八万企画
もう逃げられない








頭が痛い……身体中がぎしぎしと軋んで悲鳴を上げていた。
しかし身体を起こそうにもまともに起こせず、不思議に思って手足を動かそうとしてじゃらりという耳障りな音に一気に覚醒を促された。

「――……」

両腕、両足には鉄製の手枷足枷。
そこから伸びる鎖はこれまた鉄製の重苦しい机の脚に繋がっていて下手に動いて外そうとするのは得策ではないだろう。
目覚めてからNは一切の抵抗を示さず大人しくしていたので手首も足首も怪我はしていない。
何故ならそんなことをしても意味がないとわかっていたから。

(嗚呼……、これは僕が名前にしたことと全く同じだ)

それならもうすぐ名前は食事を持ってここへくるだろう。
そしてニコリと笑っていうのだ―――いい子にしてた?と。
嫌だとかここから逃げ出したいなんて感情は全く湧いてこない。
この状況こそが自分が望んでいた最上級なのだから。




そもそも事の発端は二ヶ月程前に遡る。
とある街で出逢ったNと名前は所謂両想い、互いに好き合ってはいるがそれ以上の関係にはならず友人として接してきた。
友達という存在自体、ポケモンをトモダチと呼び慕ってきたNには初めての体験だった。
恋なんて言葉は知らなかった。
ただ名前を失いたくない、いなくなってしまったらどうしようという激しい恋慕と不安、そして自分だけのものでいてほしいという独占欲だけが無意識に膨らんでいった。
それがある日爆発する事件が起こった。
事件と呼ぶには本当に些細な、なんてことない出来事だったのに、それが全てを狂わせてしまった。
いつも彼女がいる場所へ向かうと、そこには先客がいた。
しかも二人ですごく楽しそうに話していた。
それから暫く動けなかった。
名前にとって僕は唯一ではないのか、友達じゃないのか……。
いいや、そんな筈はない。

「名前は、ボクだけのものだ……!」

友達という言葉を履き違えている、とNに教えてくれる人などいなかった。



「N……これは、何?」

目覚めて名前は自分の置かれている状況に唖然としていた。
身体の自由が利かない、動こうとすればガチャガチャと鎖が不気味な音を立てて皮膚を傷つける。

「大丈夫、ここにいればもう君は他の人間と関わることもない。僕とだけ一緒にいれればいい」
「何言ってるの?早く帰らないと……」
「……ッ」

パシン、乾いた音が響いた。
僕は初めて名前に手を上げた。
信じられないと、茫然とした顔で見上げる名前にジワリと心の奥底から嬉しさが込み上げてくる。
見たことがない彼女の新たな一面をどんどん見たい、どんな顔をして泣くのか、苦しむのか……。
気づいた時にはその細くて白い首に手をかけていた。
軽く力をかけてやるだけで締まり、苦しげな息を漏らす。

「ゲホッゲホッ……!」

もうすぐ意識が遠のくという寸前で手を離せば盛大に咽て、キッと目に涙を浮かべながら睨みあげる。
裏切られたとでも思っているのだろうか。
これも始めてみる怒の表情。
もっともっと、もっと……!




それから僕は名前にあらゆる苦痛を与え続けた。
閉鎖された空間で繋がれて、精神はどんどん病んでいったに違いない。
日に日に怒り、恨み、憎しみという負の感情で見られる度に笑みが自分の顔に浮かぶのが分かった。
親愛なんて、友情なんて不確かな繋がりは欲しくない。
もっと強固なものが、欲しい。
そしてある日、何の前置きもなく名前を解放した。
突然の出来事に戸惑いつつも逃げるようにどこかへ去っていく後姿を見送りながらNは確信していた、彼女は必ず帰ってくると。





「ねえ、どういう気分?自分がやったことをやり返されるのは」

名前は笑っていた。
恨みを晴らせていることを心底喜んでいるように。

「まだ終わってないよ、まだ解放なんてしてやらない」

解放?そんなもの望んでいるわけがないじゃないか。
君が自ら欲して僕を傍に縛り付ける、そんな最高の状況を嫌だなんて思うはずがない。

そう、知らず知らずのうちに君は僕に絡めとられて

――――――逃げられない。







どうしてこうなった\(^o^)/
これだとNさんがレベルの高いドMみたい……げふんげふん。
N様による首絞めもしくは女主がNを溺愛して監禁というリクエストですが、両方入れようとして片方真逆になりました、すみません!
美里様、リクエストありがとうございました!
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