八万企画
翼をもいでしまおうか



※悪魔やら青い炎は洒落にならないのでどっかいきました(^o^≡^o^)



「じゃあ名前、これからよろしくな!」

私と奥村燐はいわゆる幼馴染というか、幼友達という奴だ。
といっても、燐の双子である奥村雪男の方とはあまり親しくなく、あくまで兄貴だけ。
単に同じクラスで隣の席になったというところからのきっかけだが、不良だの悪魔だの言われているかと思えば全然、頭悪くて単細胞で怪力なだけだ(と言ったら、そりゃ事実だけどよ……と傷ついていた)
私もクラスで所謂女子のグループに入らない、要は浮いていた生徒でそのせいもあったかもしれない。
そんなこんなで仲良くなったというわけだ。
話は冒頭の燐の台詞に戻り、何がよろしくなのかと言えば今日から私が一人暮らしするマンションに一緒に住むことになったのだ。
勘違いしてほしくないが、これは実は燐と付き合っていて同棲です☆なんてふざけたことではなく、下宿である。
というのも、この春から超進学校に入学する弟に対して自宅である修道院からそれなりに離れた料亭に弟子入りすることになった燐だったが、運悪くその料亭に住める部屋がなくアパートを探していたが手頃なのも無かったらしい。

「名前頼む!俺をしばらくここに置いてくれ!アパート見つかるまで、家事するから!」

と、土下座までして頼み込んできたので仕方なく了承してやっただけだ。
私のことは燐の養父さんも知っていて、申し訳ないが頼むと電話までもらってしまった。
まあ燐の料理の腕を知っている身としては、毎日食べられるとあれば、弟と別の自宅から離れた高校に通うことが決まって一人暮らし決定の身としては、美味しい話だったりする。
今にして思えばとんでもないことだったのだが。



「なあ、今日学校ねーし俺も休みだしどっかに出かけね?」
「んー、今日はゆっくりしてたかったんだけど」
「俺昨日、先輩の料理人にメッフィーランドの一日券もらってさ。ちょうどいいから一緒に行こうぜ」
「別にいいけど」

毎月の仕送りが親から出ているとはいえ、一人暮らしは意外と物要りでお金も必要なので学校の後にバイトもしている、結構夜遅くまで。
最初はバイトに難色を示した燐だったが(お前は私のお母さんか)結局渋々ながら折れて、帰宅後に食べれるようにと夕食まで用意してくれている、お前は私の妻か。
なので完全休日で家でだらだらしたいなー、と思っていたのだが燐の子供みたいなきらきらした目に仕方ないかと溜息をつく。
しかし、メッフィーランドなんてあんなデートスポット行って楽しいものかね。

「それより昨日燐の部屋入ったけど汚すぎ。片付けちゃんとしてよ、無理なら私があげようか?」
「だ、駄目!絶対駄目だ!俺がやるから入るなよ!?」
「はいはい、っていうか家主私なんだけどね。燐少年もお年頃だからそーゆー本隠してても仕方ないか」
「ん、んなわけねーだろ!」

最初に2LDKの部屋を借りて一部屋もて余してはいたが今や完全に燐の部屋である、まあいいんだけど。



スウェットのまま出かけるわけにもいかないので適当に私服に着替えると、既に準備を済ませて待っている燐と駅へ向かう。
そこから電車に揺られること数駅、奇抜なカラーがトレードマークの遊園地、メッフィーランドに到着だ。
休日の昼間なんて予想通り家族連れかカップルしかいない、まさにリア充の巣窟。

「あ、名前ちゃんやん」
「そういう志摩は両頬を真っ赤に腫らして一人でなにしてんのよ」

ランドの全体案内図を見て何に乗ろうかと相談(二人とも激しいのが好きなので必然的に絶叫系になりかけていた)していたところで聞き覚えのある声に呼ばれて振り向けば、明るいピンクの髪の毛。
普段から目に悪い配色をしている同じバイト先の知り合いだがこんなところに一人でほっつき歩いているなんて珍しい。
大抵女の子と一緒なのだが。

