八万企画
悪夢



※死ネタっぽい描写があります





夢を見る。
夢の中の自分はゆっくりと横になっている名前の身体の上にのしかかり、その白く細い首に指を絡ませる。
少しずつ力を入れていくにつれて名前の表情が苦悶に歪むが一切力を弛めることはない。
名前の口が僅かに開き言葉を紬ぐ―――「どうして?」と。
やがて彼女の命が尽きたところで急速に夜の意識は引き戻される。

「……また、この夢か」

彼女を殺さない限りこの悪夢から覚めることはない、段々と慣れてきてああまたかと諦めて指先に力を込めた。






「夜さん大丈夫ですか?顔色悪いみたいですけど」

一緒の任務につくことになった名前が心配そうに声をかけてきた。
基本的に生粋の悪魔が人間の皮を被っただけの存在である夜が一般の祓魔師とチームを組むことは少ない、というか滅多にない。
何故なら祓魔師とはチームの信頼と連携が何よりも大事だからだ。
故に上級祓魔師とはいえ悪魔に背中を預けるなど普通の神経ではとても無理だ、ふとしたきっかけで疑心暗鬼になり共倒れなんてことにもなりかねない。
しかし名前は変わった女性だった。
偶然にも彼女の知り合いである青焔魔の息子、奥村燐と夜の顔が他人の空似というにはあまりにも似ていたので、夜を燐と間違えたのが最初の出逢いである。

「え、ちょっ、なんで燐がここにいるの?」

とその時の名前の慌てぶりとパニクり具合と言ったら、今思い出しても面白い。
聞いた話ではその当時若君もとい、奥村燐は自分が悪魔それも青焔魔の血を受け継いでいることはおろか弟や友人が祓魔師となっていることも全く知らなかったのだから無理もないか。
どうやらそれはあのピエロのような日本支部長、メフィスト・フェレスの差し金だったようでそれからというもの、以前は一人で悪魔討伐に向かっていたのを下二級祓魔師名前をアシスタントにつけてきた。
どうせ面白そうだとかそんな理由だろう、いくら知り合いと同じ顔だからといって悪魔と組むなんて本人も嫌だと言うに決まっていると思っていた夜だったが、予想外なことにそれ以降も積極的に夜と組むし親しくしてくれている。
悪魔という存在である以上仕方のないことだが、これまで自分に優しくしてくれていたのは、そもそも夜に同族殺しを決意させた原因とも言える女性、最中以外に出会ったことがないので衝撃を受けなかったと言えば嘘になる。
それがやがて好意へと変化していくのも無理からぬことであった。

「最近夢見が悪いんだよ」
「どんな夢を見るんですか?」
「人を殺す夢」

言ってからしまったと思った。
さすがにお前をとは言わなかったがただでさえ悪魔が人を殺す夢なんて見たら殺人衝動が生じたと思われるかもしれない。

「んー、ネガティブな夢って意外とポジティブなことを暗示しているって言いますよね。例えば落下する夢は上昇を暗示しているみたいですよ」
「へえ、そうなのか」
「私結構占いって好きで以前一時期夢占いにはまってたこともあります」

全く気にも留めていない様子の名前。
以前若君の弟も言っていたがこの子はもっと危機感というものを持つべきだと思う。
夢の中とはいえ俺は彼女を何回も何回も殺しているというのに―――。







「………か、は……っ」

名前の肺が酸素を欲して足掻く。
虚ろに開かれた瞳は次第に濁りを帯びていく。
あまりに生々しい場景にこれがもう現実の出来事なのではないか、という錯覚にさえ陥ってくる。

―――そうだ、俺は何て思っていた?
彼女を手に入れたい、自分のモノにしてしまいたい。
それなら殺してしまえばいい、そうすれば彼女は永遠に今のまま手に入れられる。

まさに悪魔の甘言というべきか、悪魔としての欲求が理性へと語りかける。
しかしこれは夢だ、そのうち覚めるだろう。
もうそろそろだ、そろそろ目の前の名前は息絶えても現実の名前がいる。
一際力を込めて首を絞めると名前は小さく、ほんの僅かだが口を開き。

―――す、き。

「………は?」

今この子はなんて言った?
見間違いでなければ確かに好きと言った筈だ。
いや、そんなわけがあるか。
今までの夢ではいずれも最終的に憎悪のこもった目で見られ、赦さないなんて言葉も聞いた。
これは都合の良い夢だ。
ただの紛い物だ。
そんなものは……早く消えて無くなれ。

「ハアハア……!」

やがていつものようにぴくりとも動かなくなった名前の首から手を離す。
夢なのかと首を傾げたくなるくらいドクンドクンと刀に封じた心臓が音をたて、呼吸は荒い。
さあ夢よ終われ、目が覚めろ。
……しかし通常ならばとうに目覚めているはずなのに気配を見せない、寧ろどんどん現実味さえ感じてくる。

「これは夢なんだ、夢」

どうして、何故。
目覚めの時は訪れない。






ヤンデレっていうか、世にも奇妙な〜みたいな話になりました(笑)
すみませんご期待に沿えてないと思いますっ!
最終的にどうだったのかはご想像にお任せしますということで。
この度は唯様、リクエストありがとうございました!
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -