。
聖十字騎士団のバチカン本部がある、カトリック協会総本山。物質界で最も神聖な場所と鏡合わせで反対の世界に悪魔の王の居城があるなど誰も知らないだろう。バチカンのお偉いさんが聞いた日にはショック死するかもしれないな、なんて冗談で笑えるくらいまだ私は大丈夫だと言えるのかもしれない。

「ただいま、姉さん」
「今日はいい子にしてたな、名前姉さん」

その悪魔の居城の最上階、他の悪魔が誰も近寄らない小さな小部屋に私は監禁されていた。部屋の中は自由に動き回れるし不自由はないのだから正確には軟禁と言ったほうがいいかもしれないが。サタンの後を継いでゲヘナを統べる王となった燐、そして燐を補佐する立場にある雪男。忙しい身でありながら毎日ここへと通ってくる。そして毎日囁くのだ――――愛していると。
彼等は私に依存している。昔から懐かれてはいたがまさかここまでとは思わなかった、と二人の兄にあたるメフィスト・フェレスに言えば一笑された。気づいていなかったのは貴女だけですよ、と。そんなフェレス卿に最後に会ったのもいつだったか思い出せない。

「良かった、今日も姉さんは綺麗だね」
「当たり前だろ、俺等の姉さんなんだから」

正直、二人とまともに会話が噛み合っている気がしない。いつからなのか、彼等がおかしくなったのはと回想に想いを馳せてみる。
私と奥村兄弟の間に血のつながりはない。二人が生まれる前に既に獅郎さんに引き取られて孤児だった私は修道院で生活していた。後に青い夜と呼ばれた夜のことも朧げながら記憶に残っている、偶然目にしてしまった青い炎を難しい顔をした獅郎さんに「絶対に他の人には言うなよ」と約束した覚えがある。
時は経ち、双子が十五歳のとき最初に燐が覚醒し、サタンから燐を守るために獅郎さんが命を落とした。お墓の前で静かに泣いていた私を辛そうに見ていた燐の視線が印象に残っている。

「大丈夫、俺が絶対に守るから」

まだ悪魔という存在を理解していなかった私には、何から?と聞くことは出来なかった。
事態が大きく変動したのはそれから数ヶ月のことだった。雪男が遅れて覚醒したと同時に突然物質界に攻め込んできた悪魔の軍勢。私自身も悪魔に襲われて魔障を負い、悪魔が見えるようになった。そして最終的に燐と雪男は力を合わせてサタンを討ち滅ぼした。
ようやく世界に平和が訪れた、がそれも長くは続かなかった。八候王のアスタロトを名乗る悪魔がこのまま新たな悪魔の王が決まらなければ、朧げながらも絶対だったサタンの統率が崩れ悪魔達が一斉に物質界を襲うでしょうと。どうか早急にサタン様の後継とおなりくださいと。いろいろと揉めたが、最終的に二人がゲヘナに行って王となり物質界と平和の公約を結ぶことで収束した。

「二人共頑張ってね、離れていても姉弟だから」
「何言ってるの?姉さん」
「名前姉さんも一緒に行くに決まっているだろ?」

昔から懐きすぎというか、依存されているような気はしていた。だからまさか交換条件として私を連れて行くなんて言い出すとは思わなかったのだ。そして世界の平和と均衡のために聖十字騎士団もそれを許可した。
勿論嫌だと抵抗した。魔障を負いはしたが、普通に生きて恋をして結婚することを夢見ていたのに。でも抵抗虚しく二人に身体を暴かれた挙句、めでたく悪魔となったわけだ。

「大丈夫、俺達とずっと一緒だから」
「そうだよ、邪魔する奴なんて誰もいない」

きっと何百年経っても双子から逃れられる日は来ないのだろう。
降り注ぐキスの雨に、諦めの息を吐いた。






なんか妙に淡々としてますがもっとドロドロでエロい感じなんじゃないかと思います。シスコンの双子がタッグを組むと怖いっす。
リクエスト遅くなってしまってすみません!光様ありがとうございました。
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