「アハハ……ダブルブッキングしてしまいまして」
「で、両方の女の子に殴られたってわけね。二股サイテー、自業自得」
「相変わらずの手厳しさですわ……」

心底呆れた目で見てやれば面目無い……と乾いた笑いを返してくる、どうせ数日後にはまた別な子とデートしてるんだろうけど。
そこで燐の存在に気づいていた志摩は「そっちこそ彼氏いたなんて知らんかったわー」とニヤケ顔で聞いてくる。

「違うわよ、居候兼友達」
「居候の方が先に来るのかよー」
「そりゃそうでしょ。燐、こっちは同じバイトの同僚の志摩廉造。チャラ男よ」
「チャラ男って……ともかくはじめまして、志摩廉造言います」

そう言って苦笑しながらに差し出そうとした志摩の手が、不意にぴたりと止まる。

「志摩?どうかした?」
「………ああ、いや、何でもあらへん」

燐の方を見ると、ニコニコと家族とか親しい人限定ではあるがいつもの人懐っこい笑みを浮かべてる。
しかし志摩はと言えばいつものへらへらした表情はどこへやら、眉を寄せて難しい顔をしてる、どうしたこいつ。

「どうかした?」
「いや……、……気のせいやと思いますわ」
「?何が」

何やら含みのある風に言われるが、聞き返せばなんでもないという。

「なあなあ、名前そろそろ行こうぜ」
「ん、そうだね」

当然だがこのまま帰るという志摩と別れて歩き出す、結構賑わっているから早めに並ばないと乗れるアトラクションがあまりないかもしれない。

「……なあ、名前」
「なに?」

不意に燐の声のトーンが落ちる。
前を行く燐の顔は見えない。

「さっきの志摩、ってさ……名前と仲良いのか?」
「ただのバイト先の知り合いよ。あんな感じで誰にでもフレンドリーだからちょっと話すだけ」
「……そっか」

こっちも何やら引っかかる物言いだ。
何なんだろうなーと思いつつも、すぐにいつものトーンであっちのジェットコースター乗ろうぜ!と元気に駆け出す燐に苦笑しつつ、追いかけて行ったのだった。




それから数日後、バイトもなく学校の授業は午前上がりで家に一人でいると不意に携帯にメールがきた。
ちなみに燐は普通にお勤めの時間だ、今の時期は宴会の仕出しやらで忙しいらしい。
差出人は志摩だ。

件名:今一人?どこにおるん?

内容なし。
お前は私の彼氏かと突っ込みたくなる。
何なんだと思いつつも家で一人とメールを返すと、数分もしないうちに今度は電話がかかってきた。

「もしもし?」
『奥村くんは近くにおらへんですよね?』
「まだ仕事だけど、燐に何か用?」
『いや、こういうことを言うのはどうかと思うんやけど……なんと言うか、その』
「何?歯切れ悪いからもっとちゃんとはっきり言ってよ」
『じゃあ言いますけど、どう見てもあれは普通じゃあらへん』

普通じゃない?
もしかしたら志摩は昔、燐が悪魔と呼ばれて怖がられていたことを知っていて言ったのかと思ったが違うようだ。
じゃあ何がおかしいというのか。

「燐のどこが普通じゃないって?」
『本当に気づいてはらないんですか?あないな――』


「誰と話してんだ、名前」


背後から抑揚のない声がかかって振り返れば、そこには燐がいた。
いつもの燐らしくない、感情のないまるで能面ような表情で冷たく見ている。
その言い知れぬ怖さに固まっているとタッと私のところに近づくと手から携帯を抜き取りぶつ、と電源ボタンを切った。
あとはツーツーと無機質な音が聞こえてくるのみ。
どくんと嫌な鼓動がして、じわりと嫌な汗が流れる。

「なあ」

燐の声が今まで聞いたことのないくらい冷たい声で。

「俺が、何だって?」

そう訊ねる燐は、口許に笑みを浮かべているけど目が全然笑ってない。
鳥肌が立って、嫌なほど心臓がバクバクいってんのがわかる。
不意にが踵を返すと、台所へ向かっていった。
その動きに視線が逸らせない。
燐は冷蔵庫を開けながら、まるで何事もなかったかのように問いかけた。

「晩飯何にするか?」
「え、あ……」

唐突な話題変換についていけなくない、でも燐の声はまださっきから全く変わらない。
そのまま私に背を向けて言う。

「志摩ってさぁ……何考えてんだろうな。俺の名前に余計なことばっか吹き込んでさぁ……名前は、俺だけの名前だよな?それに俺、名前のためならなんでも出来る。だって名前が大好きだから」

ああ、これが恐怖というものか――。
矢継ぎ早に告げられる言葉の中には愛を告げるものもあったのに、嬉しいとか驚くとかいう感情はなくてただ怖かった。
とにかく逃げたくて、踵を返して近くの部屋に逃げ込んだ。
ドクドクドクドク、鼓動が打って、足が震える。
扉を閉めて鍵をかけたと同時に気づく、ここは燐が使っている部屋だと。

「何で逃げるんだ?」
「っ……」

聞こえてくる声と、どんどんと扉を叩く音が怖い。
後ろに下がってると不意に足元に何かがぶつかった。
段々暗い中でも見えてきてそれを拾い上げるとアルバムのようで、開いてみると不揃いな大きさの切り抜き写真がべたべたと貼ってあった。

「……っ……なに、これ!」

一ページに隙間なんてないくらい何十枚も、余白を埋め尽くすように貼り付けられてるそれらに写ってるのは、全部――――私だった。
カメラに向いてるものもあれば、遠くから取ったもの。
何ページも何ページも、どのページも私の写真で埋め尽くされていた。
漸く燐が私を部屋に入れたがらなかった理由が判明したが、怖いなんてものじゃない、これはいわゆる……。
その時、バァン!と激しい音がして鍵がかかって開かない筈のドアが開いていた。
リビングの明かりが暗い部屋を照らしている。
そうだ、燐が怪力だということを失念していた。

「どうして逃げるんだ?志摩に何吹き込まれたんだよ。俺はこんなにも名前が好きで、好きで、好きで好きで好きで好きで好きで好きで好きで……大好きでたまらないのに。毎日毎日、名前だけを見続けてきたのにさ」
「……っ……」
「なのに名前は逃げるんだ……?もしかして俺が怖いのか?……怖いわけねえよなぁっ!!」
「――ひっ!!」

リビングの明かりに反射してキラリと何かが光ったかと思えば、喉元に冷たい感触。
それは台所に置かれていた包丁で、喉に刃物を突き付けられていると理解した瞬間、ひきつった声が漏れた。
頭の中が真っ白になって涙が滲んでくる。
目の前でにっこり笑顔を浮かべてる燐。

「俺、名前が大好きだよ。大好き、でも名前があんまりにもひどいこと言ったら……ショックで何するかわかんねえんだ」
「……り、ん」
「あ、安心してくれよ。殺したりなんかしないぜ?だってそしたら名前がいなくなっちまうし……でも俺の前から消えてしまうのも堪えられないから……」

包丁はそのままに右手で足首を掴む。
そのあまりの力の強さにぞっとした、折られるのではないかと。

「足が使えなかったらどこにもいかないよな?大丈夫、世話なら俺がしてあげる」

おかしい、おかしい。
どうしてこうなった、燐は大切な友達だと思っていたのに。

「名前、愛してる」






イメージとしては某ヤンデレ妹CDです(笑)
ジャケットの包丁持った妹を燐に差し替えていただく感じで。
秋月様、リクエストありがとうございました!
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -